612.桂木さんの懸念と、俺の漠然とした予感

 別に俺いなくてもよくない? と思ったのだけど、桂木さんの山にはドラゴンさんがいるし、家自体も狭い。相川さんのところはリンさんとテンさんがいるから招くのは難しい。(万が一があったら困るからだ。姿を見られるとか)

 そうなると集まれるところといったらうちしかないのだった。

 それにしても……なんなんだろうこの俺の巻き込まれっぷりは。

 相川さんたちもうちに来ると言った時のタマの目が怖かった。これは相川さんたちが帰った後にめちゃくちゃつつかれまくるコースだな。ちょっと勘弁してほしい。


「今日はお疲れ様。今お茶出すよ」

「おかまいなくー」

「おにーさん、ありがとー」

「お邪魔します」

「……お邪魔します」


 というわけでうちの居間にみんな集まった。お茶っつってもペットボトルの麦茶なんだけどな。俺、桂木さん、桂木妹、相川さん、本宮さんの順である。

 ユマとメイは得意そうな顔をしつつ表で草などをつついている。タマはもういいのよねとばかりにツッタカターと出かけて行った。多分ポチと合流するんだろう。キッと睨まれて言い訳もさせてもらえなかった。つらい。

 居間のテーブルは丸いちゃぶ台である。こんなことならこたつ机を出しておけばよかったが、今から出すのもアレだったのでそのままである。


「……偶然、なんですよね?」


 桂木さんが口を開いた。

 相川さんと本宮さんがぶんぶんと首を縦に振る。桂木さん、怖い。


「……おねーちゃん」

「リエは黙ってて。私はこの子の保護者です。本宮さんは、妹のお知り合いなんですよね?」

「……はい。彼女がバイトをしてくれていた店の店長をしております」


 そう言って本宮さんは名刺をスッと出した。作業着姿だけどできる男である。俺、あんな時あったかな。


「ご丁寧に、ありがとうございます。本宮さんは妹がそちらの店舗のバイトを辞めた理由はご存知でしょうか?」

「……はっきりとは知りません」

「わかりました」


 桂木さんは幾分ほっとしたような顔をした。そして本宮さんに頭を下げた。


「止むに止まれぬ事情があったとはいえ、妹が突然バイトを辞めてしまい申し訳ありませんでした」

「えっ!? いえ、その……お姉さんに謝っていただくことでは……」

「本宮さん、申し訳ありませんでした!」


 桂木妹も頭を下げた。


「謝られることではないので、頭を上げてください。今回はたまたま気分転換に別のところで過ごしたいと思った次第でして、まさか桂木さんにお会いするとは思ってもみませんでした。ご事情もおありとのことなので……ですが、桂木さんが元気で過ごされていてよかったです……」


 本宮さんは笑顔でそう言った。

 本宮さんが言う桂木さんとは妹のことだろう。桂木さんは顔を上げてはっとしたような顔をした。


「あの……明後日のごみ拾いウォークも参加される予定ですよね?」

「ああ……いえ……」


 本宮さんは困ったように言葉を濁した。


「参加される予定であれば予定通り参加してください。私達姉妹を気にすることはありません」

「は、はい、わかりました……」


 本宮さんは桂木さんの笑顔に圧倒されているようである。俺と相川さんは縮こまっている。俺はどうしたらいいんだろうか。


「リエ、本宮さんは偶然こちらにいらしただけみたいだから、邪魔をしないようにするのよ?」

「う、うん……」


 なんか言葉に棘がある。妹に釘を刺したみたいだ。

 でもなんつーか、本宮さんはちらちらと桂木妹を見ているし、桂木妹も本宮さんの方を見てるんだよな。イケメンだしな。


「リエ、これ以上は佐野さんにもお邪魔だから帰りましょう」


 桂木さんがそう言うと、桂木妹が意を決したようにこう言った。


「あ、あのっ……本宮さんと少し話したいんだけど……だめ、ですか?」

「「えっ!?」」


 驚きの声を上げたのは桂木さんと本宮さんだった。


「本宮さんに聞きたいことがあるんですけど、できれば誰にも聞かれたくないんです」


 桂木妹ははっきり言った。桂木さんがおろおろする。さすがに屋内で二人きりにするわけにはいかない。


「じゃあ、悪いけど家から出てもらって、少し離れたところで話せばいいんじゃないかな。俺たちには姿が見える位置でなら……」


 そう提案すると、桂木さんにギンッ! というかんじで睨まれた。ああっ、俺ってば余計なこと言ったかも。


「おにーさん頭いい! 本宮さん、それでいいですか?」


 桂木妹がグイグイいく。本宮さんは困ったような顔をして桂木さんと相川さんを見た。桂木さんはため息をついた。


「……すみません、本宮さん。話だけ聞いてやってください。答えられなければ答えなくていいので……」


 桂木さんもここでやみくもにだめだと言っても妹が納得しないと思ったのだろう。しぶしぶ許可を出した。

 そんなわけで一旦全員で外に出た。


「あの辺の木の下であれば日陰になるので……」


 一応どこで話してもらうか指定はさせてもらった。ユマとメイがどうしたのかというように近づいてきた。そうだ、と思った。


「ユマ、リエちゃんについてってくれるか?」


 ココッとユマが返事をする。桂木妹は苦笑した。


「ユマちゃん付いてきてくれるの? うれしーい。本宮さん、いいですか?」

「ああ、僕はかまわないよ」


 ユマは桂木妹に寄り添うようについていく。その後をメイも追いかけていく。


「メイはいいんだぞー?」


 メイはココッと返事をしつつ、尾をフリフリしながらユマについていった。なんだあれ、かわいいな。

 二人は俺が指定した木の下へ向かうと、まず桂木妹がユマに何やら話しかけた。ユマが返事をしたみたいだ。

 そうして桂木妹は困った顔をしている本宮さんと話し、やがてお互いに笑顔になった。今日は風も吹いていないから暑かったし、二人の声も届いてはこなかった。

 桂木さんはむーっとした顔をしていた。


「なんで焚きつけるようなこと言うんですか……」

「リエちゃんが聞きたいことがあるんだから、それは聞いた方がいいだろ? そうしないといつまでもわだかまりが残るだろうし」

「そうですけどー……」

「すみません、本当にすみません……」


 相川さんが謝っている。


「相川さんが謝ることなんてないですよ!」


 桂木さんが慌てた。

 ホント、なんだろうと思う。でも、本宮さんと桂木妹はひどく似合いに見えた。

 あの二人はいつまでもここにいてはいけないような気がする。ユマとメイが桂木妹にまとわりついて、撫でてもらっていた。

 よくわからないけど、あの二人はいずれ一緒になるんじゃないかななんて思った。

 俺には、二人を包む何かがうっすらと見えた。

 今はまだ、誰にも言えないけど。



ーーーーー

次の更新は5/5(金)です。よろしくですー。

「山暮らし~」コミカライズ第三話が公開されました! 読んでいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817330656607765759



サポーター連絡:4/29、5/1に限定近況ノートを上げています。よろしければ読んでやってくださいませー

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