621.どうしても食べたかったらしい?
相川さんと本宮さんの件について話し、落ち着いてから思い出した。
ポチとタマがイノシシーとか言っていたことを。
でもなー。暑い季節だから、腐敗が怖いんだよな。恒温動物は獲ってすぐに冷やさないといけないだろうし。
うん、これは相川さんには伝えない方がいいだろう。ポチとタマが言っていたことは忘れることにしたのだが、なんだか嫌な予感がした。
あれ? 俺、今日は相川さんと出かけること、ポチとタマには知られてないよな?
「佐野さん?」
相川さんに声をかけられてハッとした。
「あ、いえ、その……」
話すことでもないとは思ったが、相川さんに心配そうな目を向けられてしまったので、朝ポチタマとこんな話をしたことをしぶしぶ相川さんに伝えてしまった。俺、意志弱すぎだろ。
相川さんは微妙な顔をした。
「うーん……確かにこの時期に獲ってこられても厄介ですね。すぐ近くで倒してくれるならいいんですけど。ただ、イノシシっておっしゃられていたんですよね?」
「そうなんです」
「ということはイノシシの姿はもう確認されているということですから、いつ狩ってきてもおかしくない状況ではありますね……」
言われてみると確かに、と思った。頼むから止めてくれえええ。
スマホが震えた。さすがにビクッとした。
「え? あ、ちょっとすみません」
相川さんに断ってスマホを確認すると、珍しいことに山唐さんからだった。電話なので急いで取る。
「はい、もしもし?」
「佐野さん、お久しぶりです」
柔らかい、低い声が耳に届いてなんだかほっとしてしまった。なんというか、山唐さんならなんでも大丈夫のような気がしてくるから不思議だ。そういうオーラでも出てんのかな。
「お久しぶりです」
「養鶏場に寄ったついでに佐野さんの山の近くまで来ているのですが、少し寄ってもよろしいですか?」
「あ、はい。それはかまいません。今は相川さんのところにいるので、すぐ戻りますね」
「すみません、では伺います。ああそうだ。できれば相川さんも連れてきていただけませんか」
「あ、はい……」
そう言って電話は切れた。
相川さんもうちに連れてこいってどういうことなんだろう。ぼんやりと思った。
「帰られますか」
「あの、山唐さんからでした。うちの山にいらっしゃるそうなんですけど、相川さんにも来ていただきたいと」
「ああ……そうなんですか。じゃあ向かいましょう」
「リンさんは」
「連れてはいきません。声だけかけていきます」
ユマとメイに声をかけて軽トラに乗せる。相川さんもさっそく来ることになった。
うちの山の麓で、山唐さんの軽トラが待っていた。
「ご無沙汰してます。どうぞ」
「すみません。突然来てしまって。しかも呼び出すような真似をして……お邪魔します」
今日は奥さんとは一緒ではなかったみたいだ。
養鶏場のついでと言っていたけど、養鶏場からここまでもそれなりに距離がある。たまたまなんだろうけど、本当にこれは偶然なんだろうかとも考えてしまった。
なぜなら。
家に戻った時、珍しくタマが帰ってきていたのだ。なんか目つきが怖い。
「え? あれ? タマ、どうしたんだ?」
軽トラを下りてタマの元へ向かうと、タマは俺じゃなくて俺の後ろを見ていた。振り返る。ちょうど山唐さんと相川さんが軽トラから下りたところだった。
山唐さんが悠然と近づいてくる。
「こんにちは、タマさんでしたか。何かありましたか?」
山唐さんはタマを見やった。そういえばポチはどうしたのだろう。
「イノシシー」
「狩られたということですか? 何頭です?」
山唐さんが指を出す。
「一? 二? 三?」
「ニー」
「わかりました。ここでは解体は……」
「……えーと、うちには道具がないです……」
解体用の台とかもない。
というか、イノシシってどういうことなんだってばよ。
「そうですか。では解体の専門業者をできれば呼んでおいてください。タマさん、道案内を頼みます」
そう話している間にも山唐さんは手袋をはめたりロープを持ったりと準備に余念がない。慣れてる動きだなと思った。
「ワカッター」
「行って参ります」
「あ、はい」
山唐さんは当たり前のように走っていくタマを追いかけていった。相川さんと顔を見合わせてから、
「秋本さんに、連絡しないと……」
と呟いた。相川さんがハッとしたように電話をかけた。この暑さでは、時間との勝負だなと思う。
まさか本当にこのタイミングで狩ってくるとか何考えてんだよいったい。そんなにポチタマはイノシシが食いたかったんだろうか。
遠い目をしたかったがそんなヒマはない。
「はい、はい……二頭です。よろしくお願いします」
秋本さんに連絡がついたらしい。それにしてもすごいスピードで駆けていったと思う。あのタマの速さに付いていけるとか、本当に山唐さんて何者なんだろう。
「佐野さん、麓の鍵は……」
「あ。閉めてきてはいないです」
なんか虫の知らせだったのだろうか。いつもならその都度鍵はかけるのに、山唐さんも長居しないだろうと思って鍵をかけなかったのだ。
「じゃあそのまま入ってこれますね」
念の為でかいタライに水を張ったら、メイが当たり前のようにパシャンと浸かった。いや、違う。水浴び用じゃない。
「メーイーッ!」
メイがきょとんとしてココッと鳴いた。ユマが周りでおろおろしている。
相川さんは腹を抱えて笑ってるし、山唐さんはイノシシを二頭抱えて戻ってくるし、ちょうど秋本さんたちが乗った軽トラが着いたし、もうなんというかどうしたらいいのかわからなくなったのだった。
ーーーーー
メイのかわいさよ(笑)
※8:05 すみません。なんか勘違いしていたみたいで書き直しました。申し訳ないです(汗
次の更新は6日(火)です。
1600万PVありがとうございます! またSS書きますねー。
コミカライズ第四話公開中です。活動報告にurlありますのでそちらからどうぞ~
サポーター連絡:昨日月初めの限定近況ノートを上げています。よろしければご確認ください
アルファポリスライト文芸大賞応援ありがとうございました!
引き続きあちらも完結まで書いていきます~
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