589.久しぶりのドラゴンさん

 桂木さんの軽トラからドラゴンさんがのっそりのっそりと下りる。

 またでかくなったんじゃないかなと思う。よりその体躯はしっかりしているかんじがした。

 ドラゴンさんはうちの側の日陰に収まった。タマが当然とばかりにその身体をつつき始めた。


「タマちゃんとタツキって仲良しだよね~」


 桂木妹がにこにこしながら言う。

 昨年作ってもらったポンチョは居間に広げた。それを二人に見てもらう。


「……あー……今回は使用したらうちで保管しましょうか? でも、山だからあんまり変わらないかも……」


 桂木さんがぶつぶつ言っている。本当に申し訳ない。


「定期的に出したりしないんだからしょーがないじゃん。これをベースにして作り直せばいいんじゃない?」


 桂木妹の優しさが身に沁みる。二人とも本当にいい子なんだよな。


「先に測らせてくださいね~」


 桂木さんがにこにこしながらニワトリたちを手招きし、桂木妹と共に手際よく測ってしまった。二人だとやはりやりやすかったらしい。

 メイが何事ってかんじでトトトトッと土間の隅に逃げたりしたけど、タマにつつかれて戻ってきた。メイも人見知りみたいなことをするらしい。面白いなと思った。


「やだー、メイちゃん逃げてる。かわいーい!」


 そーっとメイに触れて桂木妹は測った後、「ちょっといいかな~?」と言ってメイを抱きしめていた。メイはそんな彼女にすりすりしていた。多分柔らかかったのだろう。

 女性は柔らかいよな。男とはやっぱり違う。そんなことを一瞬考えた。


「はい、測ったからもう大丈夫ですよ~」


 桂木さんが「ありがとねー」とニワトリたちを撫でる。ポチとタマがぐるんと首を巡らして俺を見た。なんでそんなに首が回るのかすごく聞きたい。背中の方とかも自分で毛づくろい(?)とかするよな。ニワトリの首ってどうなってんだろう。

 じーっと見られて苦笑した。


「ポチ、タマ、遊んできていいよ」


 二羽はそれを聞いた途端トトッと家から出、わき目もふらずツッタカターと駆けて行った。よっぽど山の中をパトロールしたいらしい。タマは今日はもうドラゴンさんをつつかないらしい。それよりもしたいことがあるのだろう。


「あれ?」


 家の側の日陰にいたはずのドラゴンさんの姿がなくなっていた。


「どうかしました?」

「いや……タツキさん、どちらに行ったのかなと」

「何か獲物でも見つけたんですかね?」


 桂木さんも首を傾げた。まぁまだ昼前だからいいか。しかしこの暑さの中動き回ったら熱中症になりそうである。ドラゴンさんは大丈夫なのだろうかと少し心配になった。


「そっちの山でも日中動くことってある?」

「うーん。ここのところよく出かけてますね。今日は佐野さんちに行くよって言ったら珍しく待っててくれましたけど」

「ふうん?」


 ってことはうちの山になんかあんのかな? ポチとタマはもしかしたらドラゴンさんを追いかけていったのかもしれない。

 まぁなるようになるだろ。

 考えてもしかたない。今から見に行ったって追いつけないし。

 昼飯の準備をすることにした。

 せっかくタマとユマの卵があるからと、卵とトマトの炒めも作る。ざる蕎麦に薬味、めんつゆは市販のだ。作っておいたきゅうりの鰹節煮と油で焼いたシシトウの煮浸し、漬物を出した。


「うわー! 料理男子すごーい!」

「佐野さんのごはん好き!」

「……こんな程度で悪いけど」


 本当は煮物も、と思ったけどヘタレたのだ。さっぱりしたものの方がいいかなと思って。

 ちなみにユマとメイにはすでに餌はあげてある。いつもの餌にきゅうりとチンゲンサイをつけて出した。パリパリ音を立てて食べているのがなんか怖い。メイの口の中も見たら歯が生えてたんだよな。やっぱり羽毛恐竜? と思ったら頭の奥が少し痛んだ。なんか、ニワトリたちの正体(?)みたいなことを考えると最近頭痛がするんだよな。

 閑話休題。

 桂木姉妹はよく食べてくれた。


「あー、卵本当においしい~! 湯本のおじさんのお蕎麦もおいしいですし、どれもこれも最高です!」

「シシトウって不思議だよね~。辛いのと辛くないのがある~」


 桂木妹はそう言いながらシシトウをもりもり食べていた。好きらしい。


「今年はシシトウ植えなかったんだよね。去年穫れすぎちゃったから……」


 桂木さんは後悔しているみたいだ。


「えー? なんで植えなかったの?」

「穫れすぎたって言ったでしょ。それに後の方になるとものすごく辛くなるのよ。青唐辛子かってくらいに。あれってなんでなんでしょうね?」

「うちはまだあんまり辛くないからわからないな。おばさんに聞いてみるといいかもね」

「そうしてみます!」

「悪いけどわかったら俺にも教えてくれ」

「はーい!」


 わちゃわちゃ話しながら、俺もつられていっぱい食べた。


「全部おいしかった!」


 桂木妹が満足そうににこにこする。


「それはよかった」


 毎回メニューを考えるのが骨だ。喜んでもらえたのはよかったけど、たんぱく質が足りないななんて思った。後でサラダチキンでもかじろう。

 お茶を飲んでまったりしながらごみ拾いウォークについて話した。桂木さんは去年参加してくれたが、桂木妹は今回初である。


「明日は出かけるんですか?」

「ああ、ちょっと実家の方に用があってさ」

「私の写真いります?」

「気持ちだけ受け取っておくよ」


 今回はそういうのじゃないし。

 家の外ではユマとメイが時折ココッ、ピィと鳴きながら地面をつついているのが見えた。

 泊りになるし、やっぱり行きたくないなと思った。


ーーーーー

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