602.相川さんが懸念していることについて
ポチとユマにはまっすぐ帰らず相川さんちに向かうということを話したら、ココッと返事をしてもらえた。
嫌だったらツーンてしたりつつかれたりするもんな。(そんなことはユマに限ってはめったにない)ポチなら逃げてくし。そう考えるとうちのニワトリたちはわかりやすくていい。
んで相川さんちに行った。
畑のところでリンさんが水やりをしているのが見えた。今日は麦わら帽子を被って、薄緑色っぽいシャツを着ている。上半身だけ見ると爽やかな印象だ。
ポチはバサバサと荷台を下り、ユマも助手席から下ろしてやった。
「こんにちは、リンさん。うちのニワトリたちが草や虫などをつついてもいいですか?」
「イイ」
無表情で返事をしてくれた。上半身はキレイな女性だけに全体を見るとぞわぞわする。
「リン、ありがとう」
「アリガトウ、ナイ」
リンさんの声にはあまり抑揚がないから冷たく聞こえるが、目は嬉しそうに見えるからお礼を言われるのも満更ではないんだろう。
本当に相川さんのことが好きなんだなってことが伝わって、微笑ましかった。
家に案内されて、相変わらずスタイリッシュな土間の椅子に腰掛けた。すぐにきゅうりの辛子漬けとえのきの和え物にぬか漬け、そして麦茶が出てきた。これ自家製なんだよな。本当に相川さんはまめだと思う。
豚肉は一旦相川さんちの冷蔵庫に預けた。帰る時に半分渡してもらう予定である。
「来ていただいてしまって、すみません」
相川さんが頭を下げた。そんなことをしなければならない程深刻なことなのだろうか。慌てて頭を上げてもらった。
「従弟さんのことなんですよね? こちらにいらっしゃるって……」
「ええ、うちにはかなり大きな大蛇がいるからうちには泊められないと言ったんですが、そしたら僕の知り合いの家に泊めてもらうと言い出しまして……N町にいる、この山の元の持ち主なんですけど、その人も面白がってしまって一週間ぐらいなら置いてやると言い出してしまったんですよ」
「へえ」
相川さんの知り合いって奇特な人なんだなと思った。
「じゃあ何が問題なんですか?」
「問題というか……従弟が住んでいる場所がT県なんですよ」
T県? どっかで聞いたことあるような……。
「確か桂木さんの出身地って、T県って言ってませんでしたっけ?」
相川さんに言われて思い出した。
「え? いや……でも同じT県でも広いでしょうし。そんな偶然はないんじゃないですか?」
「……偶然だと僕も思うんですが、リエさんて喫茶店のチェーンで働いていたと言っていたじゃないですか。そのチェーン店でうちの従弟が店長を勤めていたんですよ」
「ええ……」
でもきっと、そんなことは偶然だと思いたい。
相川さんはとても話しづらそうだったので、聞きだすのに時間がかかった。誘ったつもりはなかったが、結果的に自分が誘った形になってしまったから相川さんは困っているみたいだった。
相川さんの従弟は男性で、最初は最近仕事が楽しくない、ちょっと気分転換がしたいという話だったそうだ。
それで、相川さんのところに泊りにくることはできないけれど夏はうちの方ではこういうことをやるというような話をしたらしい。
そうしたら従弟が是非それに参加させてほしいと食いついてきたという。
従弟の話によると、相川さんの従弟はT県のどこかの喫茶店のチェーン店で店長をしている。そこのバイトでかわいい子がいたのだが、十月頃に辞めてしまった。その子はギャルだった。同じ店にその子のカレシがいたが、そのカレシも辞めてしまった。話によるとかわいい子とカレシは別れたらしい。けれどそのかわいい子に個人的に連絡をするのは憚られるとずっと悶々としているのだという。
それで気持ちの切り替えも含めて気分転換がしたいという話なのだけど、相川さんとしては共通点があるからまさか……という思いのようだ。
「カレシ本人ではないんですよね?」
「ええ。リエさんの元カレの本名はさりげなく聞きましたけど、うちの従弟の名前は出ませんでした」
「うーん……ただの偶然ならいいですけど、もし偶然じゃなかった場合相川さんとしてはどうしたいですか?」
「僕、ですか……」
相川さんは考えるような顔をした。
「もし偶然ではなかった場合は、従弟がリエさんにくっついていかないようにしたいです。従弟を見てリエさんが嫌なことを思い出したりしたら申し訳ないですし……」
「元カレのことをってことですか」
「はい」
確かに関係者を見て嫌な記憶がよみがえるってのはあるよな。そう考えると近づけない方がいいんだろうけど。
「……じゃあ、リエちゃんに聞いてみます? 本宮さんって知ってる? って」
「……聞いてもいいんですかね?」
相川さんは及び腰だ。
「じゃあ、その従弟さんにごみ拾いウォークに参加することを諦めさせることってできますか?」
「……難しいですね」
「そうしたらリエちゃんに直接聞いた方が早いですよね? 会いたくない人なら、どちらかに参加しない方向で話をしないといけませんし」
「そう、ですね……。本当に申し訳ないですけど……」
相川さんはとても難しそうな顔をした。相川さんから聞くのはたいへんだろうと、俺が代わりに、まず桂木さんにLINEを入れた。
それほど時間も置かず、電話がかかってきた。
「もしもし?」
「あ、おにーさん? なんでおにーさんが本宮さんのこと知ってるのー?」
能天気な桂木妹の声が聞こえて、俺は脱力したのだった。
男二人だとろくなこと考えない。ぶう。
桂木姉妹の出身県、話に出てきてないとは思うんですけど出て来てたら教えてください(他力本願
600話も超えると読者さんの方が作者より詳しいんだよぉ(笑)
次の更新は3/30(木)です。よろしくー。
twitterキャンペーンのご参加ありがとうございました! 〆切ましたー!
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