583.神社に顔を出してみた

 豆腐屋について、村の稲荷神社のことを聞いてみた。


「そうねえ、確かにお揚げを供えることはあるわよ。お狐様はお稲荷様の眷属だったかしら? そういう方々にも食べていただきたいものねぇ」

「でもなんで狐というとお揚げなんでしょうね」

「キツネ色をしているとか、こじつけみたいな話はあるけど、精進料理からきているのではないかしら。大豆を肉っぽく味付けするなんてのがあるじゃない」

「ああ……油揚げは肉の代わりですか」

「昔はお供えするにも肉なんてそうそう手に入らなかっただろうからね。でも神様に捧げるんだから少しでもいいものをって思ったのかもしれないわね~」

「一応、お揚げを十枚包んでいただいていいですか? また帰りに寄ります」

「いつもありがとうね」

「とてもおいしくいただいていますから、俺の方がありがたいですよ」


 そう答えると、豆腐屋のおばさんは目を見開いた。そして手をちょんと前に動かす。


「やだよ佐野君たら。……だから好かれるんだねぇ」

「?」


 これを食べてお行き、と言われて厚揚げを焼いたのをいただいた。うん、おいしい。


「最高ですね」

「褒めてももう何も出ないわよ」

「十分いただいてますよ」


 駐車場でユマとメイが草をつついて待っていてくれた。


「お待たせ。じゃあ神社へ行こうか」


 先にユマに乗ってもらってからメイをだっこして一緒に乗せる。メイには自分で乗れるとばかりにピイピイと抗議されてしまった。しょうがないだろ、メイはうちの中で一番小さいんだから。俺の気が済むまでいろいろさせてほしい。はー、ひよこかわいい。(もうひよこって大きさじゃないし、きっとそろそろニワトリになる)

 以前ここに来たのは六月だったろうか。

 神社の周りの木の伸びっぷりがすごいし、石段の周りもわっさわっさしている。夏祭り前に刈るんだろうけど、植物の生命力にげんなりしてきた。

 ユマと、前回は肩掛け鞄の中に入っていたメイも一緒に神社に向かう丘を登った。石段は登りづらいみたいで、脇の土のところをトットットッと上っていく。自分の歩幅ってものがあるんだろうな。

 そうして境内に辿り着くと、少し涼しく感じられた。木々が生い茂っているというのもあるが、神社という雰囲気もあるのかもしれない。ジーワジーワジーワと虫の声がする。しっかり夏だ。

 境内は相変わらず静かで暗い。

 シン……としている空間にいると、自分が一人ぼっちになってしまったような、そんな心細さを覚えた。

 ココッとユマが声を発した。


「おや、佐野さんではありませんか」


 どこにいたのだろう。神社の脇から稲林さんが現れた。この神出鬼没なかんじが、人ではないもののように感じられる。


「本日はどのようなご用件でしょう?」


 声も高すぎず低すぎず、稲林さんだということはわかるのだが、稲林さんなのだろうかと思った。

 ……どの、ってなんだ?


「あのっ、こんにちは。ええと……先日山唐さんにお会いできまして……一応解決しましたので……」

「それはよかったです」

「その、お礼になるかどうかわからないのですが……お稲荷様ってお揚げは……」

「ありがとうございます」


 びっくりした。少し離れたところにいたはずなのに、稲林さんがすぐ近くにいる。きっと、ユマが俺の前に陣取ってくれなかったら目の前まで来たのかもしれない。

 ココッ、コココッ!

 ユマの羽が逆立っている。

 ピヨピヨピヨッ!

 どういうわけかメイの羽もぶわっと膨らんでいた。

 この間も思ったけど、これはいったいどういう状況なのだろうか。


「ユマ、メイ、止めなさい。これをお渡しするだけだから」


 二羽を制して、豆腐屋で買ってきた包みを稲林さんに渡した。


「ああ、この辺りの豆腐屋さんは本当にいいお仕事をなさる。隣村の豆腐屋さんのお豆腐もおいしいですよ」


 稲林さんは目をスッと細めて嬉しそうに教えてくれた。


「そうなんですか。でも隣村って、すぐ隣なのに遠いですよね」

「どうしても間に山がありますからね。もし隣村に向かわれるご用事がありましたら覚えておいてもいいのではないでしょうか」

「そうですね。ありがとうございます」


 稲林さんはふふっと笑んだ。


「……佐野さんはとても素直でいらっしゃる。……気持ちもわかりますなぁ」

「え?」

「わざわざこちらまで来ていただきありがとうございます。今年の夏祭りは参加されますか?」

「え? あ、はい……夕方にでも少し顔を出したいとは思っていますけど……」

「そうですか」


 ごみ拾いウォークの話をした方がいいのだろうかと思ったけど、まだおっちゃんとも話してないからやめた。ある程度話をつめてからするべきだろう。


「どうぞ気を付けておかえりください」

「あ、はい……」


 稲林さんは包みを持ったまま踵を返した。そして俺が返事をするかしないかのうちに、神社の向こうへ姿を消した。


「…………」


 こういうのって、狐につままれたような気分というのだろうか。


「……ユマ、メイ、帰ろう」


 ココッ、ピヨピヨと返事をしてもらえてほっとした。まだユマとメイの羽がぶわぶわしている。俺の背にもツツーと汗が伝った。

 稲林さんって本当にどういう人なんだろう。

 やっぱりお稲荷さまの眷属の狐さんなのかな。

 まさかな。



ーーーーー

別に不穏でもなんでもないです。

次の更新は27日(金)です。


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なろうからの転載です。まんまタイトル通りの話です。ハッピーエンドですよ~。

八割勢いで書きました。作者は大好きなお話です(笑)

こちらも是非読んでみてくださいませー。

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