1000万PV記念SS「タツキさんのひみつ」
そういえば最近東の山のドラゴンさんが出てないなと思ったので、本編の裏話みたいなのをご用意しました。
楽しんでいただければ幸いです。
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屋台でタツキが桂木実弥子に買われてから、まもなく三年が経とうとしている。
タツキが住んでいる山は通称ナル山という。居住区画と道路以外はあまり整備されていないが、それがタツキにとっては心地よかった。
隠れる場所が豊富にあるので、虫や小動物が沢山いて食べ物に困らないのだ。
ただ、藪など動きづらい場所があるのは時折困る。
引っかかっても動けないことはないのだが、たまに獲物を狩るのに難儀する。
おかげで先日はシカを一頭しか狩れなかった。うまく動けば三頭ぐらい一度に狩れたはずである。一頭は自分で食べるが、二頭は実弥子のお土産にしてもいいのではないかとタツキは思ったのだ。しかも佐野の山の境で見つけたせいか、タツキ自身の分以外はみな佐野の山に逃げてしまったのである。
たまたまそれを実弥子とその妹のリエが目撃していたことで、シカが佐野の山の裏山に逃げ込んだことを知られてしまった。
せめてあと二頭狩って実弥子にあげるつもりが、藪だのなんだののせいで狩れなかったのである。
タツキはさすがに不機嫌になった。
「タツキ、湯本さんのお宅でシカ肉を食べることになっているんだけど一緒に行こう?」
佐野の裏山に逃げ込んだシカは、結局ニワトリたちの餌食になったようだ。ニワトリは三羽もいるからまとめて狩ることもたやすいようである。
実弥子たちは知らないが、タツキたちは自分たちの縄張り以上の場所には入れない。それは西側だけでなく東側の山も同様であった。
おかげでシカを追っていくことはできなかったし、更に東側の山も入るのは難しい。東側は獲物を追ってなら一時的に入れないことはないが、タツキにはあまり持久力がない。一日中山の中を駆けずり回っているニワトリたちのようにはいかないのだ。
ただし瞬発力はすごいので、シカでもイノシシでも、他の小動物も捕まえることはできる。
タツキは実弥子とリエの言葉を無視した。
シカのこともそうだが、どうも北側が騒がしいのである。
そんなわけでタツキは北側の、佐野の山との境辺りに日参していた。
実弥子とリエは湯本の家に泊まりに行き、シカ肉を堪能してきたようである。
帰宅した実弥子からシカ肉を土産にもらった。
「タツキ、次は一緒に行こうね。シカを狩れなかったのはしょうがないんだから気に病むことはないよ」
そういうことではないのだが、それを実弥子にわかってもらうのは難しい。
リエは畑の様子を見ている。タツキの側には実弥子しかいなかった。
「ミヤコ」
「なあに?」
実弥子はタツキをまっすぐ見る。とても嬉しそうな顔をしていた。
タツキは話すのが苦手だ。だが佐野のところのニワトリたちがしゃべったのを聞いて、しゃべれた方が便利ではないかと以前よりも声を発するようになった。
「シカ、チガウ」
「原因はシカじゃないの?」
タツキはゆっくりと頷いた。
「でも佐野さんの山の境には行くのね?」
それも頷く。
「そっかー。私の知らない何かがあるのね? でも、私には教えてくれないんだ?」
タツキは少し困った。タツキにもまだ何が原因かはわかっていないのだ。
「ミヤコ」
「うん、わかった。もし、タツキが説明できそうならお願いね?」
実弥子はそう言って、タツキの身体をぎゅっと抱きしめた。タツキは実弥子が痛いのではないかと心配するのだが、実弥子はそうでもないらしい。
「あー、お姉ちゃんまたタツキといちゃいちゃしてるー」
「いいでしょー!」
「いいなー。私にもらぶらぶしてくれる子いないかなー」
リエの声は甲高い。実弥子の妹だからタツキが守る存在であるというのは変わらないのだが、話している内容がころころ変わっていくのでタツキには難しかった。
「……リエ、私はずっとこの山で暮らすつもりだからいいけど、リエは違うでしょ」
「まぁねー」
タツキは緩まった実弥子の腕から下り、またゆっくりと見回りに向かった。北側がどうもきな臭い。
いずれ理由はわかるかもしれないが、今は警戒するに越したことはなかった。
後日、北側の山からそれなりの数の猿がやってきてタツキが撃退するのだが、それはまた別の話である。
おしまい。
佐野君が実家に帰っている間に山では何かがありました。いずれ機会がありましたら書きますねー。
これからもどうぞ「山暮らし~」をお願いします。
レビューやコメントなどいつもありがとうございます!
2巻の予約始まっております。今回もかわいい書下ろしをいろいろ入れておりますので、楽しみにお待ちいただけると幸いですー!
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