613.明日の準備を始めよう

 相川さんと本宮さん、桂木姉妹は帰っていった。


「あー……疲れた」


 軽トラを見送って、どっと疲れが出たみたいだった。


「ツカレター?」


 ユマがトットットッと近づいてきて、下から俺の顔を覗くように見た。なんだこのあざといの。めっちゃかわいい。


「うん、疲れたよ……ちょっと休んでいいかな」

「イイヨー」

 ココッ

「ユマ、メイ、ありがとなー」


 朝も早かったし、少しだけ寝ることにした。本宮さんと桂木妹が何を話していたのかは気になったが、それは俺が聞くことではない気がした。ユマも何も言ってこないことから、問題はないだろう。

 ユマにとっては、桂木妹はメイと同じで庇護する対象っぽいから、本宮さんがおかしな人なら反応するのではないかと思った。

 でも猫にだけは優しい悪人とかもいるから、あくまで参考程度ではあるけど。

 ただ、桂木妹にとってマイナスな人間だったら、ユマは近づけないような気がするんだよな。

 根拠はないけどさ。

 そんなことを考えている間に、俺は居間で寝てしまった。

 目が覚めた時、なんか家の中が暗くてあれ? と思った。もしかして夜まで寝てしまったのかと思ったけどそうではなかった。

 俺は横向きに寝ていたらしい。顔の前でユマがお餅みたいに座っていて、それが影になって暗く見えただけのようだった。

 つい手を伸ばしてしまう。


「ユマ~……」


 そのままユマをぎゅっと抱きしめた。

 大きくて柔らかくてとてもかわいい。

 それに暖かい。

 夏だからずっとくっついてると暑くなってしまうけど、ニワトリの体温の高さって気持ちいいと思う。


「サノー、オキター?」

「うん、起きた。一緒にいてくれてありがとうなー」


 なでなでしてから時計を見た。1時を回っている。お昼ご飯を用意しなくてはと思った。とりあえずその前にユマとメイの分の餌だな。

 うーん、と伸びをして、ユマとメイの餌を準備したりした。

 夕方になって、ポチとタマが砂まみれになって帰ってきた。泥とかじゃないからまだいいのだが、羽が白いから汚くなっているのがわかる。


「おかえりー、お疲れ。洗うぞー」


 でっかいタライに入ってもらってふんだんに水を使う。夏だが一応お湯も用意してある。やっぱ日が落ちると少し肌寒く感じたりするのだ。山の中だからだろう。

 タマを洗ってー、とやっていたらあらかた汚れが落ちたタマがぶるぶると身を震わせた。


「わわっ! タマ、水が飛ぶって!」


 タマが始めたらポチも一緒にぶるぶるし始めるから俺はすっかり水浸しになった。ひどい。


「風邪引くからやめてくれよー。明日は山倉さんたちが来るんだぞー」


 ポチとタマが帰ってくる前に、山倉さんに連絡は取ってあった。

 明日山倉さんのところは、山倉さん夫妻、圭司さんと将悟君が来るらしい。その他に村で暮らしているご夫婦がいらっしゃるそうだ。去年来た独身の男性は、今回は都合がつかないらしい。まぁそうかもななんて思った。

 そんなわけで連絡を取った後はユマとメイと共にお墓へ移動して周りの草を抜いたり墓の手入れをざっとしたりした。

 最近あんまりできていなかったせいか草がぼうぼうになっていて、眩暈がしそうだった。ちょっと気を抜くと雑草が気合を入れて伸びるからどうにかしてほしい。

 少しは手心を加えてほしいよなーとかぼやきながら草刈りをし、とりあえず乾燥させる為にまとめておいた。この時期なら二、三日も放っておけばいいかんじに乾くから、それからまとめて焚火台で燃やすのである。灰は燃えカスなどを取り除いた物を保管し、アク抜きや虫除けなどに使う。灰には防虫、殺菌作用などがあるからとっておいて悪いってことはない。うちの灰はある程度乾燥された草や細すぎる枝などを燃やしてできているせいか、おっちゃんちにまとめて持っていくと肥料として使ったりもしてくれているらしい。用途がなければ燃えるごみに出してくれとは言ってある。

 この辺りのごみは無料で回収してくれるからできることだ。

 さて、話が脱線したがポチとタマである。

 どうにか二羽を洗い終え、水分を取ってから家の中に入れた。タマの側にメイが近づく。ココッ、コココッと何やらお話し中だ。

 メイはけっこうおしゃべりなのかもしれない。


「うーん、先に風呂に入るかなー」


 俺はすっかりびしょ濡れだ。風呂、と聞いてユマとメイがトトトッと近づいてきた。かわいい。

 ツンッとタマにつつかれた。


「タマ?」


 そういえば相川さんがうちに来たけどまだつつかれてなかったなと思った。いや、つつかれたいわけじゃないけど。


「リエー」

「うん? リエちゃんがどうしたんだ?」

「ダイジョブー」

「え?」


 なんのことだと首を傾げた。


「サノー」

「うん」

「オバカー?」

「なんだと!?」


 さすがにそれは聞き捨てならなかった。捕まえてオハナシしようかと思ったのだが、スッと避けられて反対に何度もつつかれてしまった。ごめんなさい、タマさんもうしません。


「いたっ、タマ、痛いってっ!」


 メイがとてとてと近づいてこようとしたところをユマに阻止されていた。ポチは我関せずでそっぽを向いている。冷たい奴め。とばっちりを受けないようにしているのはわかるけど冷たい奴めええ~。

 なんなんだよ。俺ってば立場弱すぎだろ!

 その後はユマとメイと共に風呂場へ移動したのだった。

 とほほ。



ーーーーー

負け負けの佐野君でした(ぉぃ


1500万PVありがとうございます! 記念SSは書ける時に書くのでしばらくお待ちください。

次の更新は5/9(火)です。よろしくー

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