603.とかくツメが甘いと言わざるをえない

 桂木さんにLINEを入れたら桂木妹から電話がかかってきた。もちろんかかってきたのは桂木さんのスマホからである。

 俺はちら、と相川さんを見た。相川さんはジェスチャーでスマホは受け取らないという意思表示をした。

 相川さんにも聞こえるようにスピーカーにする。

 その間に相川さんはメモを用意した。どうあっても相川さん自身が話す気はないらしい。どんだけだ。


「いや、なんか本宮さんって人がごみ拾いウォークに参加したいって話が来たんだよ。で、聞いたら桂木さんたちと出身県が同じだからもしかしたら知ってる人なのかなと思ってさ」


 かなり苦しい言い訳だったが、桂木妹は「ふーん」と言った。


「T県からここってかなり離れてるよねー? 誰かの親戚、とかー?」

「そんなかんじみたいだけど、知ってる? 二十代後半の男性らしいよ」


 相川さんが紙に書いて俺に見せた。29歳かー、微妙な年頃なのかな。


「んー? 本宮さんの歳とか知らないなー。私が知ってる人ならてんちょーさんなんだけど」


 どうやらビンゴのようだ。


「てんちょー?」

「ええとね、私喫茶店のチェーン店でバイトしてたって話したっけ? そこのてんちょーさんの名前が本宮さんなの。かなりのイケメンで……あれ? そういえばが相川さんに似てるかも……?」


 桂木妹の勘が冴えている。ちょっと冷汗を掻いた。


「そ、その人がごみ拾いウォークに参加するとして、その人がいると参加しづらいとかあるかな?」

「ええー? んー……」


 桂木妹は考えるような声を発した。

 会いたい人なのか、それとも会いたくない人なのかどっちなんだろう。相川さんは真剣にスマホを見つめている。本宮さんを応援したい気持ちなのだろうか。


「ちょっと、気まずいかなー……」

「なんで?」


 思わずツッコんでしまった。


「えー? だっていきなりバイト辞めちゃったから、悪いことしたなーって……」

「ご両親が連絡して辞めたんだっけ?」

「そうー……だから顔は合わせづらいんだよね」


 相川さんが嫌じゃないなら……みたいなことを書いた。もしかしたら相川さんも本宮さんに切々と想いを語られたりしたのかもしれない。

 諦めさせるなら本人に会わせた方がいいと思ったのかどうなのか。

 本宮さんの方はリエちゃんがこっちにいるって知らないんだしな。


「そっか。でも、だったら……直接謝る方がいいんじゃないかな?」

「……怒られないかな」

「怒らないと思うよ」


 本宮さんが怒るとしたら、桂木妹が付き合っていた男の方にだろう。


「じゃあ一緒に参加してみようかな」

「うん、それなら参加にしておくから。桂木さんも一緒でいいんだよね?」

「うん、おにーさんありがと」


 ポツリと呟いて、電話は切れた。

 相川さんがはーっとため息をついた。


「……お任せしてしまって、すみません」

「いいですよ。でもその本宮さんってどういう方なんですか? 相川さんのお身内の方だから大丈夫だとは思いますけど、桂木さんもリエちゃんもなんというか、その……」


 やヴぁい男を引き寄せるなにかがあるとは思いたくない。単純に男運が悪かっただけだとは思うのだ。なにせあの二人はかわいいだけでなく親しみやすい容姿をしているから、それで男に声をかけられやすいのだろう。実際人懐っこいから勘違いする男もいるかもしれない。

 桂木さんについては、付き合っていた時は普通だったけど同棲した途端に豹変したと聞くから、元カレがやヴぁい男だなんてわかるはずもないし。

 リエちゃんの元カレが最初どういう人だったのかまでは聞いてないから、わからないんだけど。


「そうですね……確かに従弟としては親しく付き合っている方だとは思いますが、彼女に対してがどうなのかまでは僕も知りません。ちょっと聞いてみることにはします。なにかあってからでは遅いですし……」


 引き合わせたはいいが、桂木妹に悲しい思いをさせたなんてことになったら申し訳が立たない。そう考えると俺の行動は軽率と言わざるを得なかった。


「先に……桂木さんに相談すればよかったですね……」

「……何かあれば僕が責任を取ります」

「いやいや……」


 責任を負うのは相川さんだけってわけにはいかないだろう。電話をしたのは俺だし。

 お茶を啜って表へ出る。ポチはどこかへ走っていったのではないかと思ったけど、駐車場の方で何やらつついていた。ユマはリンさんの側にいたが、俺に気づいてトットットッと近づいてきた。


「ユマ、そろそろ帰ろうか」

「カエルー」


 ユマは嬉しそうに羽をバサバサと動かした。いちいち仕草がかわいいと思う。

 今日は相川さんがしょげているみたいなので帰ることにした。これ以上俺が何を言っても憶測にしかならない。相川さんはこれから本宮さんの実家や本宮さん本人にいろいろ聞くつもりらしい。

 今日中に連絡をくれるとのことなので、ポチも回収して山に戻った。


「ただいま」


 タマとメイは家から少し離れたところで草をつついていた。


「お土産もらってきたぞ」

「オミヤゲー」


 ピ……ピココッ


「……え?」


 今なんかメイが変な鳴き方しなかったか?

 ピィ……ピココッ、ココッ


「えええ?」


 なんかかわいいんだけど。思わず笑顔になって、トトトッと近づいてきたメイを抱きしめた。そういえばうちのニワトリたちもある日突然ココッとか鳴き始めたよな。


「メイもそろそろニワトリかー?」


 ひよこだった時もすんごくかわいかったし、ポチ、タマ、ユマと違ってひよこの時期は長かったと思う。つーか今が正常な成長の範囲なんだけどな。ポチたちの成長がおかしいだけで。


「サノー」


 ユマに呼ばれてメイを放した。メイは何事? というように固まっていた。なんかちょっと悪いことをしたかもしれない。


「メイ、成長してるんだなぁ」


 俺はユマに笑いかけた。タマとユマがちゃんと見ていてくれたからなんだろう。

 タマの側にはポチが寄っていった。


「ポチ、付き合ってくれてありがとな。タマもメイと一緒にいてくれてありがと」

「アリガトー?」

「ナイー」


 そして二羽は足をたしたしし始めた。遊びに行きたいのだろうと苦笑した。


「いいよ、遊んできて。明るいうちに帰ってこいよ」


 そう言ったら、二羽はすごい早さで木々の向こうに消えて行った。なんなんだろう、あれ。



ーーーーー

1300万PVありがとうございます! ちょっと遅くなるかとは思いますがそのうち記念SS上げます。


次の更新は4/4(火)の予定です。よろしくー


ネガティブコメントは誰かが書くと便乗して増えていくので、予告なく削除していきますねー。


今日明日は外出しますのでコメント返信はできません。


サポーター連絡:山暮らし小ネタを限定近況ノートに上げました。よろしくですー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る