546.どうにかして手土産を渡したい

 腰をトントンする。

 おじいちゃんかと自分にツッコミを入れつつ、家に戻った。

 家の周りならハマるような場所もないから大丈夫だ。草むしりもするはするが、すぐに土はならすし。

 お昼ご飯を食べてから今度は炭焼き小屋の側で枝打ちをしていたりした。やることはたくさんあるのだ。


「昇ちゃん、手土産はぜっっったいに持ってきちゃだめよ? わかったわね?」

「……はい」


 おばさんから電話がきて珍しいと思ったら、釘を刺されてしまった。絶対手土産を持ってくるなってどういうことなんだ。

 ってことは桂木姉妹に頼めばいいのか?


「相川君にも実弥子ちゃんたちにも持ってこないように言ったからね?」


 そこまでして手土産を持っていかせない気か。俺はくっと拳を握りしめた。


「……わかりました」


 いいじゃないか。手土産は気持ちなんだから。


「あ!」


 不意に思い出した。


「なあに?」

「おばさん、そういえば豆腐皮ドウフピーって商品知ってますか?」

「何かしら? 湯葉かなにか?」

「そうじゃないんです。中華料理で使う食材で……」


 という説明をしたら興味を引かれたみたいだった。干豆腐の話もした。


「なんでしたら持っていきますよ!」

「……お金は払うわよ」

「俺がおばさんに調理してほしいんですよ!」


 力説して、翌日は豆腐屋に向かい無事手に入れてきた。最近はお出かけもメイと一緒だ。豆腐屋の敷地内で下ろしてユマと遊んでいてもらった。ちょっとしか自由にはさせられないが、それはそれでメイも楽しいみたいだった。


「たまたま作ってたからいいけど、次は事前に電話を一本もらえると嬉しいわ」


 豆腐屋のおばさんに言われた。


「やっぱり買う人って少ないんですか?」

「そうね。見慣れない食材だからじゃないかしらね。試食とかもしてもらったりするんだけど、どうしても田舎は年寄りが多いから」


 おばさんは苦笑した。

 新しい食材とか料理は年寄りほどとっつきにくいと思われているかもしれないが、そんなことはないと俺は思う。その人が使いたいとか食べたいとか思うかどうかだ。だって陸奥さんの奥さんも、松山のおばさんもいろんな料理に挑戦している。

 でもそれを豆腐屋のおばさんに言ってもしょうがないので、俺は曖昧に笑った。


「じゃあ今度欲しい時は事前に電話入れますね」

「そうしてもらえると助かるわ。もっと買ってくれる人が多ければいろいろ作るんだけどねぇ」


 ふと思い出して聞いてみる。


「そういえば以前松山さんのところで干豆腐を使った料理をいただきましたよ」

「あら、それはよかったわ。でも、普段は夫婦だけだと作らないかもね」

「それもそうですね」


 かといってしょっちゅう遊びに行くってのも違うしな。いろいろなんとかならないかななんて思うけど、どっか行く時に手土産で買っていけばいいんじゃないかな。なんだったら一緒に調理してもいいんだし。


「今度こういうのを使ったレシピとかあったらもらえないかしら?」

「わかりました。探しておきます」


 他にも豆腐や味噌、湯葉、豆乳、厚揚げ、がんもどきなど買えるだけ買った。もちろんおからもいただいたし、おからクッキーも買っていった。豆腐屋さんには存続してほしいしな。


「ユマ、メイ、帰るぞー」

「え? メイって?」


 表に出てユマとメイに声をかけたら豆腐屋のおばさんがちょうど出てきたところだった。


「あら、ひよこちゃん? 佐野君のところで孵化させたの?」

「あ、はい。先月ですけど」

「まぁ~、かわいいわねぇ……この子もうちのおからを食べるのかしら?」


 おばさんの目尻がでれっと垂れた。ひよこはやっぱかわいいもんだよな。


「ええ、食べると思います」

「そう~、また連れてきてね。はい、これオマケよ~」

「え? いいんですか?」

「いつもいっぱい買ってってくれるでしょ」


 もらったのは枝豆豆腐だった。豆腐の中に枝豆がいっぱい入っている贅沢な豆腐である。


「ありがとうございます。また来ますね」

「はーい、ありがとうございました~」


 頭を下げてお見送りされてしまった。ちなみにメイは遊べる時間が短いとばかりにピヨピヨ怒っていた。本当におこりんぼうなひよこである。


「わかったわかった。帰ってからな」


 帰宅していろいろ片付ける。おやつにおからをあげたら、ユマもメイもおいしそうに食べてくれた。それでメイの機嫌は直ったようだった。

 よかったよかった。

 干豆腐と豆腐皮の値段は忘れた。おばさんに聞かれても答えられないだろう。これらをシカ肉と一緒に調理してもらえばいい。

 そういえば京醤肉絲(細切り肉の甘辛炒め)ってシカ肉で作ってもうまいんじゃないかな。今の時期のシカ肉は臭みがあるようなこと言ってたから。これは四角く切った豆腐皮に白髪ねぎと共に包んで食べるのだ。いくらでも食べられる。以前相川さんに作ってもらって、また食べたいと思っていた。

 干豆腐は炒め物にも使えるし、いろいろ作ってもらうのが楽しみだ。

 豆腐屋からいただいてきた枝豆豆腐は絶品だった。それとごはん、みそ汁だけで十分満足した。でもやっぱ肉も少しは食べればよかったかなと寝る前にちょっと思ったのだった。



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本日は「山暮らし~」の発売日です! いつも応援ありがとおおおおおお!!


遅くとも日曜日までには書籍化記念SS上げますねー。少々お待ちくださいませー

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