631.またまた真ん中山レストランとニワトリたちの疑惑

「山の上ってやっぱり涼しいねー」


 軽トラから下りて、桂木妹が大きく伸びをした。

 そうして軽トラの後ろに回る。テキパキと作業をし、ドラゴンさんがスムーズに下りられる準備をしていた。いろいろ気が付く娘なんだよなと感心してしまう。

 山唐さんの奥さんが「いらっしゃ~い」と出てきて、うちのニワトリたち、ドラゴンさんも先に降ろして待たせていてほしいと伝えてくれた。山唐さんに聞いてもらう間ニワトリたちを軽トラに納めておくのも難しいので助かった。

 ポチとかいつもまだかまだかと言うように荷台で身体を揺らしていたりする。どんだけ落ち着かないんだよ。あんまり揺れてるとタマにつつかれたりもするからたいへんだ。


「降りていいってさ。でもここらへんにいてくれよ」


 ニワトリたちに伝えるとポチタマは危なげなく軽トラの荷台からバサバサと跳び下りた。必ずポチが先に降りるのは、そういう取り決めでもあるんだろうか。

 助手席のドアを開けてメイを抱っこして降ろす。ユマは自分で降りるかなと思ったけど待っていたので抱っこして降ろした。ニワトリって体温高いから暑いんだけど、ユマはいくら抱っこしててもいいような気になる。俺、ユマのこと好きすぎじゃね?


「アリガトー」


 降ろすとユマが礼を言う。すでにポチタマのところへ移動していたメイも、思い出したように振り向き、ココッと鳴いた。一応お礼のつもりなのかな。

 うちのニワトリたちがかわいすぎる。


「かわいい~」

「……和みますね」


 お互い距離を2mぐらい開けて、桂木妹と相川さんが何やら言っていた。桂木さんはドラゴンさんの側にいる。レストランの入口からトラネコが出てきた。

 に゛ゃ~とだみ声で鳴く。見た目それなりにでかいトラなんだけど、この鳴き声で気が抜けるんだよな。かわいいもんだ。

 よく見るとまだ顔も幼いかんじがする。でもいきなり出てきたらびっくりするだろうなと思う。山唐さんと奥さんが言うことには、トラネコは猫らしい。日本に虎は生息していないはずだから、屋台で買ったと言われても猫なんだろう。うん、これも考えたら負けだ。


「こんにちは、こちらまで来ていただきありがとうございます。中へどうぞ」


 山唐さんが出てきて俺たちをレストランの中へ促した。山唐さんは外に残ってうちのニワトリたちやドラゴンさん、トラネコに話をするのだろう。どんな話をするんだろうな。

 奥さんに席へ案内されて腰掛ける。

 先にジャスミンティーとピーナッツを揚げたもの、ブラウンエノキの和え物と、きゅうりのたたき(にんにくのみじん切りあえ)が出てきた。


「すぐに終わると思いますので少しお待ちください」


 にこやかに言われて俺たちも笑顔になる。ちょっとした前菜なのだろうが、ここからして中華だ。シカをどのように調理してくれるのか楽しみでしかたない。

 そう経たないうちに山唐さんが戻ってきた。


「すみません、お待たせしました。今日は狩りをしないこと、佐野さんも伝えて下さっていたんですね。ありがとうございます」

「いえ……先日三頭も狩ってきましたし……」


 あれ以上狩ってこられても困るだろう。解体はそれほど問題ないかもしれないが、今は夏だし。恒温動物は腐敗が早いしな。


「そうですね。あれはなかなかに圧巻でした。ニワトリたちとタツキさんのおかげで良質な肉を手に入れることができました。本当にありがとうございます」


 山唐さんに頭を下げられて、桂木さんと共に慌てた。


「い、いえ……タツキもそうですが、ニワトリちゃんたちが……」

「狩りのしかたを拝見しましたが、なかなか連携が取れていて素晴らしかったです。うちのトラの動きもよく見ていてくれましたし、ニワトリたちとタツキさんはよく一緒に狩りをされているのでしょうか」

「ええ?」

「えええ?」


 思わず桂木さんと顔を見合わせてしまった。昨年はテンさんも一緒にスズメバチ狩りはしたが、それ以外で一緒になることなんかあったかな? 裏山の方へは遊びに行っているから、もしかしたら俺の知らないところで一緒に狩りをしているなんてことはあるかもしれない。


「うーん……俺の知る限りではないですね。桂木さん知ってる?」


 桂木さんも首を振った。


「うちは……夕方には戻ってきますけど基本日中はどこにいるのかわからないので……」

「ではもしかしたらそういうこともあったかもしれませんね」


 山唐さんは笑顔で引き下がった。

 こう考えると、俺って飼主としてはどうなんだろう。でも普通は家族だってみんなの動向を詳しく知っているわけじゃないだろうしな。あ、でもさすがにペットの動向は知ってないとまずいか。

 何をしているのかもう少し詳しく聞いた方がいいのかもしれない。


「今日は沢山シカ料理をお出ししますので、楽しみにしてください」


 山唐さんはそう言って厨房へ消えた。

 それで思い出す。


「あの……ニワトリたちの餌の準備は俺もさせていただきたいんですが」


 前回は奥さんに全部やらせてしまったはずだ。奥さんは首を傾げた。


「? 運んでいくだけですから大丈夫ですよ?」

「うちのニワトリたちなんで、俺に持って行かせてください」

「そうですか? わかりました」


 桂木さんが「私も」と立とうとするのを相川さんが制した。桂木妹が「おねーちゃん」と声をかける。こういうことは男に任せておけばいいのだ。そこらへんの機微はやっぱり桂木妹の方がわかっている。


「ありがとうございます。お願いします」


 桂木さんがはにかんで礼を言う。礼を言われるほどのことじゃない。


「相川さんは座ってていいですよ」

「いえ、タツキさんとトラ君の分は僕が運びますよ」


 そう笑顔で言う。うん、笑顔なんだけど目が笑ってない。桂木姉妹と一緒に残るのは嫌みたいだ。


「じゃあ一緒に持っていきましょうか」


 苦笑して、奥さんからシカの内臓や肉、野菜が入ったボウルを受け取ったのだった。



次の更新は7/11(火)です。1700万PVありがとうございます!


「山暮らし~」3巻の発売日が近づいて参りました。7/10にはまた記念SS上げますね。今回はなんの料理を相川さんに作ってもらおうか。。。


すでに3巻を入荷しているところもあるみたいです。ありがたいことです。

発売日には私も本屋さんへこっそり行って見てくる予定でいます。

いやー、とっても楽しみです!


これからも「山暮らし~」をよろしくお願いします。

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