584.神様もいろいろだった

 神社から続く石段を下りてからも、しばらくユマとメイの羽は元に戻らなかった。

 ぶわぶわと膨らんでいるのはもこもこしててかわいいのだが、夏にこんな風になることはまずないから少し心配だった。


「ユマ、メイ、大丈夫か?」


 コココッ、ピヨピヨと律儀に返事をしてくれるのがやっぱりかわいい。


「落ち着け落ち着け」


 軽トラに乗せて二羽の羽をできるだけ優しく撫でた。ユマもメイも気持ちよさそうにしてくれていたから大丈夫だろう。撫でる方も気持ちいいから最高である。なんか和んでしまった。

 帰りにまた豆腐屋に寄り、豆腐皮と干豆腐の感想も伝えてきた。今日は残念ながら作っていないらしい。


「前の日に言っておいてくれれば準備するからね」

「そうでしたね。今度事前に電話します」


 また沢山豆腐類を買わせてもらい、おからもいっぱいもらった。俺はけっこうおからの炒り煮が好きなんである。


「少し炒って、塩もみしたキュウリと混ぜてサラダにしてもおいしいわよ~」

「やってみます」


 それはそれでおいしそうだ。きゅうりならけっこう生っている。


「そういえばでかく育ちすぎたきゅうりってどうしてます? つい収穫を忘れてしまって……炒めるぐらいしかしてないんですが」

「あら、それならかつおぶしと煮て食べるといいわよ。冷めてもおいしいから」

「へえ」


 作り方を教えてもらい、メモをした。でっかいのなんて炒めて食べるぐらいしか思いつかなかったけど、他にもやっぱり調理法はあるんだな。


「お待たせ」


 駐車場で待っていてくれた二羽に声をかけ、山へ戻った。

 さっそく育ちすぎたきゅうりを煮て、粗熱を取ってから冷蔵庫で冷やすことにした。

 え? 雑草はって?

 朝作業するからいいんだよ。こんな暑い時間は家の中で作業するか昼寝するに限る。って誰に言い訳をしているんだ俺は。

 いつも通り暗くなる前に帰ってきたポチとタマだったが、何故かタマにはつつかれた。


「いてっ! タマ、なんでつつくんだよ!」

「ダメー」

「え? 何が?」

「メイー、ダメー」


 よくわからないけど、今日俺がメイを連れ出したことがまずかったらしい。俺は困惑してユマを見た。


「ユマー」


 ユマがタマに返事をした。タマはそれに対し、頷くように首を動かした。それでどうやら意志の疎通ははかれたらしい。ニワトリというのもやっぱりよくわからない。


「もしかして、今日メイを神社に連れてったのがいけなかったのかな? でもユマが見ててくれたから……」


 タマは俺を一瞥するとそっぽを向いた。つつかれなかったということは間違ってはいないらしい。俺だってお前らの考えとかわかる時もあるんだよ。


「タマ、次は気を付けるよ」

「ツギー、ナイー」

「はいっ!」


 なんかとても怖かったので即返事をした。なんか俺情けないなと思った。

 正直なんも考えてなかったけど、前に神社に行った時もユマがすんごく威嚇してたんだよな。稲林さんに対してだったから、稲林さんが危険な存在ってことか? でもあそこは神社だし……と考えてから、そういえば神様っていろんなのがいるよなと思い直した。

 ここの山の神様も、お稲荷様も、俺たちにとっては何か困ったことがあるわけじゃないけど、もしかしたらうちのニワトリにとっては何かあるのかもしれない。メイは連れて行ったらダメだってことは覚えておこう。

 夕飯に、煮て冷やしたきゅうりを食べた。うん、これはこれでうまいと思う。

 一つ勉強になった。

 うちの中に入ってきたらしい蚊をポチがぱくりと食べた。ホント、ニワトリたちのおかげであまり虫には悩まされないで暮らしていると思う。


「虫、食べてくれてありがとなー。でもオニヤンマは食うなよー」


 オニヤンマも捕食する側なので、オニヤンマが飛んでいるところにはあまり虫がこないらしいと聞いたことがある。それで確か虫除けにオニヤンマのおもちゃを釣り下げるなんてのもあった。実際に効果があるかどうかは不明だ。だってうちには頼もしいニワトリたちがいるから必要ない。


「そういえば、明日はおっちゃんちに行くんだけど……」

「イクー」

「ルスー」

「イクー」

「ピヨピヨ」


 すぐに返事があった。ルスーってなんだルスーって。今回はごみ拾いウォークの話があるだろうから、できればみんな一緒に聞いた方がいいと思う。

 特にタマはいてくれると助かる。


「タマ、悪いけど明日はみんなと一緒に来てくれ。多分おっちゃんから話があると思うんだ」


 タマは首を頷くように動かした。


「ワカッター」

「ありがとな」


 やっぱうちのニワトリは最高だと思う。でも礼を言ったらみんなしてコキャッと首を傾げるのはどうかと思うんだ。いいかげん泣くぞ。



 そして翌朝、いつも通りといえばそうなんだが、またタマがどすんと足の上に乗った。


「うぉっ!? タマ、もっと優しく!」

「オキター」


 俺が起きたことを確認したらバッとどき、そのままドドドドドとすごい速さで走って行く。今タマ、廊下で曲がる時にドリフトしなかったか? 本当にうちのニワトリってなんなんだろう。


「まだそんなに明るくなってないだろーが」


 太陽は出てるんだろうけど、何せここは山の中腹だから光が届くのはそんなに早くないのだ。(周りにも山が連なっているからである)


「何で俺も昨日言っておかないかな……」


 ぼやきながら起き上がり、朝食の支度に向かうのだった。



ーーーーー

サポーター連絡:昨日限定近況ノートに「山暮らし~」の小ネタを上げました。お時間のある時にでも覗いてやってくださいませー


もしかしたら今日またお知らせを上げるかもしれません(謎

上げられなかったらごめんなさい。


レビューコメントもいただきました! ありがとうございます~


次の更新は1/31(火)です。よろしくですー

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