558.川魚とか、所有者不明な土地の話。そしてなんとなく残るもの

 今回は時間がないので向かわないが、今度来る時は北の山の湖へ釣りに行こうという話になった。


「釣った分は持ち帰っていただきますけど」


 奥さんが戻ってきてにこにこしながら言う。そうだよな。釣りました。はい、さようならってわけにはいかないよな。


「うーん……」


 一匹ぐらい釣れたとしても俺ではとても捌けないから、釣りをしたいのはやまやまだがどうしたものかと悩む。


「なんでしたら捌くのはうちで行いますよ。切り身にしてお渡しすることは可能ですから」

「そこまで甘えてしまっていいんですか?」


 山唐さんにそう言われ、さすがに驚いて聞き返してしまった。


「ええ、普通はあんなにでかい魚を捌く機会がある方はそういないと思いますので」


 相川さんがずずいっと身を乗り出した。


「山唐さん、その際は捌くのを隣で見させていただいてもよろしいですか?」

「かまいませんよ」


 山唐さんは苦笑した。相川さんは料理男子だから料理に関することへの探求心がすごい。いや、料理だけじゃないな。いろんなことにチャレンジしている。とても真似できないなといつも感心するばかりだ。


「そうなると……下の村の方々はどうしてるんですか? 魚を一尾丸ごともらっても捌くのとか……」

「水がキレイなので、内臓だけ取り除いてぶつ切りで鍋に入れてもおいしいのだそうです。鱗(うろこ)に関しては好みになりますが、鯉は煮込めば鱗もおいしく食べられると言っている方はいましたね」

「へえ~。内臓とかはどうなんですか?」


 気になるのはそこである。何せうちのニワトリたちは内臓を好んで食べるので。


「うーん……内臓は止めた方がいいと思います。水がキレイとはいえ、やはり毒素が溜まりやすい器官ではありますから」

「ああ……それはそうですね。わかりました」


 魚って確かに常に水の中にいるから、下手すると常に口の中になんか入ってくるもんな。


「ニワトリたちの餌でしたらやはりイノシシやシカの内臓がいいでしょう。もちろん病気個体では食べることはできませんが」

「この辺りって病気のイノシシとかシカって出たことがあるんですか?」


 この際聞けることは全て聞いてしまおうと聞いてみる。うん、俺ってばなかなかに図々しい。


「私がこちらに来たのは昨年の六月の終り頃ですからそれ以降のことしかわかりません。こちらに来てから何頭か狩っていますが、病気の個体はまだ見ていませんね」

「それならよかったです……」

「ただ……こちらの南側の山と養鶏場の松山さんの山の間に空き地がありまして」

「はぁ」


 空き地なんてあるんだと思った。


「丘のような土地なのですが所有者が不明なのです。おそらくこちらの村か、そちらの村に所有者がいたのではないかと思うのですが、今となっては調べようもなくて困っています。その土地ではシカが大分繁殖しているので、間引くようにはしているのですができれば持ち主を特定したいんですよね」

「ああ……それはそうですよね」


 土地の所有者がわかれば、足を踏み入れる許可も取れるだろう。


「山唐さん、その話って他の方にもしましたか?」

「下の村では聞いてもらったのですがやはり不明なようで……そちらの村ではまだ聞いていません」

「うーん……」


 俺もおっちゃんぐらいしか知り合いっていないしなぁ。


「松山さんには……」

「お聞きしましたが国の土地ではないかと言われまして」

「ははあ。登記簿みたいなのは……」

「それが昔すぎて見つからないのです」

「俺が聞けるとしたら湯本さんぐらいなので期待には沿えないと思うんですけど……」


 頭を掻いた。

 村の人たちとはほとんど付き合いがないしな。後は陸奥さんぐらいだろう。


「ああ、湯本さんは顔が広いですよね。実は所有者不明の土地のことを調べ始めたのは最近なのです。なのでできれば聞いていただけると助かります」

「わかりました。聞いてみます」


 三座も管理しないといけないとなるとけっこうたいへんなんだろう。山唐さんがこちらへ来てからやっと一年が経った頃だろうしな。


「僕も、陸奥さんたちに聞いてみましょう」


 相川さんもそう言って笑んだ。土地の持ち主が早く見つかればいいななんて思った。


「山って、意外と飛び地で持っていらっしゃる方もいるんですよね。家はここだけど自分の山はここ、みたいな方が」


 相川さんがポツリと呟いた。


「あ、確かにそれ聞いたことあります」


 山だけじゃなくて森林とかもそうだ。住むには不便だけど手放せないから、なんてことも聞いたことがある。よく考えたら俺も地元の方にマンションの一室と駐車場は持ってるしな。そういえば駐車場問題どうなったんだろう。後で姉ちゃんに電話して聞いてみようと思った。

 ニワトリとリンさん、テンさんはめいっぱい遊んできたらしく、戻ってきた時は夕方だった。ユマは近くにいたみたいだが、ポチとタマはどこの不良だと思うような羽の乱れっぷりだった。だからお前らはいったいどこまで走っていったんだよ。


「ユマ、ごめんな。メイと一緒じゃ全然遊べなかっただろ?」


 メイは回収すべきだったと反省した。


「ダイジョブー」


 ピイピイとメイが鳴く。

 ニワトリたちは自分たちが暮らしやすい形に進化した。それは俺と一緒にいてくれる為だったのだろうと思う。


「風呂、作ろうな……」


 ユマが俺と一緒にいてくれようとする優しさには応えたい。もちろん、ポチやタマの優しさにも。メイは今のところかわいいだけだけどな。



ーーーーー

忘れてしまったけど、佐野君はニワトリたちに愛されていることを知っているのです~


730万PVありがとうございます! PVの上がりっぷりが激しくて慄いております~

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