544.オムレツには向いているかもしれない

 タマとユマの卵は一個一個がでかいから、炒める時なかなか火が入らない。

 なのでできあがりがけっこうふわっふわになってしまう。他の物に火が通る方が早いんだよな。

 くるむタイプのオムライスには向かない卵だ。(単純に俺が下手なだけである。作ったことはある)普通に炒める分には味が濃厚でとてもおいしい。トマトも旬の物をもらってきているからどちらも負けてなくてうまかった。

 トマトと卵の炒め、最高。


「トマトと卵って合わさると完全食ですよね」


 相川さんが幸せそうな顔をしてそんなことを言っていた。トマトが卵のコレステロールをなんとかするんだっけ? よく知らないけど、うまければそれが正義だと思う。シシ肉の味噌漬けも予定通り焼いて出した。ホント、こっちに来てからジビエづいている。

 ユマはメイと共に外で過ごしている。

 シカの状態については俺に電話が来ることになっていた。


「そういえばシカ一頭は落としたって話なんですけど……」

「ええ、足を折ってもらいまして」


 聞かなきゃよかった。そうだよな。うちのニワトリたちの尾ならシカの足ぐらい簡単に折りそうだ。


「まぁでも勢いをつけたからってなかなか折れないですよね。ポチさんとタマさんは尾の振り方を熟知されてるからできることでしょうけど」

「……わかりました。もういいです」


 コワイ、やっぱりあの尾がコワイ。


「普段はそんなに力を入れてないでしょうから大丈夫ですよ」


 相川さんはそう言って笑った。


「シカの状態って……」

「後でリンかテンには聞きますが、まず内臓から食べるでしょうから病気の個体であれば家の前に置いてくれると思います。そうでなければ大体食べると思います」


 コワイ。大蛇もコワイ。俺はいったいなんてところで生活しているんだろう。

 今更そんなこと言ってもしょうがないけど、とんでもないところで暮らしているよなぁと思った。


「秋本さんからの電話待ちですけど、明々後日に宴会を頼むとしたら、山唐さんちに行くのは早くて一週間後ぐらいになるんですかね」


 そしたらもう七月か。

 時間が経つのは本当に早い。


「山唐さんのところの料理も楽しみですよね」

「ですね~」


 中華料理がベースみたいなことは聞いたけど。

 そんなことを話している間に秋本さんから連絡が来た。

 病気の個体はいなかったみたいである。よかったと思った。


「病気のシカはいなかったそうです」

「それならよかったです。一頭いるとたいへんですからね」

「そうですよね」


 桂木さんの土地にはどれぐらいシカがいるんだろうか。平地に近い森だから増えてるって聞いてるし。ドラゴンさんがいくら食べてるって言ったって、ドラゴンさんだけじゃそんなには食べられないよな。

 相川さんは夕方前にご機嫌で帰っていった。

 宴会は明々後日ということでお願いした。後はポチとタマが帰ってきてから話をすればいい。

 タマは結局戻ってこなかった。リンさんを案内してから裏山へそのまま遊びにいったのだろう。手入れを全くしていないから走りづらくて申し訳ないけど、夏の山は獲物がけっこういるみたいだしな。


「裏山の手入れか……」


 その前に山の上に向かう為の参道整備もあるのだが。頭を掻いた。


「さすがに一人じゃ全然手が回らないよな……」


 暗くなってきたのでユマとメイの足を洗ったりして家に入れた。メイは遊び足りないのか、またピイピイと怒っていた。わがままはだめだぞ~。


「ちょっと外見てるからな~」


 ユマにメイを頼んで表へ出た。山の上に向かって手を合わせる。


「手入れが全然できなくてすみません。可能な限りがんばります」


 このペースだと来年までかかりそうだ。ふわりと風が吹いて、俺の周りをくるくると軽く回ってからどこかへ戻っていった。

 苦笑する。


「……神様も俺を甘やかしすぎですよ。いつもありがとうございます」


 ゆっくりでいいよ~と言われたみたいだった。見守ってくれるだけでありがたいんだけど。

 そんな、甘やかされるようなこと何もしてないんだけどなぁ。明日は少なくとも整備には向かおうと思う。もちろん墓参りもだ。

 ポチとタマの姿が見えた。


「おーい」


 手を振る。二羽共いろいろ刺さっていて汚かった。藪にでも突っ込んだのかもしれない。


「……ポチ、タマ、シカを狩ってくれるのはいいけど、どこに行ってたんだよ……さすがに汚すぎるだろっ」


 四阿で取れるだけごみを取り、汚れたところを洗ったりした。この四阿、電気も付いてるから洗ったりするには役に立つ。しかもスイッチがニワトリでも届く位置にあるからタマが時々嘴で突いて点けてくれたりもするし。

 四阿、作ってもらってよかったなー。

 できる限りキレイにしてから家に入れた。


「餌の準備するから待ってろよ~」


 松山さんからもらった餌は家にも少しストックしてあるから今日はそれを出せばいい。また明日には倉庫から持ってこよう。

 いつも通り餌を食べさせてから、宴会は明々後日だと伝え、山唐さんちに行く際の懸念について聞いてみた。


「山唐さんちに行く時さ、メイも連れてくんだ。でもリンさんとテンさんも一緒に行くんだよ」

「メイー、ダメー」

「メイー、アブナイー」

「メイー?」

「ピヨピヨ」


 一番理解が早いのはやっぱりタマだった。


「……そうだよな。山唐さんに相談するか」


 その方が早いだろう。

 いろいろ考えなきゃいけないことは多いが、一つ一つクリアしていけばいいだろうと思う。


「あれ? そういえば仮想通貨の話……」


 相川さんから聞いていなかった。急ぐことではないだろうけど思い出したら気になったので相川さんにLINEを入れたりしたのだった。


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