528.いつまでたっても手土産は悩ましい

「神様のことなんてのはね、そんなに気にすることないわよ。ってあたしが言っても説得力はないかもしれないけどね~」


 おばさんにそう言われ、「おかずに持っていきなさい」と昼に揚げたという天ぷらを持たされて帰宅した。夜も食べなかったら捨てていたというから行ってよかったと思う。


「二人きりなのに天ぷらはついつい多めに揚げちゃうのよね~」


 困ったクセだわなんて言ってたけど、結果的に俺の夕飯のおかずが助かったのだからいいと思う。また野菜をいろいろいただいてしまったし、ユマとメイにも野菜くずを出してもらってしまった。さすがに恐縮したら、


「どうせ余ったら捨てちゃうんだからいいのよ」


 なんて言われてしまう。周りも農家だからそういうことになってしまうのだそうだ。やっぱり手土産を持って行った方がよかったと後悔した。明後日の手土産はどうしようか。

 帰宅してユマとメイを軽トラから下ろし、二羽がそのへんをぽてぽて歩くのを見守りながら相川さんにLINEした。


「神様の件、稲荷神社に相談してきました。後日担当? の方からおっちゃんちに連絡が来るそうです。お騒がせしました」

「それってどういうことなんですか?」


 相川さんからすぐに返信があった。

 自分でも何を打ってるんだかわからなかったぐらいだから、相川さんからしたら?だらけだろう。文字で打つのもつらいので電話した。


「こんにちは」

「佐野さん、担当ってどういうことなんでしょう?」


 うん、まず担当? ってのが気になるよな。


「俺も全然わからないんですよ。おっちゃんちに連絡するって言われちゃいましたし」

「湯本さんてそういう窓口みたいなことしてるんですか?」

「そう、みたいです」


 はっきり言ってわからないとしか言いようがなかった。


「じゃあ……連絡を待つしかないですね。教えてくださってありがとうございます」

「いえ……。それもそうなんですけど、明後日の手土産をどうしたらいいかと悩んでいまして」


 桂木さんに頼んではいるのだが、今日のこともあって手ぶらではいけない気がするのだ。


「そうですね。今回は和菓子でいいんじゃないですか? 水羊羹とか喜ばれそうですよね」

「ああ! 水羊羹いいですね!」


 だったら先に買って冷やして持って行った方がいいんだろうか。いや、それはそれで余計だよな。


「和菓子屋さんに売ってますかね?」

「ちょうどお中元の時期ですから、雑貨屋とかでも置いてそうですよね」


 確かにそれもそうだ。帰りに雑貨屋に寄ればよかったな。


「まだ時間がありそうですかちょっと見てきますよ。置いてなければ明日町まで行けばいいかな」

「ええっ?」


 相川さんのフットワークがすごく軽い。


「明日出かけるんでしたら俺も行きたいんで同行してもいいですか?」

「そうですね。買い出しもした方がいいですから、一緒に行きましょうか。今から雑貨屋には見に行ってきますね」


 そう言って電話は切れた。一度山の上に上ってしまうとどっかに行こうって気にはならないんだよな。ユマとメイの様子を見て嘆息した。

 尾が歩く邪魔になっているのか、メイは時折立ち止まって振り向いたりする。まだ尾を認識していないのかもしれない。

 尾といえば、と思い出す。

 ポチとかタマは慣れるまでぶんぶん振り回していたな。タマの尾は俺の足に当たって痛かった。わざとじゃないってことはわかったけど、ニワトリの尾は怖いと認識した瞬間だった。ま、普通のニワトリには尾羽はあってもあんな鱗がある長い尻尾はないんだけどな。

 夕方になる前に相川さんからLINEが入った。雑貨屋に置いてあるのは注文用の見本だったらしい。明日一緒に買物に行こうという話で落ち着いた。明日の買物にはリンさんも一緒に行くらしい。

 ユマとメイを見る。


「ユマが行けるかどうかは、みんなに確認してからでいいですか? まだポチとタマが帰ってきていないので」

「大丈夫ですよ」


 その言葉に甘えることにした。

 暗くなる前にポチとタマは帰ってきたが、けっこう汚かった。どこの藪に突っ込んできたんだと聞きたくなるような様相である。


「全く……どこまで行ってきたんだよ……」


 四阿で二羽のごみを取り、よく洗った。さすがに水だけでは寒くなってしまうのでお湯も用意している。佐野さんは至れり尽くせりだと言われたが、家に入れるのに汚かったら嫌だろう。

 二羽は気持ちよさそうにぶるぶる震えたので今日も俺はびしょ濡れになった。うん、わかってる。これが普通だ。

 家に入れて、俺もTシャツと短パン姿になってから聞いてみた。


「明日相川さんと買い出しに行くんだけど、リンさんも一緒なんだってさ。ユマ、どうする?」

「ンー」


 ユマはコキャッと首を傾げた。

 リンさんが来るならメイを連れて行くわけにはいかないだろう。それにメイも自由にさせた方がいいしな。


「タマー、メイー」


 タマが声を上げた。


「ん? タマがメイの面倒を見ててくれるのか?」

「ミルー」


 タマが頷くように首を動かした。


「タマが面倒見てくれるみたいだけど、どうする?」


 改めてユマに聞く。ユマは羽をバサバサ動かして、


「サノー、イッショー!」


 と喜んでくれた。


「ポチもタマも、いつもありがとうな」


 二羽に礼を言ったら何言ってんのコイツというような顔をされた。そのツンがつらい。でもうちのニワトリたちが優しいのは確かなのだ。泣くもんか。


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