555.真ん中山レストランのごはん

 レストランの観音扉が開いて、山唐さんの奥さんが顔を覗かせた。


「あ、佐野さん、相川さん、いらっしゃいませ!」


 今日はパンツスタイルのウエイトレス姿だった。奥さんがウエイトレスって、家族経営ってかんじでいいなと思った。


「お邪魔します。すみません、うちのニワトリたちはどうしたらいいでしょうか」

「聞いてきます!」


 奥さんは慌てたようにレストランの中へ戻った。

 軽トラからは降ろしてもいいかもしれないが、さすがに人さまの土地なので気を遣う。ニワトリたちには「ちょっと待っててくれ」と声をかけておいた。ポチとタマは心得たもので、荷台でもふっとしている。かわいい。

 奥さんと山唐さんが出てきてくれた。


「佐野さん、相川さん、いらっしゃいませ。ニワトリたちと大蛇たちを降ろしていただけますか?」

「はい」

「わかりました」


 山唐さんの指示を受けて、ニワトリたちを降ろした。相川さんはテンさんをまず降ろしたが、リンさんについては一瞬ためらったようである。


「リン、大丈夫だから」


 そう声をかけてリンさんも降ろした。


「わぁ……キレイ」


 上半身に半袖の柄シャツを着たリンさんを見て、奥さんは目を丸くした。


「なるほど。こちらの山と南側、それから北側の山の中は自由に行き来していただいてかまいません。ただし南側の先にある東側の山には入らないようにしてください。そちらは別の人の持ち物なので」

「ワカッター」

「ワカッター」

「ワカッター」

「ショウチシタ」

「ワカッタ」


 うちのニワトリたちと、テンさんとリンさんが返事をしたことにギョッとした。話せるなんて明かしたことはなかったのに、これはいったいどういうことなんだろう。

 メイはユマの肩掛け鞄の中にいるので返事は聞こえなかった。


「わぁ……みなさん話せるんですね」


 奥さんののん気な声で我に返った。


「佐野さん、相川さん、料理は少し待っていただいてもよろしいですか? 彼らに話をしなければいけませんので。花琳、佐野さんと相川さんにお茶を淹れてくれ」

「はい。どうぞこちらへ」


 奥さんに案内されてレストランの中へ入った。大きなテーブル席に案内されて腰掛ける。レストランの更に奥にはソファ席もあり、その前でトラ君がくつろいでいた。相変わらずでかいなと思う。


「どうぞ」


 お茶と漬物を出されて頭を下げた。奥さんはにこにこしている。


「失礼ですが、奥さんは山唐さんのお仕事をご存知なんですか?」


 奥さんは困ったように笑んだ。


「国のお仕事をしているってことは知ってるんですけど、具体的にはわかりません」

「そうですか」


 以前も聞いたような気はしたが改めて聞いてしまった。だってうちのニワトリたちが当たり前のようにしゃべったし。


「……不思議な方ですよね」


 相川さんがポツリと言う。漬物は浅漬けだった。ぬか漬けもいいが、浅漬けはさっぱりしていてこれはこれでいいと思う。

 やっぱりきゅうりがうまい。


「お待たせしました」


 山唐さんが戻ってきた。


「ニワトリと大蛇たちには明るいうちに戻ってくるように伝えましたが、それでよろしいでしょうか?」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「彼らについて聞きたいことがあればのちほどお伺いします。準備しますのでもう少々お待ちください」


 やはり山唐さんはうちのニワトリたちについても何か知っているらしい。そりゃあそうだよな。うちの山の神様とも話をしてくれたみたいだし。奥さんはキッチンの方へ戻った。


「山唐さんて……どういう方なんでしょうね」

「そうですね。うちのリンを見ても動揺はされませんでしたから、いろいろ知っていらっしゃるのかもしれません」

「ですね」


 そんなことを話している間に準備ができたらしい。奥さんがトレイに前菜などを載せて運んできてくれた。

 旬の野菜と蒸し鶏のサラダ、ブラウンえのきの中華風あえもの、干豆腐ときゅうりとネギをあえたもの、ウズラの卵の五香漬、中華ハムの薄切りなど中華料理っぽい前菜が並んだ。


「うわぁ……どれもおいしそうです」

「いただきましょう」


 サラダのドッシングも中華風だった。ウズラの卵の五香漬けは茶蛋(チャーダン)といって、五香と烏龍茶で煮たものらしい。味がしみててとてもおいしい。鶏卵でもできると聞いたので、相川さんがレシピを教えてほしいと言っていた。

 メインには箸で切れる角煮のような大きさの酢豚や、空心菜のニンニク炒め、地三鮮(ナス、ピーマン、じゃがいものオイスターソース炒め)、そしてソウギョの清蒸魚が出てきた。


「うわぁ……なんて豪華な……」

「すごい大きさですね……」


 頭から尾までの長さは1mぐらいあるのではないだろうか。これをまんま蒸せるとかどれだけでかい機材を持っているのだろう。さすがはレストランである。

 ソウギョの上にはネギや香菜、ショウガなどが覆うように乗っており、醤油っぽい色のタレがかけられていた。


「残したら持ち帰ってくださいね」


 奥さんに言われて俺と相川さんは頷いた。

 白身が口の中でほろほろとほぐれる。こんなにでかいのにいくらでも食べられそうだった。酢豚は味付けは確かに酢豚だったが、肉はシシ肉を使ったらしい。今の時期は脂身がほとんどないからパサパサしていたら申し訳ないと言われた。とんでもないと思った。

 大きい肉の塊なのに箸で切れるのが感動だった。色は黒っぽくて、野菜は添えられていない。酢豚は中国語で古老肉グーラオロウといい、味付けに酢を使うのは変わらないが、地域によって調理法は異なるのだそうだ。つまり大陸で酢豚のつもりで頼んだら酸っぱい肉という共通点しかないということになるのだろう。面白いなと思った。

 ごはんの代わりにソウギョの身を使った水餃子がこれでもかと出てきた。スープは酸辣湯(サンラ-タン)で、すっぱ辛いものだった。卵、キクラゲの細切り、卵の細切り、ネギや人参などが入っていてとろみがある。これもいくらでも飲めそうだった。

 人間おいしいものを食べると言葉なんて出てこない。相川さんと共に無言でごはんを平らげたのだった。



ーーーーー

久しぶりにちょっと張り切ってメシテロ回を書いてみた。(腹減った)


690万PVありがとうございます! ってもう700万近い。。。これからもよろしくですー!

記念SSは遅れるかもしれませんorz

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