556.ごはんの後は難しい話を

 ごはんの代わりというだけあって、ソウギョが餡になっていた水餃子は本当にいっぱい出てきた。

 わんこそばならぬわんこ餃子かなと思ったぐらいだった。水餃子じゃごはんにならないと思ったけど、皮は手作りだったからもちもちでボリュームがあってかなり腹に溜まった。皿に残った水餃子を恨めしそうに見る。

 目はまだ食べたい。しかしもう入らない。ぐぬぬ……というかんじだ。


「沢山作りましたからよろしければお持ち帰りください。焼いて食べていただくのがいいと思います」


 山唐さんが満足したように言いながら出てきた。その手にはデザートの皿が……。


「杏仁豆腐です」

「……いただきます」

「どうにか、入るかな……」


 水餃子が入っていた皿は一旦回収された。杏仁豆腐、とりあえず一口食べてみた。手作りという味だった。バケツ一杯食べたい。実際にはもう入りそうもないけど。

 お茶と杏仁豆腐でまったりする。胡麻団子とか出てこなくてよかったと思った。


「如何でしたか?」


 山唐さんがにこにこしながら再び出てきた。


「おいしかったです」

「おいしかったです。ごちそうさまでした」

「それならよかったです。花琳、トラと一緒にベランダに出ていてくれるかな」

「はい。トラ君、ベランダへ行こう~」


 奥さんはにこにこしながら金属製の皿を持ってトラ猫を促した。餌をあげるのかなと思った。トラ猫は「に゛ゃ~」と機嫌よくだみ声で鳴いて奥さんに付いていった。

 でっかい猫? もかわいいなと思った。


「本日はこちらまで来ていただき、ありがとうございました」

「いえ……」


 山唐さんに礼を言われてしまったが、言いたいのはこちらの方だ。


「今回来ていただいたのは他でもない、あの動物たちに関してのことです」


 おなかはきつかったが、どうにか居住まいを正した。


「佐野さんは昨年の春祭りの屋台で、相川さんは四年前の秋祭りの屋台でそれぞれ買われたということに間違いはありませんか」


 俺は頷く。相川さんは驚いたように口を開けた。


「秋祭り……そうでした。なんとなく、夏祭りに買ったような気がしていましたが……そうだ、あれは秋でしたね」

「秋祭りに二匹を売ったと屋台を出した者が証言していました」


 相川さんは記憶が少し混乱していたみたいだった。


「隣村では元々春、夏、秋に祭りを開催していたらしいのですが、近年は夏祭りのみになっていました。それを捻じ曲げて秋や春に祭りを開催していたことは村の人々の負担になっていたと思われます。そちらについては謝罪をさせました。今後は夏祭りのみになると考えられます」

「そう、なんですね……」

「わかりました」


 お祭りって、行く方はいいけど準備したりする方は本当にたいへんだろうからそれでよかったと思った。


「すみません。捻じ曲げて開催していたっていうのは、どなたの意志なんですか? 村の人たちの意志ではなかったんですか?」


 それだけは気になった。山唐さんは少し考えるような顔をした。


「……そこらへんの意志というのは本当に微妙なのです。屋台を出して売った者、という考え方もできるのですが……もしかしたら貴方がたと巡り合いたかった生き物たちの意志かもしれないのです」

「ええ……」

「そんな……」


 うちのニワトリたちが俺に会いたくて、春祭りを開催させていたっていうのか? にわかには信じられなかった。


「何某かの介入があったことは間違いないのです。貴方がたと暮らしている生き物たちは、お察しの通り普通の生き物ではありません」


 相川さんと共に頷く。そうなんだろうなとは思っていた。


「少し昔話のようなものになりますが、お聞きください。この山の北東側には山が何座も連なっています。そのうちの一座にはかつて集落があり、祠を作ってその山の神を祀っていました」


 山唐さんはそう、日本の田舎ではよくある話をしてくれた。

 集落からは一人二人と人がいなくなっていき、その集落もかなり前になくなってしまったらしい。集落がなくなり、神を信じる人がいなくなればやがて神も消えてしまうのだが、どういうわけかその神は周辺に住む生き物たちに好かれていた。

 消えて行こうとする神を生き物たちは心配し、その神の元へ集った。神は信じる人がいなくなってしまったことで存在が希薄になっていったが、生き物たちはますますその神の側に集うようになってしまった。

 神はそれに少し困った。

 その神に、ある物が提案した。

 生き物たちは、その生き物を大事にしてくれる者たちに引き渡しましょうと。その橋渡しを自分がやると。

 神は生き物たちの行方も憂いていたから、それに一も二もなく跳びついてしまった。そして生き物たちをその物に託した。


「それが、屋台で生き物を売っていたおじさんだったんですか?」

「そうなのです。なので春祭りや秋祭りが開催されたのは偶然ともいえますし、なんらかの介入があったことも否定はできないのです」

「それはわかりました。じゃあ……うちのニワトリたちはいったいなんなんですか? ニワトリではないんですか?」


 俺としては、経緯はどうでもよかった。

 それよりもうちのニワトリたちがどんな存在なのか知りたかった。もちろん知ったからって、うちのニワトリということに変わりはないのだが。



ーーーーー

全てが明確になるわけではなかったり(謎


700万PVありがとうございます! 記念SSは水曜日までお待ちいただけると嬉しいです~。ちゃんと書きますので~。

レビューコメントもいただきました! ありがとうございます!

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