553.へーって言いたくなる話
ドラゴンさんの様子が気になるからと、昼食後すぐに桂木姉妹は帰っていった。
近々ニワトリたちと様子を見に行こうと思った。
桂木姉妹がいなくなったら途端に静かになった。そしてなんかむさい。やっぱり女子っているだけで花があるよな。おばさんだけではやはり足りないのだ。(めちゃくちゃ失礼)
メイはおばさんの後ろをトテトテと付いて回っている。
「あらあら、やだよ。困った子だねぇ」
そう言いながらもおばさんは嬉しそうだ。
ピヨピヨピヨ。
「お野菜いるかしらねぇ」
お昼ご飯を食べた後なのにまた青菜を差し出している。食べられなかったら無理には食べないからいいだろうと思った。
陸奥さんも「ありがとうなー」と言いながら帰っていった。シカ肉を一部土産に持って。
「山唐(さんとう)さんのところ、いつ行きますかねー」
今日は雲は多いが太陽が出ているので微妙な天気だった。
「佐野さんの都合がいい時で大丈夫ですよ。そういえばダージリンの春茶がそろそろ届くと思うんです。届いたら飲みませんか?」
俺は首を傾げた。ダージリンは聞いたことがあるが春茶ってなんだ?
「春茶ってなんですか?」
「ダージリンは春、夏、秋に茶摘みができるんです。その春のお茶をファーストフラッシュっていうんですけど」
「へえ~」
そんなの初めて聞いた。
「夏とか秋とは味が違うんですか?」
「ファーストフラッシュは緑茶に近い味わいなんですよ。イメージだと中国の緑茶に味が似てるかな」
「? 中国の緑茶って日本茶とは味が違うんですか?」
恥ずかしながら聞いてしまった。
「ええ、違いますよ。僕は日本茶の方が好きですけど、ダージリンのファーストフラッシュは季節物なので飲みたくなるんです」
「へえ~」
へーの連続だ。そういえばバラエティ番組でへえボタンとかいうのを使ってたのがなかったかな。あの頃は「へー」と思ったらみんなボタンを押す真似をしていたような気がする。と、話が脱線した。
「ふーん、相川さんはおしゃれねぇ~」
おばさんが頬に手を当てて興味深そうに聞いていた。メイはおばさんの膝に器用に乗っかってピヨピヨ鳴いている。みんなの目尻が下がる。首が伸びてきて、毛も白くなってきたけどまだまだひよこだ。
「今度お持ちしますよ。他の紅茶と飲み比べとかしてみましょう」
「あら、いいの? 彼女さんは……」
相川さんは苦笑した。
「申し訳ありません。彼女はどうしてもだめなんですよ」
「残念だけどしょうがないわね」
なんて言って、そのダージリンの春茶? とかいうのが届いたらおっちゃんちでお茶をするということで話は落ち着いた。ってことはおしゃれなお茶菓子が必要だろうか。俺は首を傾げた。おしゃれなお茶菓子ってなんだろう。
「佐野さん?」
「あ、いえ……お茶菓子とか何を用意すればいいかなーって……」
「和菓子もいいですよね」
確かに味わいが緑茶に近いなら和菓子がいいかもしれない。
そんなことを話していたらそれなりに時間が経ったので帰ることにした。都合のいい日か。
表へ出ると、ニワトリたちは庭の近くにいた。いつになったら帰るの? と言いたげだったので悪いことをしたなと思った。
「お待たせ、帰るぞー」
ニワトリたちの足を洗い、ごみを取れるだけ取って軽トラに乗せた。メイはユマにかけてもらった肩掛け鞄の中だ。
「メイ、運転中は顔を出すなよ。危ないからな」
メイは鞄から顔を出してピイと鳴いた。本当にわかっているんだろうか。
「ユマ、頼むな」
ココッとユマが返事をしてくれる。本当に頼もしいなと思った。
家に戻ったら雲が厚くなっていた。これは一雨きそうだ。
「洗濯は明日かなー」
家の中に干すともれなくうちの中が湿気る。うちの風呂には浴室乾燥機能なんてものはついてない。浴室乾燥機能付きの風呂っていくらぐらいするんだろうか。高そうだな。でもでっかい工作大好きーズに頼むんだからそんな便利な機能は付かないだろう。
衣類乾燥機と除湿器を駆使するぐらいである。
ポチとタマはパトロールに行くらしいので送り出した。
「雨降るかもしれないから気を付けてなー」
と声はかけた。ワカッターと返事がなかったから聞いてないと思う。二羽が出かけていってから、山頂に向かって手を合わせた。
「ポチとタマをよろしくお願いします」
俺、神様に頼り過ぎじゃね? と思ったが、神様も無理と思った時は聞いてくれないだろうからと気にしないことにした。それよりもしっかり感謝をしないとな。後でごはんを炊いて神棚に捧げよう。
「あー、またこんなに生えて……」
ちょっと見ないでいると(一日二日)、家の周りに雑草が伸びるのもお約束だ。だからいったいいつ生えてんだよー。
シカ肉とかいろいろ片付けてから、ユマとメイが草をつついたりしている横で草むしりをすることにした。ホント、山暮らしって植物との戦いだよなー。
定期的に塩を撒いてやろうかと思うのだが、いろいろ錆びるから止めた方がいいみたいだ。除草剤を撒くのも考え物だし、お湯をかけるのも現実的じゃない。結局こうして抜くしかないのだ。ま、抜いたのは焚火台で焼いて灰にすればいいのだ。灰はなんだかんだいって使い道あるしな。
ーーーーー
660万PVありがとうございます! これからもよろしくですー♪
書籍版、二巻の刊行が決まりました。めでたい。
時期については公式の発表をお待ちくださいませー
サポーター連絡:15日の限定SSを近況ノートに上げました。ご確認願います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます