551.〆にはやっぱりごはんがほしいらしい

「生姜がだいぶ効いてると思うけど」


 そう言いながらおばさんが持ってきてくれたのは山盛りの唐揚げだった。

 さすがにみな絶句した。


「おいおい、こんなに食えねえぞ!」

「何言ってるんですか。シカ肉がいっぱいあるんだからほら、食べて食べて! ごはんもお味噌汁もあるわよ~」


 おっちゃんがみなを代表して言ってくれたがおばさんに一蹴された。ごはんを作ってくれる人にはかなわない。そして唐揚げが正義なのも間違いない。


「ごはん少しよそってくれ」

「真知子ちゃん、ごはんもらっていいか?」


 酒は飲んでいてもおっちゃんと陸奥さんの〆はごはんらしい。


「はいはい。お味噌汁はいる?」


 味噌汁については全員手を上げたので俺も立って手伝うことにした。


「昇ちゃん、ありがたいけど大丈夫よ~」

「運ぶだけですから」


 お酒は結城さんと相川さんが率先して追加を持ってきたみたいだ。運ぶ作業なんてのは力仕事なんだから男に任せてしまえばいい。

 唐揚げもこれでもかと食べておなかぽんぽこりんである。生姜がよく効いててシカ肉の臭みは全部消えていた。


「ちょっと生姜をきかせすぎたかしらねぇ」


 なんておばさんは首を傾げていた。ジビエの肉の臭みがだめな人にはいいんじゃないかなと思った。俺は十分おいしかったけどな。


「この豆腐? いいねー。おねーちゃん今度買っていこー?」

「誰が料理するのよ」

「レシピ検索すれば出てくるんじゃない?」


 なんて桂木姉妹は話していた。

 宴会を終えた後は片付けだ。俺は縁側から下りてニワトリたちの食べかすなどを片付けに向かった。

 ニワトリたちを確認して汚れを落とせるものは落としたりと忙しい。相川さんも手伝ってくれたので助かった。結城さんは主に酔いつぶれた秋本さんの介抱をしていて、それでも空き瓶とか重い物は台所に運んだりしていたみたいだった。

 ある程度片付けが終ってから結城さんは秋本さんを連れて帰っていった。


「またメイちゃんと遊べなかった~」


 と残念がりながら。そういえば結城さん、メイのこと気に入ってるよな。


「おにーさん、明日はメイちゃんたちと遊んでもいーい?」


 桂木妹に声をかけられて、「ニワトリたちに断ってくれればいいんじゃないかな」と答えた。今夜は桂木姉妹も泊まりだ。

 陸奥さんも泊まり組である。

 ニワトリたちの汚れをざっと落とし(けっこう破片とかね)、ビニールシート等も洗ってから土間に入れてもらった。メイが不思議そうにピヨピヨ鳴いている。なんだろうと思った。


「どうした、メイ」


 メイはまだあまり生えていない羽をぶるぶるっと震わせてピヨピヨ鳴いている。

 ユマを見ると首を頷くように動かした。

 え、マジか。


「メイ、お風呂はうちに帰ってからだぞ~」


 ピヨピヨ。


「あら、メイちゃん。お風呂に入りたいの? 珍しいわねぇ」


 おばさんがにこにこしながら言う。前回は山唐さんのところのトラネコもいたからそちらに気を取られていつのまにか寝ていたようである。

 ピヨピヨ。

 なかなかメイはきかんぼうだ。


「こーら、ユマだって我慢してるんだからだめだぞ。明日帰ったら一緒に入ろうな~」

「ユマちゃんともまだお風呂に入ってるの? だからお風呂増築の話なんてしてたのね!」


 おばさんにバレてしまった。俺は頭を掻いた。


「実は、そうなんです……」

「そうねぇ……」


 おばさんはユマとメイを見た。


「別にみんな太ってるわけじゃないものね。成長するのはしかたないし……お風呂に入れたいなら増築した方が現実的だわ。うちのも行かせるからがんばってね」

「はい、ありがとうございます」


 おばさんにまで言われてしまった。メイはピヨピヨ鳴いていたが、おばさんに「メイちゃん、わがまま言っちゃだめよ」と言われたらおとなしくなった。うん、おばさんにはかなわないよな。

 やれやれと片付けた居間に移動したら相川さんがにんまりしていた。イケメンはどんな顔をしていてもイケメンだな。


「真知子さんにお墨付きをいただきましたから、作らせてくださいね?」

「……なんでそんなになにか作りたいんですか……」


 俺は脱力した。もう頼むって決めたから手配とかはそっちでやってくれと思った。

 ありがたいことはありがたいのだ。なんか、いろいろ変えたりするのが手間ってだけで。


「薪はそれなりに集めてるんですよね?」

「間伐した枝程度ですよ?」

「そういうのでいいんですよ」


 そんなことを言いながら寝た。薪の量については帰ってから確認すればいいだろう。おっちゃんと陸奥さんはとっくに夢の中だった。



 んで翌朝。

 それほど飲んでいなかったせいかすんなり目覚めたと思う。布団から身体を起こして周りを見ればおっちゃんと陸奥さんがいびきをかいて幸せそうに寝ていた。相川さんが寝ていた布団はすでにキレイに畳まれている。本当に相川さんて隙がないよなと思う。

 トントントンと廊下を歩く音がして、襖を開けたのは桂木妹だった。


「おにーさん、おはよー。卵……」

「ああうん、行くよ」


 卵、だけ小声で言うのがかわいいと思う。タマとユマの卵は今朝も大人気のようだった。


ーーーーー

リエちゃんかわいいよリエちゃん!


レビューコメントいただきました! ありがとうございます。

630万PVありがとうございます! これからもよろしくですー!

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