629.なんでこうも払わせてもらえないのか

 さて、今回の食事については俺と相川さんで折半したのだが、思っていたよりもずっと安かった。(本当は俺の方が多めに出すつもりだったのに相川さんが折半でなければだめだと譲らなかった)

 思わず山唐さんをじっと見つめてしまったのだが、山唐さんはにこにこしていた。絶対安くしてもらっていると思う。桂木姉妹がいるから言わなかったが、次は多めに払わせてもらいたいものである。

 桂木さんはとても恐縮していた。妹の方は目を丸くして、「おごってくれるの? ありがとー!」と清々しく笑顔で礼を言ってくれた。俺としてはこれぐらいの方が嬉しい。

 しかし俺としてはどうしても払った金額に納得がいかない。


「サノー?」


 ユマとメイは軽トラの助手席部分、ポチタマは荷台に載せて帰路についたが、俺は余程難しい顔をしていたらしい。ユマに心配そうに声をかけられてしまった。


「ん? ああ、なんでもないよ」


 ユマに心配をかけちゃいけないよなと反省した。抗議は帰ってから電話でもすればいいのだ。次は絶対多めに! と内心ぐっと拳を握った。

 しかし俺の希望は聞き届けられなかった。


「佐野さん、シシ肉の大半はうちでいただいているんですよ? 狩ったのはニワトリたちです。あれ以上お金をいただくわけにはいきません」

「で、でも……相川さんも手伝ったわけではないですし、桂木さんたちは一切関わっていないじゃないですか」

「佐野さんたちとはこれからも仲良くしていきたいですから、友人価格ということにしておいてください」

「……友人だったらもっと払わないといけないと思うんですけど……」

「気のせいですよ」


 ああ言えばこう言う。俺よりずっと年上らしい山唐さんにかなうわけはなかったらしい。

 ニワトリたち用にシシ肉も分けてもらってきたのになぁ。どうやってお返しすればいいのだろうか。それこそタマとユマの卵でも提供するしかないのだろうか。

 帰宅は暗くなるぎりぎりだったので、ポチタマも帰ってから遊びに行ったりはしなかった。なので今はみんな土間にいる。俺はちら、とタマユマを見た。タマが何見てんのよッ! と言うように俺をギンッと睨む。ユマはナーニ? と言うようにコキャッと首を傾げた。

 なんでこううちのニワトリたちは反応が違うのかな。睨むことはないと思うんだが。


「タマとユマの卵って、山唐さんにあげてもいいのかな」


 一応聞いてみた。


「イイヨー」

「イイヨー」


 即答だった。

 じゃあ次に行く時二個持って行くことにしよう。朝生んでくれればいいけど、そうでなければ前日のでもいいし。

 一応次に向かう日程も決まっている。

 四日後だ。

 もう八月も終わりだなと改めて遠い目をした。

 ニワトリたちに餌を用意する。今日は昼間いっぱい食べさせてもらったから、夜は養鶏場から買ってきた餌と青菜だけにした。みんなガツガツと食べる姿を見て、大きくなれよーと思ったけど、ほどほどに、と内心付け足した。これ以上縦に横に育ったらたいへんである。

 思い出して、おっちゃんに連絡した。

 忘れないうちに聞いておかないといけない。


「おう、昇平どうした?」


 特に秋本さんからイノシシの解体のことは聞いていないようだった。こういうことって田舎の人はみんな知っているものなんじゃないかと思ったけど、そうでもないらしい。


「今日山唐さんのレストランにお邪魔してきたんですよ」

「おお、よく行ってるな。うめえけどちょっと遠いんだよなぁ」

「そうですよね」


 どうしても山の上まで行かないといけないしな。家事をしてから行くと考えると、食事の為にそこまで時間を使うのもと思ってしまうかもしれない。おばさんの料理、すっごくおいしいしな。


「山唐さんから聞かれたんですけど、どうも西側の山の所有者がわからないらしいんです。できれば所有者を知りたいって言ってて……おっちゃん知らない?」


 電話をしながら、俺の言い方ってがちゃがちゃだなと思った。丁寧語になったりタメっぽくなったりと忙しい。おっちゃんが何も感じてないといいんだが。って今更か。


「山唐さんとこの西側? まっちゃんとこの山じゃねえのか?」

「養鶏場との間に丘みたいな小さい山が二つあって、そのうちの一つがわからないみたいなことを聞きましたよ」

「……この辺は飛び地で土地持ってるのがいるからなぁ。ちょっと聞いてみるわ。案外近所にいるかもしれねえしな」

「お願いします」


 そうなのだ。けっこう土地を続きで持っている家ってそうないのである。どういうわけか知らないが、こことここ、あそことむこうみたいな感じで飛び地で持っている家が多い。うちとか相川さん、桂木さんはまとめて買ったから飛び地ではないが、飛び地だったらとても管理しきれないだろう。今だって裏山は持て余してるのに。


「土地が広いっていいことだと思ったけど、管理はたいへんだよなぁ」


 目の届く範囲ぐらいの土地が一番かもしれないとしみじみ思った。

 ユマが近づいてきて、すりっとすり寄ってくれたのが嬉しい。


「ユマ、ありがとうなー。風呂入ろうか」

「オフロー」


 ココッ! とメイも返事をする。

 ああもうなんてうちのニワトリたちはかわいいのか。

 ニワトリたちには癒されてるよなと改めて思う俺だった。



ーーーーー

次の更新は7/4(火)です。よろしくー


7/1(土)はコミカライズ第六話が公開される予定です。

四話の公開は六話公開の前までですので、もう一度読みたいという方は今のうちにご覧ください。お花見シーンが見られますよー


サポーター連絡:昨日限定近況ノートを上げました。ご確認ください

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