559.隣村の往復はかなり時間がかかる
帰り際に何気なく、
「何か見つけたかー?」
とニワトリたちに聞いたら、
「シカー」
「シカー」
「サノー」
ピイピイとメイからも返事があった。やっぱシカがいたのか。ユマよ、佐野ってなんだ。俺は獲物じゃないぞ。
「シカですか。どの辺で見かけられましたか?」
山唐さんがポチとタマに聞く。今回手土産に和菓子だけでなくシカ肉を冷凍したものを持ってきたけど、それではやはり足りないんだろうなと思った。山唐さんて、ごはんの代わりに生肉食べてそうだし。
……それは大丈夫なのか? それともそういう特殊な身体なのか?
また悩んでしまった。
「アッチー」
「ヒクイー」
ポチが見つけたのだろう方向へ頭を動かす。タマがそれに補足した。
「なるほど。ポチ君もタマさんも優秀ですね。ありがとうございます。後ほど見てきましょう」
そう言って山唐さんはどこから出してきたのかブルーベリーの実を何粒かずつうちのニワトリにくれた。少しずつぐらいならあげてもいいんだよな。
「オイシー」
「アリガトー」
「アリガトー」
ピイピイとメイも反応する。俺たちもお土産ですと持たされてしまった。
「ここでブルーベリーって栽培してるんですか?」
そう尋ねたら山唐さんは頭を掻いた。
「ええ……下の村にはブルーベリーを栽培しているお宅もありまして……」
何故か言葉を濁している。もしかしたら入手先が違うのかもしれない。奥さんが慌てたようにレストランの裏側を何度か見やった。もしかしたらそちらに畑があるのかもしれないと思ったが、見せてくれないものをわざわざ見に行くつもりはないので気づかないフリをした。
「そうなんですか。ありがたくいただきます」
どれも粒が大きくておいしそうだった。これは取られないようにしないととしっかりしまう。水餃子はほとんど俺がもらうことになってしまった。相川さんは自分が料理をするのでいろいろ作って試してみるつもりだと言っていた。さすが料理男子だ。俺にはとても真似できない。もう少しやる気を見せろって? ほっとけ。
リンさんとテンさんはネズミなどを見つけて食べていたらしい。大蛇コワイ大蛇コワイ大蛇コワイ。
「またお邪魔させてください」
「はい、いつでもご連絡ください」
それなりの価格はしたが、しっかりもてなしてもらえたのだから当たり前である。
この山に宿泊施設はないが、泊まりで来るつもりがあるなら下の村で泊めてくれるお宅もあるらしい。さすがにそれは申し訳ないのでまた昼飯を食べに来ますと伝えた。相川さんの作ってくれる中華料理もおいしいが、プロの料理人が作ってくれた中華料理は絶品だった。また食べに来たいと思う。
「いやー、おいしかったですね~」
「そうですね。やっぱりプロは違いますね~」
そんなことを言いながら元来た道を辿って山へ帰ったのだった。
どうにか真っ暗になる前に辿り着くことができてほっとした。けっこう山唐さんのところは遠い。回り道になるから隣村自体が遠いのだ。
「いやー、さすがに遠かったなー」
しかも道が通っているとはいえ山を最低一つは越えている。二つぐらい越えてることになるのかな。で、向かった先は山の上だ。
「道がまだ見える時間でよかった……」
下手したらおっちゃんちに泊めてもらうようだったろう。ニワトリたちとリンさんテンさんがあまり長居しないでくれてよかった。日が長い時期だったからよかったけど、日が短くなってきたらあまり行けないかもしれないなんて思ってしまった。
ともかく急いでポチとタマを重点的に洗った。一応山唐さんのところで羽を撫でつけたり軽くごみを落としてきたりはしたがこのまま家に入れるのは勘弁である。
四阿の明かりをつけ、できる限りキレイにしてから家に入れた。
疲れた。
足元もしっかり拭いた。
次はニワトリたちのごはんだ。がんばれ、俺。
とかなんとか言ってるけど一番たいへんなのはポチとタマをキレイにすることである。ごはんなんて松山さんのところから買ってきた餌をボウルに入れてシカ肉を切って乗っければいいだけだ。メイも食べたさそうなのでシカ肉は細かく切って少しあげた。
「疲れたな~……」
「タナー」
「タナー」
「タナー」
「お前らは疲れてないだろ!」
思わずツッコミを入れた。メイは相変わらずピヨピヨ鳴いている。
山唐さんからいただいてきた水餃子をフライパンで焼いていただいた。うん、焼いてもフツーにうまい。手作りの餃子ってやっぱ皮がおいしいよな。俺は自分で作る気にはなれないけど、陸奥さんちとかおばさんも皮は手作りしていた。市販の餃子の皮は使わないんですか? と聞いたら「使うわよ~」と言っていたけど、手元になかったから作ったという話らしい。
いやいや、手元に餃子の皮なかったら普通作らないと思う。なんだかんだいって皆さん料理好きなのかもしれない。
「あ、そうだ」
思い出して姉ちゃんにLINEを入れた。
「最近調子はどう?」
「どうもこうもないわよ。今電話できる?」
すぐに姉ちゃんから返事があった。これは尋常ではない。
「もしもし、姉ちゃん?」
「昇平、すぐに土地の管理を大手に委託するか私に変えなさい!」
いきなり大きな声でそう言われて、耳が痛くなった。
「……え?」
やっぱり伯父がなんかやらかしていたみたいだ。頭が痛くなった。
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750万PVありがとうございます♪ これからもよろしくですー。
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