564.できれば山に引きこもっていたい

 さて、明日もまたおっちゃんちに出かけることとなった。


「明日もおっちゃんちに行くけど、一緒に来てくれるかー?」

「イカナーイ」

「イカナーイ」

「イクー」


 ピヨピヨとメイは鳴いて俺の側に来てくれた。うん、わがままだけどいい子だな。


「明日はポチとタマは留守番で、ユマとメイが付いてきてくれるんだな。了解」


 これで明日についての確認はできた。予定を事前に言っておくって大事だ。


「あれ?」


 姉ちゃんからLINEが入っていた。


「実家にはいつ行くの? 私も行くわ」

「まだ決めてない。一週間以内には行くよ」

「水曜日か金曜日にしてくれる? お昼ごはんも食べていくんでしょう?」

「先に駐車場の確認をしたいから厳しいかな」

「後にしなさいよ」

「嫌なことは早く済ませたいんだよ」


 これらのやりとりをLINEでするってのが億劫だ。だからと言って電話で話して怒鳴られるのも嫌だったりする。でもやっぱり姉ちゃんから電話がかかってきてしまった。嫌々取った。ここで取らなかったら後が怖いのである。


「……もしもし」

「なによその嫌そうな声は」


 しょっぱなから喧嘩腰なのはどうかと思うんだ。この場合は言い訳などしないのが一番だ。


「用件は?」

「全く……かわいくない子ねぇ。お昼には間に合うように来るの?」

「こっから高速乗っても三時間はかかるからわからないよ。順調にいけば昼前には着くと思うけど、駐車場の確認を先にしたいし……」

「じゃあ駐車場で待ってることにするわ。着く30分前ぐらいに連絡ちょうだい」

「……別に姉ちゃんが付き添ってくれる必要はないだろ?」

「兄さんのところもトラブルがあったみたいなのよ。兄さんも関係を切る口実がほしいみたい」

「マジかー……」


 頭を抱えたくなった。


「兄貴んとこのトラブルって?」

「兄さんは畑をもらったって言ってたじゃない? 伯父さんが家庭菜園みたいなのをやりたいからって言って兄さんの土地を借りてるんだけど、今年に入ってから半分を駐車場にしないかみたいなことを言い出したらしいのよね」

「兄貴の畑って……」

「昇平の駐車場の近くにあるのよ」

「それでか」

「多分ね。でも兄さんは子どもに土地を残しておくつもりだから駐車場にするつもりなんてないの。この間伯父さんのことで兄さんに聞いたらそんなこと言ってて……だから昇平の駐車場の様子も見たいんですって」

「……見るのはかまわないけどさぁ……」


 兄貴はすごくいい人なのである。そして自分の価値観を絶対に曲げない人だ。山を買って隠棲するって言ったら真っ先に止めてきたし、世の中の半分は女性なんだから、絶対他にいい出会いがあるはずだ! と俺に力説してきたのだ。

 はっきり言おう。勘弁してほしい。


「……ああそうね。デリケートな話題についてはできるだけ黙らせるわ」


 姉ちゃんは俺が渋る理由を察してくれたみたいだ。


「姉ちゃん」

「うん」

「いつ行くか決まったら連絡する」

「よろしくね」


 電話が切れた。兄貴に悪気は全くないから困るんだよな。兄貴は普通に就職して、今の奥さんに出会って子宝に恵まれてって人だから、それ以外の幸せは認めないのだ。そこらへんは自分でやってくれって思うんだけど、それでうまくやっていけてるから俺にも口を出してきたんだと思う。


「……俺はここで満足してるんだけどなぁ……」


 かわいいニワトリとひよこが合わせて四羽もいるんだぜ?

 ユマが俺の視線に気づいたのか、トトトと近づいてきてくれた。居間から土間に近づいたらすりっと擦り寄ってくれた。


「ユマは優しいなぁ……ちょっとごめんな」


 ユマをそっと抱きしめて羽を撫でる。俺が落ち込んでいる時とか、ユマはいつだってこうやって寄り添ってくれる。これ以上の幸せなんてないだろう。

 とはいえ兄貴にああでもないこうでもないと言われるのも嫌だ。


「桂木さんに……頼んだ方がいいのかなぁ……」


 彼女のフリをしてくれと言うのも気が引ける。兄貴がおっちゃんちに確認の電話をしたりはしないだろうから、桂木さんに頼んでも問題はないだろうけど、そういうことで頼るのもどうかと思うんだよな。

 今度はリンさんの顔が浮かんだ。


「……いや、ないな。絶対にない」


 リンさんの写真とか頼むぐらいならユマの写真を出して「これが俺の嫁!」とか言った方がましだ。病院に連れて行かれる危険性もあるから絶対にしないけど。

 ふと視線を感じて顔を上げれば、ポチ、タマ、メイにじとーっという目を向けられていた。

 しょうがないだろ。人間には人間の苦労ってものもあるんだからさ。

 苦笑して、パッとユマを放した。


「サノー、ダイジョブー?」


 ユマに無邪気に聞かれて笑顔になる。


「うん、大丈夫だよ。ユマ、ありがとな」


 もちろんポチ、タマ、メイにもありがとうだ。いつまでもユマを抱きしめているのはよくない。

 明日はおっちゃんちだ。相川さんが持ってきてくれるお茶はどんな味がするんだろうか。和菓子屋には俺が向かうことになっている。


「さー、風呂入るかー」

「オフロー」


 ピヨピヨ。

 メイもすっかり風呂好きだなとほっこりしたのだった。


ーーーーー

790万PVありがとうございます! 800万記念SSは来年でお願いします~(汗


12/30までは毎日二話更新です。その後は週二回程度の更新になりますのでご了承くださいませ。

本日は一日外出予定なのでコメントの返信はもしかしたらできないかもしれません。

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