545.いいかげん山の手入れをしていかないと

 リンさんとテンさんが持ち帰ったシカは正常な個体だったみたいだ。

 二人とも満足してくれたらしい。よかったよかった。


「そうだ、仮想通貨のことを伝えるのを忘れていました! すみません」


 相川さんからスクリーンショットが送られてきた。


「……え?」


 なんか桁が違うような気がするのだが、気のせいだろうか。


「かなり貯まりましたので振込みしますね~」


 ……これはやはり風呂を作りたい相川さんの陰謀ではないのか? うーんと風呂を改築ってなったらどうするんだ? 一日で終るのか? さすがに無理だよな。風呂場を拡げる?

 ちょっと考えてしまった。

 またユマが丸くなってきているのだ。メイと一緒にいるから余計なんだろう。あの身体でほとんど動いていないわけで、やっぱりポチかタマに交替してもらった方がいいのではないか。え? 人のことはいいから俺はって? なんだかんだいって動いてるらしくて体重は変わってない。より筋肉質にはなっていると思う。相川さん程いい身体はしてないけどなー。

 今回レストランには連れていけないので、明々後日の宴会には桂木姉妹も誘ってみた。


「またシカが獲れたんだけどどうする?」

「またですか!? お金払います!」

「いらないから」

「絶対うちの山から流れて行ったんですよ!」

「それでも獲れたのはうちの山だし、狩ったのはうちのニワトリたちだから」

「もー! なんで払わせてくれないんですかっ!?」


 それを言ってるのは俺の方だ。

 今回は絶対に一頭分の解体費用を払うことになっている。いつも払わせてもらえないから払わせてくれないと困ります! と強く言った。でももう一頭分は相川さんが払うことになった。倒してもらった一頭分だっていうんだけど、三頭あっても困るからかえってこちらが助かるんだけど。


「リンとテンからすると、イノシシは比較的狩りやすいらしいんですが、シカは足が早すぎるそうなんですよ」


 身体が大きいのでシカに気づかれずに潜むということが難しいのだそうだ。テンさんからすると、休んでいる木の下にでもシカがこないと厳しいらしい。もちろんリンさんとテンさんが食べているのはイノシシやシカだけではない。他の蛇もそうだし、アナグマやタヌキ、ネズミやモグラなど餌にしている。鳥も獲るそうだ。一度に沢山食べるが、それから何日も食べないから山の獲物を狩り尽くすということはないらしい。

 リンさんとテンさんがニシ山に来たのが約四年前のことだ。冬は冬眠してほとんど食べないというから、ニシ山と裏山で縄張りは十分足りるという。二山と単純にいってもそれなりに敷地はあるし生き物も豊富だ。そしてそれまで全然狩りなども行われていなかったというから、天敵がいない生き物は山奥でどんどん増えていた。

 ただ年始から三月ぐらいにかけてニシ山の裏山には全然イノシシやシカの姿が見られなかった。その原因は未だにわかっていないが、今年の状況を見て判断するようなことを相川さんは言っていた。

 難しい話はよそう。

 おっちゃんちに明々後日だと連絡し、誰と誰が参加するこということも伝えた。

 あとは宴会の日まで山の手入れをしていればいい。

 まだ梅雨は続いているようで、空はどんよりしているし時折雨も降った。

 墓の周りを掃除し、そこらへんから取った花と線香を供えて墓参りをしなかった期間のことを聞いてもらった。

 墓にはユマとメイについてきてもらった。二羽共そこらへんの草をつついている。平和な光景だった。

 墓の周りの草取りなどもした。雑草ってのは花が咲いたらもうだめなのだという。だから本来は花が咲く前に抜くのだそうだ。


「家の庭程度ならできるかもしれないけどなぁ……」


 実家の庭を思い浮かべた。そんなに広かったわけではないが母親に付き合わされたことを思い出した。あの程度の広さでも面倒だと思ったのだ。山の比ではないが、墓の周りぐらいはキレイにしておきたかった。


「ユマー、メイー、山の手入れをするぞー」

「ハーイ」


 ピイピイとメイも返事してくれるのがかわいい。やっぱニワトリもひよこも癒されるよな。

 ユマに山に上がれるかどうか確認してもらった。今日は大丈夫らしい。こうやってニワトリに確認してもらわないと、上れる場所が見つからなくてずっと探し続けるなんてことになりかねない。

 その点ニワトリたちは上れる場所を正確に把握しているから、今日は「ダイジョブー」と教えてもらえた。


「ユマ、ありがとうな」


 ちょっと来ない間にまた草が生えている。どっからこの草は来てるんだよ。這ってきてんのかコラ。

 内心やさぐれつつ、ユマにある程度まで上ってもらい、範囲の場所に紐を張った。こうしないとなかなか進まないと気づいた結果だ。とりあえず100mぐらいユマに手伝ってもらい紐を張った。100mって普通に歩くと大した距離じゃないんだけど、山の中の100mって下手すると見通せなかったりする。木の枝に括りつけたりして、その範囲の草や木などを抜いたり切ったりすることにした。最初の100mはある程度作業をしてあったからいいが、次の100mは全然手をつけてなかったからどうするんだと思った。


「うおー、腰がいてえええええ!」


 あまり根を詰めないように作業は午前中で撤収し、午後は家の周りで作業をすることに決めた。

 もうちょっと……なんて無理をすると山の神様から強制ストップがかけられてしまう。……山っていったいなんだろう?

 墓から山の上に向かう場所で草を抜いていたら、メイが草を抜いた穴によくこけてはまっていた。その度に大きな声でピイピイ鳴くものだから笑ってしまった。ピイピイと言うよりビイビイである。


「おーい、メイ。大丈夫かー?」


 その度に掬い上げていたから作業はあまり進まなかった。でもかわいいからいいかと和む。

 俺がにこにこしているのを見てメイは怒っていた。

 ピヨピヨピヨピヨと抗議をしながら周りを歩いてはまたどこかにはまっていた。


「またかよ~」


 あはははと笑いながら作業をしていた。ユマが時折助けてやるのだが、うまくはまってしまうとユマでも助けられない。

 かわいすぎて笑いが止まらなかった。

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