527.おっちゃんに説明を求めてみた
「おう、昇平どうした? 宴会は明後日だろ?」
電話の向こうの、おっちゃんの声は普通だった。それで少し冷静になれた。
「うん、そうなんだけど……。おっちゃん、今家にいる?」
「ああ、いるぞ。これから来るか?」
「うん、近くにいるから行くよ」
ってことでユマを軽トラに乗せ(もちろんメイもちゃんと肩掛け鞄に入っているかどうか確認した)、おっちゃんちに向かった。なんつーか今頃になってぶわっと鳥肌が立った。あの稲林って人は、やっぱり神様の類だったんだろうか。
どうにかおっちゃんちに着いた。
車の音が聞こえたのか、おっちゃんが表へ出てきてくれた。
軽トラを下りて、ユマを下ろした。メイがピイと鳴いた。
「おー、ユマとメイも一緒か」
「うん。おっちゃん、あのさ……稲林さんて、誰?」
軽トラから下りて開口一番これってのはどうかと思ったが、聞かずにはいられなかった。おっちゃんはきょとんとした。
「稲林ってあれか? 神社のか?」
「うん……実は……」
まだ外だったが、俺はたまらずここのところの山の様子とか、それを聞きたくて稲荷神社へ行ったことなどを話した。メイは話している合間に肩掛け鞄から下ろした。今はユマと一緒にそこらへんの草を啄んでいる。ユマがちゃんとメイの様子を見ながら側にいるのがとてもかわいい。
じゃなくてだな。
「あー、山の神様なぁ……そういやお前んとこはけっこう積極的だよなぁ」
積極的? あれは積極的というのか? なんか言葉の使い方が間違っていないかと俺は訝し気な顔をしてしまったかもしれない。
「神様っつったって次元が違うところにいるだけだからな。まぁでもうちに連絡が来るっつーんだから昇平は待ってりゃあいいさ」
「……待ってればいいんですか?」
「稲林さんは仕事熱心だからすでに連絡はしているはずだ。担当っつーと狐山さんか。もしかしたら山唐さんが来るかもしれないけどな」
「山唐さん? って隣村のご夫婦ですか?」
「知ってるのか?」
そういえば話してなかったっけ。
「三月に松山さんのところでお会いしたんですよ」
「ああ、まっちゃんのところか。そういえば鶏肉を買い付けしてるようなこと言ってたな」
立ち話をしていたら玄関のガラス戸がガラッと開いた。
「昇ちゃん、来てるなら上がってってちょうだい。そこじゃ暑いでしょう? ほら、入って入って」
おばさんに促されてお邪魔することにした。ユマとメイにはおばさんが水を出してくれ、畑辺りまでは自由に行き来してていいと言ってくれた。ユマはココッと返事をし、やっぱりメイの側にいてくれた。いいお母さんだよなとほっこりする。
「いや~、さすがに暑いな」
エアコンの効いている居間に入ったら、ぶわっと汗が噴き出してきた。
「暑いですね……」
「ほらほら座って。麦茶どうぞ」
六月も半ばを過ぎた。今日は梅雨の合間ということもあってか、蒸し暑い。氷が入った麦茶が気持ちいい。
「……ありがとうございます。おいしいです」
「ゆっくりしていってね。なんだったら今日も泊まっていってもいいから」
「いえいえ、さすがにそれは……」
ここでお言葉に甘えて泊まっていったりしたら帰ってからが怖い。それにまだメイを連れて泊まりをしたことがないから、何が起こるか予測できないのだ。だいたい明後日も泊まりになるのだ。そこまで迷惑はかけられない。
「まぁ、そうだな。連絡があったら電話する」
「お願いします。ところで、山唐さんて隣村の山の上でレストランを経営してるって聞いたんですけど……」
「ああ、あれは道楽だな。完全予約制だから行くなら事前に連絡しないとダメなはずだぞ」
「山唐さんのところのお料理おいしいのよねぇ。特に魚がおいしいのよ」
おばさんがにこにこしながら教えてくれる。山なのに魚? と内心首を傾げた。川魚とかだろうか。漬物とお茶菓子をずずいっと勧められるので、漬物を摘まんだ。糠漬けがうまい。
「でも担当って……本当はどういうお仕事をされている方なんですか?」
「ああ、山唐さんが住んでる山は国有林なんだよ。あそこの管理人っつー名目で昨年から住んでんだ。あそこの管理者は国家公務員でないとなれないからな」
「国家公務員なんですね……」
余計にわからなくて、俺は首を傾げた。おっちゃんは困ったように頭を掻いた。
「まぁあれだ。国にもいろんな部署があるんだよ」
「……そうなんですね」
神様対策課みたいなところがあるって勝手に思っておくことにしよう。
「昇ちゃん、何かあったの?」
「昇平んとこの神さんがはっちゃけてるんだと」
おっちゃんはおばさんにさらりと答えた。うん、確かにはっちゃけているで合っている気がする。しかし「神さん」って言い方が奥さんぽく聞こえてなんだかなぁと思った。
「あら、それは困るかんじなのかしら?」
「うーん……困るというより戸惑ってる、ですかね……」
そう、俺は戸惑っているのだ。そんなに神様に助けてもらえるほど大それたことをしているわけじゃないから。
ここのところ起こったことをおばさんにも話したら、首を傾げられてしまった。
「そうねぇ……昇ちゃんは今時奇特なぐらい真面目なのね。知ってたけど」
と笑いながら言われてしまった。そんな真面目なつもりは全くないんだが、なんでみんなしてそういうことを言うのだろうか。しかしおばさんに逆らってもいいことはないので、俺は頭を掻いて誤魔化したのだった。
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