547.宴会の日まではこんなことしてた

 さすがにもうニワトリたちも何も狩ってはこなかった。

 俺が厳重に言ったからかもしれない。豆腐屋に行った翌日も、そのまた翌日も雨だった。雨の日はあまりやることがなくて困る。ゲーム機とか買った方がいいんだろうかと思いながらメイの相手をしていた。

 メイは他のニワトリたちとはちょっと違った反応をする。

 平気で俺の身体に上ってくるし、器用に尾や鉤爪、嘴を使って俺の頭の上まで上ってしまったりするのだ。


「メイ、そこで糞はするなよ~」


 手乗りひよこではなく頭乗りひよこだ。俺が立ち上がっても落ちることはない。しかし鉤爪が痛い。大きくもなってきたからちょっと重い。


「……メイ、下りなさい」


 さすがに立った時は危ないからだめだ。座っている時はいいけど。


「もっと大きくなったら、乗っちゃだめだからな?」


 それだけはしっかり言い含めないとだめだと思った。

 雨が降っていても、ひどくなければニワトリたちは遊びに出かけていくが、今日は土砂降りだった。そんなわけでポチもタマもいて、土間でうろうろしている。


「タマ、メイがもう少し大きくなったら俺に上らないように言ってくれるか?」

「イイヨー」


 ほっとしたけど、よく考えたら俺の上に乗る筆頭はタマじゃないのか? 説得力がまるでないなと困ってしまった。

 幸い土砂降りも午前中で通り過ぎたらしい。でも土砂降りの後は足元がたいへんである。

 雨の音があまりしなくなったことでポチとタマがそわそわし始めた。一応うちの前は少し傾斜になっていて、水はけはそれほど悪くはない。それでもなぁと思った。


「ソトー」

「イクー」

「……めちゃくちゃ濡れるんじゃないか?」


 絶対水たまりとかでコケるよなと思うのだが、外に出ないと死んじゃう病みたいなのでしかたなくガラス戸を開けた。


「うわぁ……」


 うちの前は大丈夫だったが、ところどころが池みたいになっていた。メイが俺の頭からぴょーんと下りて駆けていった。


「あっ、こらっ!」


 ポチとタマがその後をついていく。メイは何歩も走らないうちにステーンとこけてでかい水たまりにびしゃーっと入ってしまった。


「ああああ……」


 メイは一瞬何が起きたかわからないようだったが、そのままブルブルブルッと身体を震わせた。おかげでポチとタマが泥だらけになった。


「あー、もうっ! ポチ、タマ、メイの面倒ちゃんとみろよ!」

「ハーイ」

「ハーイ」


 やってらんねー! とばかりに戸をぴしゃりと閉じた。ま、メイを置いてどっかに遊びに行ったりはしないだろう。いい返事もしてたし。

 泥まみれになった三羽を洗うのかー。いつものこととはいえちょっと堪える。


「ユマ……」


 そんな俺にユマがそっと寄り添ってすりすりしてくれた。


「ユマああああ……」


 優しく抱きついた。やっぱユマだけだよな。俺のことをわかってくれるのはっ!

 とか思ったけど多分そんなことはない。メイはまだ俺のことなんてただの餌係にしか思ってないだろうけど、ポチとタマは俺のことをわかってくれている……はずだよな? ちょっとだけ不安になった。

 そんなことをやっているうちに宴会の日である。


「タマー! 足だって重いんだっつーの! どけー!」


 だからなんで俺は宴会の日だってわかってるのにタマに言っておかなかったのか。これではメイに乗るなって言えないじゃないか。

 タマはいつも通り俺が起きたことを確認してからぴょんと俺の足の上からどき、ドドドドドと廊下を駆けて逃げていってしまった。


「ああもう、俺ってばああああ」


 確かに世界は明るくなってきていると思う。夏はどうしたって太陽が上るのが早いからニワトリたちの朝も早いのだ。ポチがコケーとかなんとか鳴いている。だから絶対あの声で起きるってと思うのだが、タマは俺の上に乗るのを止めない。今日も目覚まし時計のセットを解除して、朝ごはんの支度をすることにした。

 今日は豆腐皮と干豆腐を持っていくからちょっと早めに出るのだ。料理のレシピとかは適当な物を印刷してある。村にコンビニなんて便利なものはないから、自分ちのプリンターだ。あんまり印刷もしないからすぐにインクが固まってしまうのが玉に瑕である。

 かといって、定期的に印刷するものもないしなぁ。

 ポチとタマには太陽が中天にさしかかった頃には帰ってくるように言った。今日は晴れている。昨日と一昨日の雨はなんだったんだ。って、梅雨か。

 明日にはもう七月だ。

 そういえば今年は夏祭りとかどうするんだろう。

 また不思議な屋台は出るのだろうか。お祭り自体は稲荷神社で行われるのに、生き物を売っていた屋台は神社とは関係ないみたいなんだよな。だって「ウチジャナイ~」って言われちゃったし。

 どうもこの辺りの神様はフランクすぎる。

 ポチとタマが出かけるのを見送ってから、山の上に向かって手を合わせ「今日は泊まりで出かけてきます」と神様に断った。

 特になんの反応もなかったが、神棚にお酒と塩、それからごはんを供えたらカタッと微かに音がした。まぁ気のせいだろう。俺も神様を気にしすぎな気がする。

 メイが外に出たさそうだったのでユマに頼んで家の周りにいてもらうことにし、俺はごはんを食べてから出かける準備をしたのだった。


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590万PVありがとうございます! これからもよろしくですー!

今日か明日には書籍化記念SS書きますねー。

相川氏に地三鮮でも作ってもらいますかー。

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