619.夏のとっても暑い日は

 それから数日が過ぎた。

 ニワトリたちは今日も元気いっぱいである。

 俺は、さすがに残暑が厳しくて参っている。今年は山の上でも暑い。

 朝晩はいいのだが、日中が困る。いろいろやる気がなくなる。かといって昼間中寝ているのもアレだしなと思いながら洗濯物を干した。うん、今日もよく乾きそうだ。

 あとは夕立を警戒すればいい。

 ニワトリたちはこの暑いのにツッタカターと出かけていく。

 今朝は珍しくタマが近づいてきたと思ったら、


「イノシシー」


 とか言いやがった。


「……暑いからやめてくれ。涼しくなってからにしよう」

「エー」

「エー」


 ポチと一緒になって不満そうな声を出すんじゃない。ユマとメイは別行動のようでほっとした。これで全員に「エー」と言われたらどうしたらいいかわからない。


「……暑いと肉が食べられなくなるのが早いんだよ。わかってくれよー」

「ヨー」

「ヨー」


 なんかそれは新しいパターンだなと笑ってしまった。とにかくイノシシを狩ってくるのはだめなのだ。すぐに対処できないから勘弁してほしい。

 ポチとタマはコキャッ、コキャッと首を傾げた後出かけていった。不満なのは変わらないらしい。

 でも狩ってこられても困るんだよ。それこそ麓まで追いやって倒してくれれば話は早いけどな。言ったらやりかねないから絶対に言わないけど。

 ふとスマホを見ると、相川さんからLINEが入っていた。


「従弟は帰りました。N町へ買い出しに行きませんか?」

「行きます」


 日中山で作業するのもつらいならドライブがてらどこかへ行けばいいのだ。長時間でなければエアコンをつけたままユマとリンさんに待っててもらうこともできるだろう。さすがに時間が長いとバッテリー上がったりして危ないけどな。


「今日これからでもいいですか?」


 きっと本宮さんの件だろうな。


「大丈夫です。下に行ってればいいですか?」

「はい、お待ちしてます」


 そんなやりとりを経て、ユマとメイに声をかけた。


「ユマ、メイ、俺相川さんと出かけてくるけどどうする? 一緒に行くか?」

「イクー」


 ココッとメイも返事をした。

 うん、なんかもう返事を聞くだけでかわいい。にまにましてしまう。


「準備してくるから待っててなー」


 大きめのクーラーボックスを用意し、メイの飲み物をどうしようかと考える。野菜があればいいだろうか。でかくなっているきゅうりを四つに割り、少しほそく切って持って行くことにした。ユマは食べられてもメイの口は小さいもんな。……いや、小さいわけじゃないのか。メイ以外がでかいだけだ。

 どうも大きさで比較してしまう。

 助手席のドアを開けると、ユマがトトッと乗ってそのままもふっと座った。その時に俺は見てしまった、ユマが頭を下げるようにして乗ったのを。

 そうだよな。もうけっこうでかいからそのまま乗ったら下手したら頭がぶつかるよな。メイをだっこしてユマの前に置くようにする。ああもうこれ見てるだけでかわいい。


「じゃあしゅっぱーつ」

「シュッパーツ」


 コココッとメイも言うのがやっぱりかわいい。つーか俺かわいいしか言えないんだろうか。でもかわいい以外浮かばないんだからしょうがないだろ。って、俺は誰に言ってるんだ?

 相川さんの山まで向かうと、軽トラが待っていた。


「すみません、遅くなりました」

「かまいませんよ。誘ったのはこちらなんですから。行きましょう」


 狭い道だがめったに西側からは車が入ってこないので一瞬だけ横に並んだ。リンさんが乗っていたので頭を下げた。

 そうして相川さんの軽トラを先頭にN町へ向かった。

 そういえばここのところの買物は、全てごみ拾いウォーク用の買い出しだった気がする。スーパーへ行ってからそのことに気づいた。

 調味料とかもなんか足りないので味塩胡椒とかマヨネーズなども買った。そしていつも通りお弁当を買う。カツ丼がなんかおいしそうに見えた。めったに食べないサンドイッチも買ってみる。

 スーパーで満足するんだから、俺って楽でいいよななんて思った。

 お盆が終わったせいか人はまばらだった。


「佐野さん、今日は付き合っていただいてありがとうございます」


 用事を済ませて軽トラに戻ると、相川さんに改めて礼を言われてしまった。


「いえ? 俺も買物してないことに気づきましたから、誘ってもらってありがたかったですよ」


 何せ一人で出かけようとするとユマとメイが怒るから、N町に行くのもたいへんなのだ。実は月曜日にN町のごみ処理場へごみを運んで行こうとしたら、ユマが拗ねてしまった。臭いし、さすがにもう着ぐるみとかごまかせないからと平謝りして許してもらったのである。

 あれ? ユマって俺のヨメだっけ?


「ごみ拾いウォークの時のごみを運んでいくのもたいへんでしたし……」

「そうだったんですか。声をかけてくれれば代わりに行ったのに」

「いやいや。そんなことで代わってもらうわけにはいきません」


 俺は首を振った。


「……ちょっと話したいことがあるので、うちか、佐野さんちに寄ってもいいですか?」


 やっぱり、とは思った。

 思った通り本宮さんの件だろう。


「相川さんちでいいですか?」

「はい。ではうちでお昼にしましょう」


 リンさんとユマメイもどうやら仲がよさそうだ。さすがにメイも普通のニワトリサイズになっているから食べられたりしないだろう。

 しないよな?


「待っててくれてありがとなー。これから相川さんちに行くぞー」


 ココッと返事を聞いて、また相川さんの軽トラについて山の方へと戻ったのだった。


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