552.ドラゴンさんが来ていない理由

「おはようございます」

「佐野さん、おはようございます!」

「おう、起きたか」

「佐野さん、おはようございます」


 玄関横の居間に顔を出したら一斉に声をかけられた。おっちゃんはまだ目をしょぼしょぼさせている。桂木妹が桂木さんの向こうに腰掛けた。みんなの前には各自ハムエッグの載った皿が置かれている。俺の席らしきところにも置かれていて苦笑した。

 ありがたいことである。


「今回もタマちゃんとユマちゃんから卵をいただいちゃったわ。ありがとうね」

「いえ、こちらこそニワトリたちのごはんとか用意していただいてしまってすみません」


 おばさんが俺の分の梅茶漬けを持って顔を出した。にこにこである。


「そんなこと気にしなくていいのよ~」


 桂木妹は思ったよりも早くごはんを食べ終えた。


「ごちそうさまでした! おにーさん、メイちゃんと遊んできてもいーい?」

「ユマとメイがいいならかまわないよ」

「わかったー。ありがとー」


 桂木妹は台所に自分が食べた食器を運んでいった。どうせメイはユマと一緒に庭辺りにいるに違いなかった。


「佐野さん、リエが、すみません……」

「? 謝る必要なんてないだろ?」


 桂木さんにとっては困った妹かもしれないが、いい子だと思う。


「ところで前回も思ったけど、タツキさんはどうしてるのかな?」

「タツキは最近一日中表にいるんですよ。暗くなると帰ってくるんですけど、なんかシカが狩れなかったのが悔しかったみたいで」

「へえ」


 あの冷静沈着そうに見えたドラゴンさんにもそんなところがあったのかと感心した。生き物って面白いな。


「じゃあ、タツキさんは今はシカ狩りをされてるんですか?」


 相川さんが興味深そうに尋ねる。


「昨日一緒に行こうって話はしたんですけど、フラれちゃって……。私たちが出かけない日は畑の側とかにいてくれるんですけど、前回も帰ってから探したらうちの山の裏のところでうろうろしてたんです。だからまたシカを探してるのかなって」

「タツキさん、もしかして責任を感じてるとか?」


 土地の境なんてあってないようなものなんだから、気にすることないのに。


「そうなのかもしれません……」


 桂木さんが肩を落とした。


「あんまり続くようなら声をかけてくれ。ニワトリたちと一緒に向かうから」


 ドラゴンさんはタマと少し分かり合っているような気がするから、うちのニワトリたちに会うことでそこらへんがうまくいくかもしれないし。それともプライドの問題なのかな。難しいなと思った。

 桂木さんはふふっと笑った。


「佐野さんは本当に優しいですよね」

「そうなのよ~、昇ちゃんは優しいのよね~」

「優しいですよね」


 桂木さん、おばさん、相川さんがうんうんと頷く。なんか含んだような言い方だけど、わからないので「なんなんですか」と返すに留めておいた。

 ごはんは梅茶漬けなのだが、昨日のシシカツの残りとかナスの揚げ浸しとかもあったからついつい食べてしまった。昨夜から食べすぎである。また明日から気合いを入れて山の手入れをしないとな。

 そういえば山唐さんのところへはいつ行こう。今話すと桂木さんも連れて行くことになってしまいそうだからその場で話すのは止めた。今回は相川さんのところのリンさんとテンさんも一緒なので桂木姉妹はまずい。

 やっと陸奥さんが起き出してきたので、みな庭に面した居間に移動した。もちろん陸奥さんの分のハムエッグもある。冷めてはしまったが。


「いやぁ~、またしっかり寝ちまったなぁ……」


 陸奥さんが頭を掻いた。


「いっぱい飲んでいらっしゃいましたからね。ごはんは梅茶漬けでいいんですよね?」

「おう、真知子ちゃんありがとよ」


 酒を飲んで寝てしまったというのはあるが、年寄りはそんなに長時間寝られないと聞いたことがある。寝るにも体力がいるなんて聞いたことがあるから、あれだけ寝ていた陸奥さんはやっぱり健康なのだと思った。


「あははは~! メイちゃんはやーい!」


 桂木妹とメイが庭で追っかけっこをして遊んでいた。うん、無邪気だ。すごくいいと思う。


「あああああ……リエってば……」


 桂木さんが一人アワアワしていた。ちゃんと桂木妹はメイに手加減しながら走っているから問題ないだろう。小さい子と遊んでくれるお姉さんというかんじですごくいい。(大事なことなので二度言いました)

 やがて体力がないメイがギブアップした。その場でぺしょりと倒れているのがかわいい。


「ええ……佐野さん、メイちゃん大丈夫なんですか?」

「あれ電池が切れたみたいなもんだから平気だよ。ほら」


 ユマが近づいて軽くつつくとメイはよたよたと起き上がった。


「びっくりしたー……」

「あー、もう汗だくー。おにーさんもあそぼー」


 桂木妹が庭から手を振った。元気である。俺は苦笑した。


「遠慮しとくよー」

「そんなー」


 メイだけ縁側に回収すると、今度はユマと桂木妹が追っかけっこをし始めた。


「あはははは~~~!」


 なんとも楽しそうである。


「元気ですねえ」


 相川さんがしみじみ呟く。相川さんも十分元気だと思う。風呂作りたいとか言ってる時点で間違いなく。

 桂木さんはメイを嬉しそうにだっこしていた。メイもよっぽど疲れたのかされるがままだった。



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650万PVありがとうございますー♪ これからもよろしくです!


「山暮らし~」1巻重版決定しました。ありがたいことです。近況ノートを書きましたのでまだ見てないけど興味がある方はご覧くださいませ。

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817330650702683441


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