一年経ってからの七月

554.隣村の山へ行くことになりまして

 それにしてもメイの成長はゆっくりだ。

 本来ニワトリっていうのはポチたちみたいに早くニワトリにはならないらしい。ポチたちの成長が早すぎたのだ。だって三月の終りに買って、四月の終りにはしっかりニワトリになってたし。どうなってるんだとユマとメイを見た。

 ユマが気づいてナーニ? と言うようにコキャッと首を傾げた。かわいい。でかいけどすごくかわいい。

 それはそうなんだがそうじゃなくて、うちのニワトリたちとメイの成長速度についてである。

 確かニワトリたちが屋台で売られていた時は、せいぜい生後一週間ぐらいというところだったはずである。ネットで調べてもそれぐらいの姿だった。それが一か月も経たないうちにニワトリになっていた。やっぱり意味がわからない。

 メイにもうちのニワトリたちと同じように尾があるが、まだニワトリには見えない。

 もう明日には七月だ。ってことは今日でメイは生後一か月というところである。よく調べたら二か月ぐらいで成鳥になるっぽいんだよな。

 やっぱりうちのニワトリたちは普通ではない。


「今更だな」


 ため息をついた。買った時から普通ではなかった。今更普通とかそうじゃないとか大したことではない。俺はニワトリたちとメイが暮らしやすいように環境を整えていけばいいだけだ。だって飼主なんだしな。

 ポチとタマが帰宅した後洗ったり餌を用意したりしつつ、天気予報を見た。シカ肉の唐揚げをもらってきたのでそれが俺の夕飯になった。

 予報では明日明後日は雨が降らなさそうだった。山ではあくまで参考にしかならないが。

 明日は洗濯することにし、そうなると山唐さんのレストランに向かうのは明後日以降になるだろう。

 相川さんにLINEを入れた。相川さんは特に予定もないらしく、いつでもかまいませんと言っていた。山唐さんにLINEを入れた。


「明後日お伺いしてもよろしいですか? 時間は昼頃です」


 返事はすぐには返ってこなかった。夕飯を食べ終えてそろそろ風呂に入ろうかと思った頃返信があった。


「明後日の昼頃ですね。お待ちしています。食べたい物、食べられない物などはございますか?」


 食べられない物は特にない。食べたい物、ねぇ……。

 不意に思い出した。そういえば山唐さんに会った時、大陸の魚を調理してくれるようなことを言ってなかったか。ソウギョとかだっけ?


「ソウギョなど、大陸の魚料理をいただけると嬉しいです」


 わがままかなとは思ったが言うだけはただだからと言ってみた。この言うだけはただっていうのは、嫌な人は嫌みたいだけど言わないで悶々とするよりはと思ってしまう。


「わかりました。用意しておきます」

「よろしくお願いします」


 と返し、相川さんに「明後日の昼に行きましょう」と連絡した。

 というわけで翌日は家事だの山の手入れだのをして過ごし、翌々日は昼頃に山唐さんの山に着くように家を出たのだった。

 え? 朝? しっかりタマに足の上に乗られたよ。俺学習能力なくてやヴぁすぎ。

 手土産は村の西側の和菓子屋で買った。和菓子屋さんの娘さんはいつも通りだった。


「あ、あの……今日はお友達さんは……」

「ああ、忙しいみたいなので後で合流するんですよ」

「そ、そうなんですね! 失礼しました!」


 相川さんはイケメンだから見たいという気持ちはわかるが、それに付き合う義理はないだろう。相川さんは桂木姉妹とだって未だ目を合わせないようにしているぐらいなのだ。

 オマケだとまんじゅうを二個いただいてしまった。今日は大福と、みたらし団子を六つずつ買った。隣の山の人もよく来るような話をしていたからその人たちが来た時にでも食べてほしいと思ったのだ。まんじゅうは後で相川さんと分ければいい。

 山唐さんにとシカ肉のブロックも冷凍して持っていく。あちらの山にもシカは出るらしいのだが、やっぱり逃げ足が早いという。


「狩ること自体はできるのですが、あまりいい状態では狩れないのでそちらのニワトリたちに狩りを伝授してほしいぐらいです」


 とか冗談だかなんだかわからないようなことを言っていた。いくらなんでも本気ってことはないだろう。

 相川さんの方が隣村には詳しいので、和菓子屋で買物をしてからS町と隣村の境辺りで待ち合わせをした。荷台には幌が付いている。その中にテンさんがいるんだろう。さすがにニシキヘビだかボアだかが荷台にそのまま乗っているのを見たら村の人たちが卒倒しそうだもんな。老人とかだと心臓麻痺を起こしそうだ。

 うちのニワトリたちは暑いということもあって荷台にそのまま乗っている。もふっと座っている姿がけっこうかわいいのだ。


「お待たせしましたー」


 窓を開けて相川さんの軽トラに向かって声をかけた。


「行きましょうか」

「はーい、先導お願いします」

「わかりました」


 そして隣村の方へ向かう道へ軽トラを走らせた。山間の少し下っているような道を通り、分かれ道を左に進む。まっすぐ進めばまた別の集落に着くそうだ。俺本当にどこにも行ってないななんて思った。

 さて、左の道を進むとまた分かれ道がある。そこでまた左側の道に進む。その道は山をぐるーっと回るようにして、やがて北へまっすぐ伸びていた。その途中で左側(西側)の上り口を見つけた。そこで一旦相川さんは軽トラを停めた。


「真ん中山レストランという看板がありますから、こちらを上がっていきましょう」


 LINEが入ったので「了解」と返して舗装されている山道を上がって行った。隣村だというのにけっこう遠かったなという印象だった。

 10分ぐらい走らせただろうか。砂利敷の駐車場に軽トラを停める。こげ茶色の三角屋根の建物がそのレストランらしかった。


ーーーーー

670万PVありがとうございます! これからもよろしくですー


近況ノートを上げました。最後の方に「山暮らし~」の今後のスケジュールなどもおおまかに記載しましたのでよろしければご確認くださいませー

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817330650779867027

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