1300万PV記念SS「タツキさんとニワトリたち、そして大蛇のひみつ」

 シカを佐野の山に逃がしてしまってから、タツキは北側の、佐野の土地との境によく向かうようになった。

 これは前述した通りである。(1000万PV記念SS「タツキさんのひみつ」他参照)

 そこでニワトリたち(主にポチとタマである)と会うこともあった。お互い土地に縛られているような状態なので、お互いの土地には入れない。なので更に北の国有林に足を運び、その北の方面を眺めた。

 ニワトリもどうやら異常を感じ取っているようである。

 そうして眺めること数日、今度はそこへ相川のところのテンもやってきた。そうしてお互いの姿を確認して頷いた。

 暑い時期である。

 佐野が一晩出かけるというので、ニシ山のテン、サワ山のニワトリたち、ナル山のタツキは北の国有林に再び足を踏み入れた。

 そろそろ来るということがわかっていた。

 何が? と聞かれれば、それは猿の群れであった。


「グワアアアアアアアッッ!!」

「クァークァックァックァッーーーー!!」

「シャアアアアアーーーーッッ!!」


 キイイイイッッ!? キキッ、キーーーーッッ!!


 猿たちはどこを目指していたのだろうか。テンの姿を見ると逃げようとしたが、テンはそれを許さなかった。タツキ、ニワトリ、テンが威嚇をし、そのまま動く隙を与えず攻撃をする。

 猿たちにとっては青天の霹靂だったかもしれないが、タツキ、ニワトリ、テンもまた侵入する物を許すわけにはいかなかった。

 猿たちは数が多かったが、好戦的なでかい生き物たちを前にその先に進むことはかなわなかった。

 そこへ、のん気な声が届いた。


「うわあ、派手にやったなぁ……こっちに来てはいけないと教えておいただろう」


 タツキ、ニワトリたち、テンは身構えた。それは人型をしていたが、人ではないことを瞬時に理解した。猿たちが負傷しながらもザザッとその人型の後方へ下がる。


「ごめんね。止めたつもりだったんだけど、コイツらは俺の眷属だから見逃してくれない?」


 それは人間であればイケメンと言われるような容姿をしていたが、そんなことは関係なかった。

 警戒を解かない彼らを見て、それは首を傾げた。


「守る相手がいるなんて羨ましいなぁ」


 クァーーーッ! とポチが威嚇するように鳴き、ドドドドドと突進する。


「うわわっ! ごめん!」


 それは身軽にポチを避けると、長い腕を使ってひょいひょいと木の上に上った。


「俺、なんかうさんくさいみたいなんだよなー。誠実に暮らしてるつもりなんだけど。俺、家国(かこく)っていうの。よろしくねー」


 木の上からフレンドリーに話しかけられたが、ポチは睨み、テンは構わずスルスルと木を登り始めた。


「ちょ、まっ!? こわっ! 大蛇こわっ! もうこっちにはこないようにさせるから許してー!」


 さすがに大蛇に巻きつかれたらただではすまないと思ったのか、その家国と名乗った人型は慌てて隣の木に飛び移った。


「もう猿たちには絶対こっちに来ないようにさせるから、ねっ?」


 テン、ニワトリたち、タツキがじいっと家国を睨む。


「約束するよ! もー、ホントでかいのって怖いなー。クマネコより怖いじゃんかー、聞いてないよー。単純にでかいってだけで強いもんなー。じゃあもう来ないから!」


 家国は彼らに手を振ると、山の向こうへ消えて行った。猿たちの姿はすでにない。

 あれがどれだけ約束をきちんと守るのかはわからないが、彼らを本気で怖がっているのは間違いなかった。彼らは納得したように頷いた。

 この姿になってよかったと、彼らは再認識した。

 でかくなったことの不便さもないとは言わないが、家国が言った通りでかいというのは単純に強いのである。

 そうしてしばらく彼らは北側の山を見ていたが、やがてそれぞれ解散した。

 猿の脅威は退けたようである。

 次は増えに増えすぎたシカを減らしていこうと彼らが考えたかどうかは知らないが、テンとタツキは別々にシカ狩りに出かけたのだった。



おしまい。


佐野君が駐車場関係のことで実家の方へ一泊出かけている間に、実はこんなことがあったのでした。

1000万PV記念SS「タツキさんのひみつ」

https://kakuyomu.jp/works/16816927861337057957/episodes/16817330652189507450


なんかどっかで聞いた名前があったかもしれません(謎

あちらの話にとっては数年前の話になります。主人公たちが直接関わることが今後あるかもも?

この辺りに猿がいない理由はこういうことでした。

楽しんでいただけたなら幸いです。



「山暮らし~」2巻発売中。

本文書下ろしもいっぱいあります。ニワトリたちが更にかわいいよっ

https://kadokawabooks.jp/product/yamagurashi/322212000415.html


コミカライズもスタートしましたよーい♪

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817330655216826092


どうぞこれからも「山暮らし~」をよろしくお願いします。

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