620.おいしいごはんとその後の話

 どうしても冷やさないといけないものは特に買ってなかったので、そのまま相川さんの山へ向かった。

 ユマとメイも当然一緒である。

 買った弁当を相川さんちで食べるだけだが、実際にはそれだけではない。本宮さんの件を話してくれるのだろうなということまでは予想がついている。愚痴、なのかな。それぐらいなら聞くけど。

 相川さんちの駐車場に軽トラを停めた。助手席を開けてやる。ユマとメイが自分でトントンッと下りた。そして俺の前に陣取った。

 苦笑する。

 リンさんとは仲がいいはずなのに、こうして守ってくれようとするんだから面白い。

 相川さんに促されて家にお邪魔した。

 もちろんその前にリンさんには、ユマとメイが草や虫をつついていいかどうかは聞いてある。リンさんは「カマワナイ」と返事をしてくれた。テンさんは別の涼しい場所にいるみたいだった。日中は暑いもんな。

 相変わらずのスタイリッシュな土間である。壁の柱のところに付いている竹製の筒にはマリーゴールドが飾られていた。こういうのを見ると、俺の場違い感ハンパない。相川さんも作業着姿なんだけどイケメン補正か作業着がもっとイケてる服のように見えるのが不思議だった。

 って、俺卑屈すぎだろ。

 軽く頭を振ってその考えを追い出した。


「ユマさんとメイさんに野菜を出してもいいですか?」

「すみません。お願いします」


 相川さんは本当に気が利く。俺が言わなくてもユマの分の餌のタライは椅子の上に置いて出してくれたりするんだからさすがだ。


「ありがとうございます」

「いえいえ。いつもお世話になっていますから。あ、お弁当温めますよね?」

「はい、お願いします」


 素直に買ったカツ丼を渡した。サンドイッチもお皿に出してくれるという。相川さんのオカンっぷりが激しい。絶対に言えないけど。

 俺はユマとメイの様子を見ながら、用意されてくるのを待つことにした。つってもすぐに麦茶も漬物も出てきてるんだけどさ。

 漬物うまい。夏はやっぱきゅうりとナスの漬物が特にうまい気がする。


「お待たせしました」


 きゅうりの漬物をポリポリしている間にユマとメイが食べ終えたみたいだった。

 二羽とも表の方をちらちら見てるのがかわいい。


「ありがとうございます。先にユマとメイを外に出させていただいてもいいですか?」

「はい、かまいませんよ」

「いいってさ。リンさんの邪魔はしないようにな」

「ハーイ」


 ココッとメイが返事してくれるのもかわいい。そういえばメイもしゃべるようになんのかな? まだその気配はないけど。

 二羽を表に出し、リンさんはどちらかなと窺った。リンさんは木陰で休んでいるみたいだ。変温動物にはつらいだろう。

 扉は少し開けておく。なにかあった時対処できるようにだ。

 テーブルにはいろいろ乗っかっていた。


「うわぁ……」


 俺のカツ丼は器に盛られてもっとおいしそうに見える。サンドイッチも皿に出されて、その横にはサラダチキンとレタスのサラダが。その他にナスの煮浸し(冷やしてある)、トマトのカプレーゼ、空心菜の炒めなどが並んでいた。


「豪華ですね」

「すみません、全然料理が統一していなくて……」


 相川さんがそう言って苦笑した。統一ってなんだ。どれもおいしいからいいと思う。

 ってことでいただきますをして、あれもこれもいただいた。ホント、一家に一台相川さんだと思う。

 空心菜はニンニク炒めだったのだけど、けっこうさっぱりしていた。カツ丼以外はどれもあっさり目の味付けでいくらでも食べられた。やっぱり相川さんはすごい。


「全部おいしかったです。ごちそうさまでした!」


 手をパンと合わせて食べ終えた。


「おそまつさまでした」


 全然お粗末じゃない。そういう返しだということはわかっているけど、こういうところが日本語はなんだかなとも思う。

 相川さんが皿を片付けて落ち着いてから、水ようかんを持ってきてくれた。もうなんなの、この人なんなの。


「……一応、聞いてもらってもいいですか?」

「あ、はい。どうぞ」


 ここでやっと相川さんが話しづらそうに口を開いた。こんなにごちそうしてもらって聞かないなんてことはできない。


「従弟は昨日帰ったんですけど、それまでにリエさんといろいろ話はしたみたいなんです」

「そう、みたいですね」


 ごみ拾いウォークの後、二人で一緒にいたところを思い出す。


「で、従兄が言うには、リエさんのご両親からも辞める時にちょっとした事情は聞いていたみたいなんですね」

「ああ……」


 さすがに突然辞めるには、ってことだったのかな。


「それで、リエさんが辞めた理由と、今もこちらに来ている理由が合致したらしくてですね……まぁ、弁護士を紹介してくれと従弟に言われまして」

「えええ」

「それはまずいんじゃないかと言ったんですが、あれはあれでかなりやり手なので、その……」

「はい」

「うまくいけば年内にはリエさんを迎えに来るのではないかと……」

「ああ……」


 うん、まぁ桂木妹が幸せになるならそれでいいんじゃないかな。本宮さん、もう上司とバイトの関係じゃないから我慢するのを止めたんだろう。


「もし……従弟とのことで問題が起こるようなら僕が責任取るので……ってこれ、桂木さんには伝えた方がいいですかね?」


 相川さんはへらりと笑った。うん、自分一人で胸の内に留めておくのは嫌だよな。


「……うーん、多少動きがあってからでもいいような気はします。本宮さんと連絡はつくんですよね」

「はい。一応進捗は伝えてくれるそうなので、それで様子を見ますか……」

「ええ、どれぐらいかかるかはまだわからないですよね」

「そうですね」


 二人で嘆息した。

 俺たちには直接関係ないことなのに、なんで相川さんとため息をついているのだろうと思ったらおかしくなった。

 でも、身近な人がそれで幸せになるのならいいと思う。


「お茶、淹れなおしますね」

「おかまいなく」


 虫の声が表から聞こえる。暑い中、ご苦労なことだと思った。



ーーーーー

次の更新は6/1(木)または6/2(金)です。多分6/2になるかしら。

6/1はコミカライズ第四話の更新日ですよーい!



宣伝失礼します。

アルファポリスの第六回ライト文芸大賞に参加しています。

投票期間は5/31までです。


「野良インコと元飼主~山で高校生活送ります~」


不注意で逃がしてしまったオカメインコと主人公が山の高校で再会しました。

そこから始まる青春ストーリーです。

本日51話を更新します。

目つきの悪いオカメインコとなかなか背が伸びない主人公、そして周りの友人たちとともにわちゃわちゃしています。

二学期、サバイバル大会という名の体育祭を開催しまー


「離島~」よりはさくさく進みます。男子校が舞台なのでBL風味ですが、主人公はBLしません。もし興味を持っていただけたら覗いてみてくださいませー。

毎日更新です。

(他社で書いてる話なので直リンクはいたしません。お手数ですが、アルファポリスにて検索をお願いします)

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