518.うちのニワトリは最高の癒しです。実家に行くとか超面倒

 場所はフードコートではあったが、実は相川さんに少し話を聞いてもらった。

 友人の結婚式の出欠席のことではない。俺が持っている駐車場を伯父が売ってくれと言っていることについてだ。

 相川さんは、


「それは絶対に売らない方がいいです。どうしてもこじれるようであれば弁護士を紹介しますからおっしゃってください」


 と言ってくれた。それだけでも心強いと思った。

 近くに新興住宅地ができるのであれば、駐車場の地価も間違いなく上がる。今売れば確実に損をする上に、まとまった金が入れば税金もかかる。

 売るにしても売らないにしてもその駐車場は一度見に行った方がいいとも言われた。


「そう、ですね。ありがとうございます。一度見に行って、相談することにします」

「管理状況も確認した方がいいですよ。伯父さんに管理費を払っているのでしょう?」

「はい」

「駐車場といっても雑草は生えます。雑草をきちんと刈っているいるのか。捨てられたごみの対処はどうしているのか。監視カメラはつけているのかも確認した方がいいでしょう」


 そういえば以前監視カメラ代なんてのも天引きされてたということを思い出す。

 相川さんに言われたことをメモして、帰ってきたのだった。


「実家には近々行くとして……今回はさすがに泊まりになってしまうかな」


 ポチ、タマ、ユマに関しては一晩ぐらい留守にしても大丈夫だろう。問題はメイだ。かといってひよことはいえこんな爬虫類系の尾がある生き物を実家に連れて行くわけにはいかない。相川さんや桂木さんちに預けるのも論外だ。下手したらメイが餌になってしまう。

 かといっておっちゃんちに頼むのもなぁ……。


「どうしよう……」


 はーっとため息をついたらちょうどユマとメイが戻ってきたらしく半分ぐらい開いたガラス戸からじーっと見られていた。


「サノー?」

「ピィピィピィ」


 どうしてうちのニワトリとひよこはこんなにかわいいのでしょうか!


「んー、まぁいろいろあってな。大丈夫だよ」

「イロイロー?」

「ピィ?」


 ユマがコキャッと首を傾げた。それを見てか、メイも真似をして首を傾げるような仕草をした。首が伸びてきてひよこらしくなくなってきたけどまだひよこだ。ああもうかわいすぎる。

 ユマに相談するのは正直難しい。実際に相談しようと思ったらタマが一番頼りになる。

 でもなぁ、一晩はなぁ……。

 やっぱおっちゃんちにユマと一緒に預けた方がいいんだろうか。もちろんおばさんに許可は取らないといけないけど。

 善は急げとおっちゃんに電話をかけてみた。


「実家? ああ、去年の秋頃行ったっきりか? 行った方がいいだろ」

「でもメイがまだひよこなので不安なんですよ」

「……昇平。お前ちょっと過保護すぎねえか?」

「そうですかね……」

「もう、ひのふのみの……少なくとも生まれてから二週間ぐらい経ってんだろ? 6月なんだし餌だけ盛っておけばどうにかなんだろ? 川もすぐ近くにあるしよ。なんだったら俺が昼間はそっちに行ってたっていい。そんなに心配するこたあねえぞ」

「来てもらってもいいんですか?」

「なんだったら泊まり込んでやってもいいが、それだとさすがにニワトリたちが嫌がんだろ?」

「そう、ですかね?」

「自分たちの縄張りによそ者がいたら落ち着かねえだろうが。お前がいりゃあ別だがよ」

「そういうものですか」


 確かにうちのニワトリは縄張り意識が強いかもしれない。それにもしかしたら、おっちゃんがいると気が休まらないかもしれないしな。


「わかりました。日程が決まったら連絡します」

「昇平」

「はい」

「お前がひよこをかわいくてしかたねえって気持ちはなんとなくわかる。子どもができたような気になってんだろ? だがな、お前んとこのニワトリたちを思い出してみろ。すぐにマムシだってなんだって獲ってたじゃねえか」

「……そうでしたね」


 さすがにニワトリっぽくなってからだったけど、気がついたらマムシをばりばり食べていた気がする。

 ばりばり?

 やっぱりあの時点で歯が生えてたのか。

 改めて気づいた。

 それなのになかなか俺は居間からメイを下ろさせようとはしなかった。そうだよな。気がついたらうちのニワトリたちは好きに動いていた。雪にはさすがに怯んではいたけれど。


「おっちゃん、ありがとう」

「なんだ改まって」

「いろいろ忘れてたよ」

「ひよこの時期は短いからなぁ」


 おっちゃんはそう言ってガハハと笑った。

 母にLINEした。「いつ頃顔を出せばいい? 一泊ぐらいしかできないけど」と。


「兄には会えそう?」

「会った方がいいなら会うけど、だったら先に弁護士に相談してからにしたい」

「弁護士? 聞いてみるわね」


 弁護士と聞いて伯父が引き下がってくれるならそれでいい。元々血縁だからと管理費などもなあなあに決めたのだ。実家の近くの物件などの管理会社も探してみることにする。家屋やマンションの管理は請け負っていても、駐車場の管理はしてないってところもあるかもしれないし。

 翌日には母から返事があった。

 思った通り、伯父はどうやら怖気づいたらしい。弁護士と聞いて引くってことは今までまともに管理もしてなかったんじゃないか? とはいえ、ああでもないこうでもないと言い訳はしていたらしいけど。

 やはり近々実家へ向かうことにした。

 ああもう俺の癒しが~。

 伯父の顔を思い浮かべて腹を立てたのだった。


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