557.真相は聞かされたみたいだ

 山唐さんは困ったように笑んだ。


「結論からいうと……ニワトリはニワトリなのです」

「……は?」


 俺は耳を疑った。


「ただし、ニワトリたちは元々神の側にいました。神気の影響は多分に受けていますので、なりたい姿、もしくは共に過ごす者にとっても都合のいい姿を求めた結果あのように成長したのだと思います」

「はぁ……」


 うちのニワトリたちがなりたい姿? それが今のでっかい姿なのだろうか。


「では……うちのリンやテンは……」

「相川さんの側でありたい姿になったのかと思われます」


 相川さんは顔を両手で覆った。


「……そんな」

「言葉もそうです。彼らは貴方がたと共にありたいと願った。それを具現化した姿がああなっただけに過ぎません。ただし、あれは”進化した”姿ですので小さくなったり、元の姿に戻ることは不可能です」

「後戻りはできないってことですか?」

「そうなります」


 山唐さんは頷いた。

 不謹慎かもしれなかったが、俺はそれを嬉しいと思った。ある時ニワトリたちが一気に育ったのも、俺と共にありたいが為だと知ったらたまらなくなった。今すぐにでもニワトリたちを抱きしめたいと思った。

 だが相川さんは蒼褪めていた。リンさんがあの姿になったのは自分のせいだと責めているようにも見えた。

 そんな俺たちの様子を見て、山唐さんは軽く息を吐いた。


「……少し話しすぎたかもしれません。ニワトリはニワトリで、大蛇は大蛇です。ちょっと変わった進化をしただけです。その前の会話は忘れてください」


 そう山唐さんに言われた途端、何かが抜け落ちたような気がした。


「?」

「!?」

「相川さんは先日電話で話した内容も忘れましょう。私はリンさんの姿も知っている理解者に過ぎません」


 何か、大事な話をしていたと思うのだが思い出せない。


「進化、だったんですね?」

「はい。時折そういう進化をする生き物もいるんですよ」


 山唐さんに言われ、俺は納得した。


「進化、ですか……山唐さんは、何者なんですか?」


 相川さんが困ったように尋ねた。よかった。顔色もよくなっている。

 ってあれ? なんで相川さんは蒼褪めていたんだっけ?


「神社などに関わっているだけの国家公務員ですよ。一応専門の部署がありましてね。不思議なことを調査しているのです」

「そうなんですか……」

「リンさんも擬態のようですし、全く問題はないでしょう。ただし下半身は蛇のままですから、これからも気を付けるようにしてください。この山では全く気にすることはありませんが」

「そう、ですか……」


 相川さんはほっとしたようにため息を吐いた。


「あれ? でも東側の山の方々とは交流があるのではないですか?」

「あちらの方も確かに姿を見れば驚かれるかもしれませんが、今日はお客さんがみえていると伝えてありますから顔を出すことはないと思います。万が一顔を出しても問題ありません」

「そう、なんですか?」


 相川さんは目を白黒させた。今までリンさんの存在をひた隠しにしてきたから、平然とされても戸惑ってしまうのだろう。

 蛇で思い出した。


「あ、すみません。もしご存知だったらと思ってお聞きしたいことがあるのですが……」

「なんでしょう?」


 俺は去年から気になっていた、うちの山でのマムシの大量発生について聞いてみた。もちろんその背景も話した上で。


「マムシの大量発生ですか……それははっきりとは聞いていませんでしたが、たいへんなことが起きていたのは知っています。佐野さんのところのニワトリたちが村ではかなり貢献したとも聞いていますよ」

「あ、はい」


 俺のことではないので特に謙遜はしなかった。働いてくれたのはニワトリたちだしな。


「確か……一昨年の春ぐらいからいろんなところに放っていたのでしたっけ。その頃はまだ佐野さんは山を買っていませんでしたから、もしかしたら無人の山だと思われていたのかもしれません」

「……山倉さんたちが管理はしていたみたいなんですが……噛まれなくてよかったです」

「そうですね。とんでもない話です。おそらく一昨年に放された個体が繁殖してそういうことになったのでしょう。とんだ災難でしたね」

「ええ……」


 やっぱり例の家の家族が勝手にうちの山に放ったと考えた方が自然のようだ。まぁうちはニワトリたちのおやつとか、おっちゃんのマムシ酒とかの原料になったからいいけど、本当に毒蛇を放つなんて真似は止めてほしい。

 その後は北側の山にでかい湖のような場所があると聞いたりした。大量の湧き水がこんこんと出ている場所らしく、そこに中国四大家魚(ソウギョ、ハクレン、アオウオ、コクレン)と鯉が昔から養殖されていたらしい。現在は下の村ぐらいでしか食べられていない物らしいが、俺たちが食べるのならば今後融通はしてくれるそうだ。


「けっこうでかい魚ですよね。俺、調理できるかな……」

「なんでしたら僕が調理しますよ。水がキレイですから鯉もおいしいですよね」


 相川さんがにこにこしながらそんなことを言う。今度また来た時に捕るなんて話も出た。

 ごはんもおいしかったし、ニワトリたちは進化したのだと知れたし、とても楽しめたのだった。



ーーーーー

ニワトリはニワトリです(きっぱり

聞いたからって覚えているとは限らないのです(謎


な、720万PVありがとうございますー。今日明日中に記念SS上げますねー。

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