560.やっぱり顔は出さなきゃまずいかも

 姉ちゃんがひどく感情的になっているのはわかった。


「姉ちゃん? なんかあったのか?」

「あったなんてもんじゃないわよっ! ああもう、ちょっと電話切るわね。写真送るから!」

「あっ、うん」


 一度電話が切れたかと思うと、姉ちゃんから画像がいくつかLINEで送られてきた。それは俺が所有している駐車場の写真みたいだった。

 俺が贈与された駐車場の土地はそれなりの広さはあるが、当時は周りに畑や田んぼしかなかったのだ。だが写真に住宅のようなものが映りこんでいることから、周りの畑や田んぼの所有者が土地を売ったのかもしれないと思った。駐車場は一応細い道に面していたが、せいぜい畑や田んぼの所有者と、近くの保育園の保護者が使う為に借りているぐらいで、駐車場自体は税金を払うととんとんになるかならないかというところだったのだ。だからあの駐車場はいわゆる税金対策だったのだろうなということはわかっていた。

 確か毎月多くても十五台ぐらいしか停まっていなかったはずである。しかも一台分ずつの間隔をコンクリートブロックで広めに取っていたはずだ。

 だというのに何故か一台一台の間隔が狭く見える。


「え……?」


 極め付けは柵に付いている看板に書かれた月極の料金である。じいちゃんからもらい受けた時、駐車場代を5500円に上げてもらったのだが(その前は5000円だった)、何故か写真に映った看板には7000円と書いてあるし、しかも車がかなり停まっているいるように見える。


「これは……かなりやヴぁいのでは?」


 脂汗がだらだら流れる。


「こんな状態なのよ? 知ってるの?」


 というコメントが後に続いた。


「いや、知らない」


 と返し、送られてきていた駐車場契約者の名簿を確認した。先月送られてきた数が20件である。一応増えているらしい。

 改めて姉ちゃんに電話した。


「姉ちゃん、ありがとう。車って、何台停まってたかわかる?」

「そうね、今日行った時に数えたらおそらく三十台ぐらいは契約してる感じだったわ」

「マジか……姉ちゃん、俺一週間以内にそっちへ行くよ」

「その方がいいわよ。伯父さん、とんだタヌキよねー」


 タヌキが気の毒だ。


「ありがとう」


 礼を言って電話を切り、今度は母さんに電話をした。


「あら? どうしたの?」

「母さん、ごめん。俺が持ってる駐車場の契約回りってどうなってるんだっけ?」


 一応契約書とかはうちの親にも確認を取るように伯父に言ってあるのだ。母さんはため息を吐いた。


「確認したら電話するわ」


 というわけで電話待ちだ。


「ユマ、メイ、風呂はもう少し待っててくれ」


 悪いなと思いつつユマとメイに断った。


「ダイジョブー」


 ピヨピヨとメイは鳴いて返事をしてくれた。俺はユマに近づいて羽を撫でさせてもらった。ユマが寄り添ってくれるのがとても嬉しい。

 電話はすぐにかかってきた。


「なんだか、随分増えてるかんじねぇ……駐車場代は変わってないみたいだけど」

「マジで?」


 じゃあ看板に書かれていた7000円というのはなんだろう。もしかして俺、ちょろまかされてるのか?


「あら? でもそういえば以前へんな電話があったのよね。おじいさんのお友達が確かあそこの駐車場に置いてるって言ってて、二回も値上げするなんておかしいとか……」

「あー、うん……」


 俺は電話をしながら通帳を確認した。先日N町へ行った時に記帳はしてきていたのだ。名簿と照らし合わせて20件分から管理費の15000円分を引いた95000円が振り込まれている。

 なるほどなるほど。

 俺は笑みを浮かべた。


「母さんさ、その二回目の値上げがいつだったかって、じいちゃんの友人に聞くことってできるのかな?」

「え? 私が聞くのはいやよ。電話番号教えてあげるから自分で電話してちょうだい」

「ありがと」


 時計を見ると八時過ぎていた。さすがにこれから年寄りのいる家に電話をかけるのは非常識だろう。明日電話して聞いてみようと思った。じいちゃんの友達だったら朝かけてもいるかもしれないしな。


「……兄さんがなんかやったのよね……?」


 母さんがため息混じりに呟いた。


「現場を見ないとなんとも言えないよ。母さんは気にしなくていいし、そういう契約回りのこと投げちゃっててごめん。近々そっちに顔を出しに行くから伯父さんには何も言わないでおいてくれるかな」

「わかったわ……来る日がわかったら連絡してね」


 疲れたような声を聞いて、母さんには悪いことをしたなと思った。やっぱりいくら高くても大手の管理会社に委託するのが一番だろう。


「7000円ってことは一件辺り1500円は着服されてるってことかー……それで20件て、30000円じゃねーか。ざけんな」


 三万円もあったら俺の一月分の食費が賄えて更にお釣りが出るわ。


「……弁護士、紹介してもらえるかな……」


 とりあえず後は明日の話ということにして、ユマとメイを連れて風呂に入ったのだった。


「ユマ、メイ、おまたせ」

「オマタセー?」


 ユマがコキャッと首を傾げる。ああもうあざといけどめちゃくちゃかわいい。メイもピヨピヨ鳴いてるし。


「風呂行くかー」

「オフロー」


 喜ぶユマとメイがたまらん。

 タマから冷たい視線が飛んできているように思えたが、俺は無視した。

 ニワトリとひよこは最高の癒しです。



ーーーーー

760万PVありがとうございます!


本日から12/30までは一日二話更新の予定です。31日にアルファポリスで連載していた分の最新話を上げて、その後は週二話程度の更新になります。

よろしくお願いします。

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