605.相川さんの親戚と会うことになりまして

 相川さんはフットワークが軽い。

 というかここら辺の人たちはみんなそんなかんじだ。おっちゃんは特別にしろ、すぐ動き出してもどこかへ着くのに時間がかかるからかもしれなかった。

 ってことで、相川さんは本当にユマの説得に来てしまった。半ば冗談だったんだけどなー。


「ユマさん、本日は佐野さんをお借りしたいです」


 でっかいニワトリに頼み込むイケメンという図はなかなかシュールである。


「エー」


 ユマはとても不満そうだ。


「ユマさん、リエちゃんは知ってますよね? リエちゃんに関わることなんです。どうかお願いします」


 相川さんはとても誠実だ。


「リエー……」


 ユマはその場で身体を揺らした。桂木さんのことはユマはなんか含みがあるみたいなんだけど、桂木妹に関してはその限りではない。


「ハヤクー、カエルー」

「わかりました。佐野さんのことはできるだけ早く帰します。ユマさん、ありがとうございます」


 ちなみにメイは相川さんの足元をうろちょろしている。何邪魔してんだよ。


「佐野さん、許可が下りましたのでお願いします」

「わかりました」


 俺はユマに近寄り、ユマの羽を撫でた。


「ユマ、ありがとな」

「ハヤクー、カエルー」

「うん、できるだけ早く帰ってくるよ」


 そこまではほんわかしていたと思う。


「シンヨー、ナイー」

「えええええ」


 どこで覚えたんだそんな言葉。ちら、と相川さんを見れば、相川さんは口を押さえて噴き出すのを我慢していた。


「……いいですよ、笑っても」


 くそう。

 まぁ早く帰ってくるって言って、そんなに早く帰ってこられなかったことは何度かあるけどな。


「ユマ~、信じてくれよ~」

「サノー」


 でもユマはかなり俺に甘いから、一歩近づいてすりっとしてくれた。ああもうかわいいなユマはあああああ。

 これだけでデレデレになってしまう俺、チョロすぎる。でもそれでいいのだ。


「じゃあ行ってくるなー」

「オミヤゲー」

「……わかった」


 出かけるならお土産を買ってこいと。承知しました。相川さんはまだ笑っている。けっこうこの人、笑いの沸点が低いんだよなー。

 気持ちを切り替えよう。

 軽トラ二台でN町へ向かった。もちろんリンさんはいない。メイはどこ行くのー? というように軽トラに近づいてこようとしたが、ユマに止められていた。本当に頼りになるよな。思い出しただけでにまにましてしまう。

 ……うちの子たちがいなかったら、俺生きていけないかも。

 ユマは特別かわいいけど、みんないないとダメだな。

 この山に来て三日で寂しくなるなんて俺ってダメダメだなと思ったけど(思ったより山が寒かったというのもある)、そのダメっぷりのおかげでカラーひよこを飼うことになったんだから結果オーライだと思う。

 そんなことを思いながら、軽トラをN町のいつもの駐車場に停めた。ここから相川さんの知り合いの家というのは近いらしい。


「佐野さん、すみません。この先にある喫茶店で待っていていただけますか? 連れてきますので」

「わかりました」


 この先にあるのは昔ながらの喫茶店だ。あんまり人がいなくて、本当に採算が取れているのか心配するかんじである。もしかしたら店主の道楽なのかなと思うぐらい、たまに入っても人がいない。つっても、この一年ちょっとで数えるほどしか入ったことはないんだが。

 コーヒーは一杯おかわりできるらしいのでコーヒーを頼んだ。

 いい香りである。

 N町に来ると暑いなと思った。山の上にいると、麓に下りても暑いと思うのだが、N町は更に暑い。でもきっとN町はうちの実家ほどは暑くないはずだから、この夏日本全国いったいどうなっているのだろうと心配してしまう。

 終わったら母親にLINE入れようと思った。

 そんなことを考えていたら、カランカランと喫茶店のドアが開く音がした。このドアについている音を鳴らす何かっていうのもレトロでいいなと思った。

 相川さんと、もう一方ひとかた入ってきた。

 相川さんはその人を伴ってまっすぐ俺のところに来た。


「佐野さん、お待たせしてすみません」

「大丈夫ですよ。失礼ですが、そちらは……」

「初めまして。私は相川の血縁の本宮もとみやと申します。どうぞお見知りおきください」


 名刺を渡されてしまった。俺、名刺とか持ってないなー。


「どうもご丁寧に。初めまして、僕は相川さんの隣の山に住んでいる佐野といいます」


 お互いぺこぺこ頭を下げ合い、やっと席についた。

 並んでいるのを見ると血縁だなということはわかる。相川さんも本宮さんもイケメンだ。しっかし二人とも真面目オーラが強い。服装はラフだけど、本宮さんは柔和な雰囲気がある。これは相当モテるのではないかなと思った。

 見た目だけだと何か問題があるようには感じられない。ただなぁ、未成年のリエちゃんに懸想していると聞くとなぁ。

 でも本宮さんはそれを出さないようにして店長として普通に仕事をしていたわけだし、心の中は自由だとも思うのだ。世の中には変態な性癖を持っていたとしても、それをおくびにも出さず暮らしている人もそれなりにいるだろう。

 それに本宮さんはこちらにリエちゃんがいることは知らない……はず。

 二人共コーヒーを頼んだ。俺は特に話すことはないから、相川さんと本宮さんの会話を聞くだけである。

 桂木さんの元カレとか、ナギさんみたいな人ではないといいんだけど。

 俺は内心ため息をついた。



次の更新は4/11(火)です。よろしくー


レビューいただきました! ありがとうございますー♪

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