618.どれぐらい大きくなるのかはやっぱり気になる

 光一さんの一番上の息子さんは、ニワトリたちのことを気にしてくれていたらしい。


「去年より大きくなりましたね」


 なんて、畑の方を眺めて嬉しそうに言っていた。


「あ、やっぱ大きくなったように見える?」

「はい、昨年よりすごく大きくなってますけど……このままだと佐野さんの身長を越えそうな……」

「それは困るなぁ」


 それだとまんま羽毛恐竜になってしまう。


「俺よりでっかくなったらもうさすがに村には連れてこられないな」


 誰かに見とがめられたらことだし。


「? そうなんですか?」


 光一さんの息子さんは不思議そうに首を傾げた。


「少なくとも、軽トラの助手席には乗らなくなるよ」


 一緒に町へも行けなくなるだろう。それはそれで残念だ。どういうメカニズムででかくなっているのかはわからないが、成長がここらへんで止まったりするものなんだろうか。ちょっと今夜にでも真面目にニワトリたちに話してみようと思う。

 でかいってことは強いんだけど、人が脅威を覚えるほど大きいのはいただけない。


「佐野君、今年も参加させてくれてありがとう」


 光一さんに改めて礼を言われてしまった。


「いえいえ、奥さんにも手伝っていただけましたし、とてもありがたかったです」

「来年も開催するのかな?」

「それは……まだわかりません」

「そうか。もし帰省している時に開催するようだったら頼むね」

「はい、お待ちしています」


 二家族とも三時頃にはおっちゃんちを出た。やはりお盆だから道が混むのだろう。光一さん、雄二さんは運転をがんばってほしい。

 あまり渋滞しませんようにと心の中で手を合わせた。

 俺もおっちゃんちを辞した。ユマとメイはなんだかんだいって、くず野菜だけでなくそれなりに食べさせてもらったみたいだ。おばさんに礼を言った。


「昇ちゃんが気にすることなんてないのよ~。それよりも孫たちもあけちゃんたちも喜んでいたわ。ありがとうね」

「いえいえ……」


 俺は特に何もしてないし。せいぜいBBQ用のお金を出したぐらいで、他は本気で何もしていない。

 おばさんははーっとため息をついた。


「昇ちゃんはこんなにいい男なのにねぇ……」

「はい?」


 いったいなんの話だろう。


「ねえ、昇ちゃん聞きたいんだけど」


 なんかおばさんの圧が強い。


「はい……」

「昇ちゃんとみやちゃんは本当に何もないの?」

「ないです」


 あれは妹です。そう決めてます。おばさんはまたため息をついた。


「……和菓子屋のお嬢さんに昇ちゃんはもったいないし……」


 俺は耳を塞いだ。そういう失礼な話は間違って頷いたり首を振ったりするととんでもないことになる。


「なんの話してんだ。昇平が困ってるだろーが」


 おっちゃんが苦笑して助け舟を出してくれた。


「ごちそうさまでした! 帰りますね!」


 ユマとメイを呼びに行き、流れるように軽トラに乗せて山へ戻った。くわばらくわばら。

 うん、こういう時山暮らしはいいな。いくらなんでも山の上までは追っかけてこられないし。

 ユマとメイはきょとんとした顔をしていた。俺の動きがいつもより早くて驚いたらしい。きょとん顔かわいいよなー。


「ユマ、メイ、なんか食うか?」


 俺はおっちゃんちでごちそうになったからいいけど、ユマとメイは野菜を多少もらった程度である。それでもけっこうな量は食べていたと思うが……。


「イラナーイ」


 コココッ、と返事があった。

 また家の表で草や虫をつつくことにしたらしい。特に追及はされなかったのでほっとした。


「あー、でも……」


 やっと終わったなと思った。後日打ち上げはあるが、今年も無事ごみ拾いウォークが終わった。夏の暑さは全然去らないけど、気分的に違う。

 やっぱり緊張していたみたいだ。


「無事に済んでよかったな……」


 桂木妹のことについてはもう考えたくなかった。もう会ってしまったんだし、あとは当事者同士でどうにかするだろう。問題があるようなら相川さんが連絡してくれるに違いない。

 みんながみんな、幸せになればいい。

 しみじみとそう思う。

 俺が見てないところでカレカノやってる分には気にしない。目の前でやられたらさすがに目が三角になるけど。

 夕方にはポチとタマが戻ってきた。今日はそんなに汚れてはいなかったけど、この時期はけっこう羽の中に虫がいたりするので洗わないと危ない。

 この時期は水が気持ちいいらしく、でっかいタライの中でばっしゃんばっしゃん暴れてくれた。まんま水浴びだな。


「うおーう、濡れる濡れる……」


 これは夕飯の前に風呂に入るべきだろうか。そう思うぐらいびしょ濡れになった。

 タオルドライして家に入れ、メイをだっこした。

 コココッ?

 何事? と思ったのかメイが顔をあっちこっちに向ける。うん、こんな仕草もかわいいな。


「先に風呂入ろうなー。ユマもおいで」

「ハーイ」

 ココッ


 返事してくれるとかなんなの。うちのニワトリたちは最高にかわいいと思う。


「ポチ、タマ、餌はもう少し待っててくれなー」


 と声をかけたら「ワカッター」と返事があった。今日はそれほどおなかもすいていないのだろう。夏の間の山なんて、ニワトリにとってはバイキングみたいなものかもしれない。イノシシとかシカとか狩ってくるのは勘弁してほしいけど。

 餌を食べさせてから話してみた。


「なー、お前らって結局あとどれぐらい大きくなんの?」


 ポチ、ユマ、メイがコキャッと首を傾げた。

 わからないようである。タマが首を傾げないことから返事を待ったが、タマはどう答えたらいいのかわからないみたいだった。


「これ以上お前らの身長が伸びるとさ、多分助手席には乗せられないから一緒に出掛けられなくなるんだよ」


 俺は手を上げて高さを示した。

 ユマがショックを受けたような顔をする。


「できればこれ以上は大きくなってほしくないけど……お前ら自身がどうにかできることじゃないよな」


 バカなことを言ってごめん、と苦笑した。

 でも言わずにはいられなかったのだ。だって俺はニワトリたちと出かけたいし、いつだって一緒にいたいと思っているから。


「この辺で身長が止まるとか、そんな都合よくいったらいいんだけどなぁ……」


 それでも俺は運がいいと思う。

 ユマが近づいてきたので撫でた。寄り添ってくれるのが嬉しい。

 ま、これ以上大きくなったら山にだけいてもらえばいいかと、そう思うことにしたのだった。



ーーーーー

次の更新は、25日(木)か26日(金)です。1500万PV記念は今しばらくお待ちくださいませー(汗


山暮らし~3巻刊行決定、お祝いコメントを沢山いただきありがとうございました!

まだ作業は続きますが、webの方もいつも通りがんばりますのでよろしくお願いします。

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