565.お茶の前にお昼ご飯をいただく

 翌日は特に起こされはしなかった。

 タマは自分が出かけるとか、お客さんが来るとかでなければほっといてくれる。いや、ほっといてくれるってなんだよ。ほっとくのが普通だろうが。

 一人ツッコミをしつつ、ニワトリたちに餌をあげてポチとタマを送り出した。

 二羽はいつも通りツッタカターと裏山の方へ駆けていく。


「獲物は取ってくるなよー」


 と釘を刺した。正直獲物なんか取ってこられたらいつまで経っても実家に行けない。

 ユマにメイを預け、畑の手入れをしたり草を抜いたりしていた。空はまだどんよりと曇っているが、もう何日かしたら梅雨が明けそうだと思ったりもした。

 そろそろ和菓子屋へ向かおうと、ユマに肩掛け鞄をかけさせてその中にメイを入れる。思ったよりでかくなっていて、気がついたらぎゅうぎゅうになりそうな勢いだ。成長は確実にしているらしいとにこにこしてしまった。


「メイはメイなりに成長してるんだな」


 和菓子屋で紅茶に合う和菓子がないか聞いてみた。

 和菓子屋の娘さんはよっぽど相川さんに会いたいらしく、今回も「お友達は……」と聞かれた。


「後で会うことになってるんですよ」


 と答えたら、「それはそれで……」とか呟いていた。なんか挙動不審だけどこういう人なのだと思うことにしている。


「そうですね……紅茶ですと、みたらし団子とか芋羊羹がいいかもしれません」

「じゃあ……みたらし団子と餡団子を五本ずつ、それから芋羊羹を二本ください」

「ありがとうございます!」


 娘さんはうちの試作品だと言って月餅?を二個くれた。


「月餅、ですか」

「はい、クルミを入れてみたんですけど……お好きな方が多ければ月見の時期に販売したいと父が」

「それもいいですね。ありがとうございます」


 にこにこしながらそう言う娘さんに好感を持った。お店の商品を大事に思っている人っていいよな。

 月餅って中国のイメージしかないけど、やっぱり月見の時期に食べるものなのか。(実はその辺全然知識がない)

 相川さんならそこらへん知ってそうだなと思いながら、一旦降ろしていたユマとメイ(メイは肩掛け鞄からは降ろさなかった。まだ危ないし)を回収しておっちゃんちへ向かった。

 俺が着いてすぐぐらいに相川さんも到着した。


「佐野さん、こんにちは。遅れましたか?」

「いえ、俺も今来たところですよ」


 自分で言ってからデートの待ち合わせかよと一人ツッコミした。

 軽トラが着く音が聞こえたのか、玄関のガラス戸がカラカラと開いた。


「おう、昇平も、相川君も来たか」


 おっちゃんだった。


「あ、おっちゃん。ユマたちは……」

「畑に行かせてていいぞ」

「ありがと」


 おっちゃんに手土産の和菓子を渡してユマとメイを降ろした。今度こそ肩掛け鞄からメイを降ろすと、メイはブルルルッとその場で身を震わせた。かわいいな。


「畑の方へ行っててもいいってさ」


 ココッとユマが返事をする。メイもピヨピヨと鳴いた。メイも返事をしているんだろうな。あー、癒される。

 ……実家行きたくねえ。

 気を取り直しておっちゃんちにお邪魔した。

 途端においしそうな匂いがして、腹が鳴るのがわかった。


「昇ちゃん、相川君もいらっしゃい。こんなに頂いちゃっていいのかしら?」

「後でお茶を淹れますので、その時のお茶菓子ですから大丈夫ですよ」


 相川さんがソツなく答える。


「ありがとうね~」


 おばさんは上機嫌で和菓子の包みを持って奥の部屋へ向かった。仏壇へ供えるんだろうなと思った。

 で、まずは昼食である。

 いつもの漬物と、小松菜のお浸し、ひじき煮(大豆が入っているのが嬉しい)、きんぴらごぼうの他に、


「ちょっとレシピを見つけて試してみたの~」


 と出てきたのは、シカ肉の辛味噌炒めというやつだった。俺が作るのと違って野菜もふんだんに入っているが、全然水っぽくない。やっぱり長年料理をしている人は違うなと思う。

 ごはんと中華スープを出されて食べてみた。


「うまっ!」

「おいしいです」


 ただの辛味噌じゃない。なんか花椒のかんじもあるしごま油の香りも立っている。これなら確かにシカ肉に臭みがあってもおいしく食べられると思った。


「真知子さんは研究熱心ですね」

「相川君、そんなこと言ってもこれ以上は出てこないわよ~」


 なんて言いながら、おばさんも嬉しそうだ。


「辛えけど、なんかクセになる味だなぁ」


 おっちゃんもけっこう食べていた。


「こういうのもいいわね~」


 おかげでごはんをお代わりして食べてしまった。みんなでぽんぽこりんなおなかを抱え、満足はしたけどお茶は? とも思った。

 でもしょうがないのだ。おばさんの料理はいつもおいしいのである。(開き直り)

 食べ終わった頃に玄関の向こうからクァーッ! とユマの鳴き声がした。


「はいはい、ユマちゃんごはん食べる~?」


 おばさんもおなかを抱えていたのにすぐ動けるのがすごい。本当は俺が真っ先に動かなければいけないんだけどな。


「昇ちゃん、台所からボウル取ってもらえる~?」

「はーい」


 声をかけてくれたおばさんに感謝である。

 腹ごなしに相川さんと表へ出て、しばらくユマとメイを見守ったのだった。



ーーーーー

月餅はヤマ〇キの月餅が好き。和菓子って書いてあるけど(笑)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る