630.夏の終わりはこう過ごす

 灯台下暗し、なんてよく言ったものだと思う。

 おっちゃんがご近所さんに聞いてくれたおかげで、山唐さんが住んでいる山の南東側にある山の所有者が判明したらしい。

 さすが田舎だなとか、褒めてんだかわからない感想が出た。おっちゃんには言わないけど。

 なんとおっちゃんちの東のお宅の黒瀬さんちが所有しているのだそうだ。

 そういえば最初にニワトリたちが狩ったイノシシを振舞った時、一緒にいたような気がする。おっちゃんの知り合いが多すぎてさっぱりわからないんだよな。名前は聞いた気がしたが、顔が思い出せない。(村の人たちは知り合い同士が多いみたいだ)


「そうだったんですか」

「ああ、今度見に行くなんて言ってたぞ。山唐さんに伝えておけばいいか?」

「あ、はい。お願いします」


 見つかってよかった。もっと早く思い出せばよかったな。無駄に山唐さんを待たせてしまったことを反省した。松山さんの山じゃないかと思った部分も他の人の土地だというし、本当に土地というのは複雑である。

 土地はしっかり確認しておかなければいけないなと改めて思った。

 土地といえば地元で持っている駐車場とマンションの一室もそうだ。九月にまたあっちへ顔を出す必要があるだろう。一応大手の管理会社と契約は成されたからそっちは問題ないのだが、お彼岸ぐらいじいちゃんの墓参りに行きたい。

 墓参りで思い出した。

 表を見れば、ユマとメイが仲良く畑の周りの草をつついていた。


「おーい、ユマ、メイ。墓参りに行くけど一緒に行くか?」

「イクー」


 ココッとすぐに返事があった。うちの山の墓参りも定期的にしておかないとな。


「……また草ぼうぼうだよな……」


 まだまだ暑いからあまり作業はしたくないのだが、ちょっと油断すると雑草でいっぱいになってしまう。カマやビニール袋、そして墓参りの準備をし、ユマとメイを助手席に乗せて墓へ向かった。


「……だから、いつ伸びてるんだっつーの……」


 前回刈ったところはそれほどでもないが、他が元気! と主張している。

 緑色が眩しいぜ。

 墓の周りの雑草を抜きまくり、近くの川で水を汲み、墓を洗ってと手入れをした。


「もうなんかいっそのこと、じいちゃんの墓もこっち持ってきちまいたいなぁ」


 そんなことは絶対できないが。

 そう言いたくなるぐらい身内の墓参りに行っていない。この山に住んでいた人たちのご先祖様の墓参りはそれなりにしているのに。


「ま、無理だよなー」


 たははと笑った。風が変なかんじに吹いた。なんかくるくると小さな竜巻が起こったような、そんなかんじである。おかげで抜いて集めた雑草が飛んで行ってしまった。


「あああっ」


 時々こういうことがある。どこまで飛んでいってしまったんだろう。


「うーん……ポチとタマに影響がないといいんだが……」


 山の中ではなんとも不思議な現象が起こりがちだ。

 日中は暑いが朝晩は少し過ごしやすくなってきた。その分虫除けはかかせない。夏の終わりに蚊の動きが活発化してくるからな。くわれたら痒いし、それだけじゃなくて病気も媒介するから厄介だ。そんなわけで、これからは蚊取り線香を近くでつけながら作業をするようである。蚊取り線香さまさまだ。

 ちなみにうちでは一応ペット用の蚊取り線香を使っている。家の中ではあまり使わないで済んでいるが、外では必須だ。

 参道作りは遅々として進んでいない。

 今日は参道の方にも入れそうなので、そちらで草むしりもしてみた。

 ユマとメイは俺が移動すれば一緒にトトトッと移動してくれる。ちゃんと目の届く位置にいてくれるんだから優しいと思う。

 ココッとメイの声がした。


「ん? わぁっ!?」


 振り向いて驚いた。

 メイが得意気な顔をしてマムシを咥えていた。獲物を見せにきてくれたのだろう。ユマも側にいる。


「マ、マムシを捕ったのか……えらいな、メイ。食べていいぞ」


 ユマとメイは喜んで食べ始めた。

 俺は見なかった。何も見なかった。

 そう思いながら雑草を無心で抜いたのだった。

 それにしても、メイまでマムシを狩るとかどうなってるんだ? やっぱり親が親だからなのか? 育て方の問題だろうかと首を傾げる。

 参道の方も作業をしない間にまた雑草が繁茂していた。


「電動の……持ってきて一度刈払いした方がいいな」


 明日にでも作業しよう。参道の部分は木が生い茂っているので日差しが遮られる。おかげで作業はしやすかった。


「やっぱ、毎日作業しないとだよなー」

「サノー」


 ユマに呼ばれて振り向き、汚れた嘴を拭いてやった。もちろんメイのもである。もうホント、うちのニワトリたちってなんなんだろうな。

 ちなみに、風に巻かれて飛んでいった草はうちの側まで飛んできたらしい。家に戻ると家の側に抜いた草が積み上がっていた。

 ……考えない。考えたら負けた。

 山の神様、いつもありがとうございます。

 山頂に向かって手を合わせ、雑草の処理をした。

 そんなことを数日続けて、すぐにまた山唐さんのところへ向かう日になった。

 今回も相川さん、桂木姉妹が一緒である。桂木姉妹のところはもちろんドラゴンさんも一緒である。

 うちのニワトリたちも全員向かうそうだ。


「シカー」

「シカー」

「シカー」


 ココッ、とみんなシカを食べることしか考えていないのはどうなんだ。


「……今日は狩りはしないからな」


 と言ったらポチがショックを受けたような顔をしていた。なんなんだいったい。一応そこらへんは山唐さんにも確認済だ。いくら冷凍すれば保存がきくとはいっても夏である。必要な量を狩ったら、また必要になってから狩るぐらいがいいみたいだ。

 ちゃんと山唐さんの言うことを聞くように約束させて、またみんなで出かけた。

 今回はシカ料理である。とても楽しみだ。

 しかも山唐さんの料理だ。水餃子が絶品である。シカだとステーキかな?

 あ、想像しただけで涎が……。



次の更新は6日(木)か7日(金)です。よろしくー。

レビューいただきました! ありがとうございます!


三巻発売日まで一週間を切りました。もうどっきどきでございます。

手元にはすでに見本誌が届いております~(笑)

発売日はまた本屋巡りをする予定です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る