519.考えることが多すぎて肝心の準備を忘れていた

「弁護士の話をして慌てるっていうのは尋常じゃないですよ。その駐車場の近くに誰か住んでいませんか? しばらくその駐車場の様子をどなたかに見てもらった方がいいかもしれません」


 相川さんに伯父のことを電話して話したら、そう言われた。


「ちょっと当たってみます」


 そう答えて電話を切った。相川さんには迷惑をかけっぱなしだ。

 誰か……誰か、なぁ……。

 駐車場の住所を見て、近くに親戚が住んでいないか考える。兄貴か姉ちゃんが近くに住んでいないだろうか。

 ネットのマップで調べたら、姉が比較的駐車場に近いところに住んでいるのがわかった。そういや姉夫婦は姉が生前贈与でもらったマンションに住んでたな。元々じいちゃんてどんだけ資産持ってたんだよって話だ。

 姉ちゃんに電話かー。

 あまり気が進まない。絶対いろいろ言われるに違いないのだ。

 でも自分で駐車場を何回も見に行く気にはなれない。

 姉のところは子どもに金がかかる時期だ。一回見に行ってもらうごとにお金を払ったらどうだろう。週一で見に行ってもらって、二か月ぐらい続けてもらうとか。一回三千円ぐらいで手を打ってくれないだろうか。

 さっそく姉に電話をかけた。


「昇平? どうしたの?」

「姉ちゃん久しぶり」

「アンタ今山に住んでるんだって? 今度家族で遊びに行きたいんだけど」

「それは無理」


 即答した。姉のうちの子どもは一番下がまだ三歳ぐらいのはずだ。うちのニワトリがあやまって怪我でもさせたら困る。


「なんでよ!?」

「うちマムシが多いんだよ。先日も家の裏で捕まえたし」

「なんでそんな危険なところに住んでるのよ!? 怪我とかは? してない?」


 ホント、なんでそんな危険なところに俺は住んでいられるのでしょうか。答え、全てニワトリたちのおかげです。


「だいじょーぶだいじょーぶ。でも小さい子の面倒まではみられないし、なんかあった時責任が取れないからさ」

「……そうねえ。でも山ってそんなに危険なの?」

「整備されてる山は何人もの手が入ってるだろ? うちは俺だけだから手が回んないんだよ。手伝いはほしいけどもてなしはできない」


 きっぱりと答えた。


「そう。山を買ったっていうから情操教育にいいかと思ったけど、そんなに簡単にはいかないのね~」


 もっとごねるかと思ったが、姉はけっこうすんなり引き下がった。うちが遠いというのもあるかもしれない。


「そういうこと。ところでさ、姉ちゃんてマンションの他に土地持ってたっけ?」

「なあに? 譲れっていうの?」


 姉がうんざりしたような声を出した。やっぱり伯父は姉にも声をかけたらしい。


「違う違う。俺が駐車場持ってること知ってるだろ?」

「ああ……そういえばそうだったわね」


 それで伯父に管理を頼んでいるが、伯父が売ってくれと言っていることを伝えた。


「その住所だったらうちから近いじゃない! 伯父さんになんか管理頼まないでうちに頼みなさいよ!」


 そう言われると思った。


「うーん、もう身内はなーとも思うからさ。面倒だからできれば大手に管理を頼みたいと思ってるんだ。それで、その前に状況を知りたい。金払うから姉ちゃんが週一くらいで様子を見てくることってできないかな?」

「いくらくれるの?」

「一回三千円でどう?」

「行くわ!」


 姉は即答した。あれ? 多かったかな。まぁ俺が一日かけて行くよりは安上りだと思うからいいや。

 伯父が本当に適切に管理しているかどうかが気になってしかたないこと。以前監視カメラの代金を請求されたが本当に運用しているのかどうか、周辺状況など気になることがあったら教えてほしいと姉に頼んだ。


「そうね。私もあの伯父はどうも信用ならないのよ。母さんのお兄さんだからあんまり悪くは言いたくないけどさ。じゃあ二か月ぐらい様子を見ればいいのね?」

「うん、よろしく」

「週一で一回三千円よね? 清掃とかもしてあげようか?」

「それはしなくていいよ。ただあんまり汚れてたら教えてくれるかな。伯父に言って清掃してもらうから」

「それで伯父さんが清掃しなかったら切ればいいのよね。うちからけっこう近いから私が管理してもいいんだけどな~」

「なんかあった時姉ちゃんじゃ対処できないだろ? 大手に頼むから大丈夫だよ」


 いくら姉が男勝りでもトラブルに巻き込まれたらたいへんだ。そういうことは委託してしまうに限る。もう身内はこりごりだ。でもそうなるとマンションの方の管理も考えないといけないな。

 そんなことを話してから電話を切った。母さんには姉ちゃんからもよろしく言ってくれるらしい。これでお盆すぎまでは顔を出さなくてもよくなった。

 問題を先送りと言われればそれまでだが、できることなら実家には帰りたくない。


「ああでも……」


 久しぶりに姉とまともに話せてよかった。

 家の外に出る。今日もポチとタマはツッタカターと遊びに出かけている。ユマはひよこと共にうちの周りを散策していた。畑の側でひよこが何やら啄んでいるのが見えた。


「メイ、何か見つけたか~?」


 近くに寄ると、毛虫を咥えているのがわかった。それをバクッと食べてしまう。けっこうな大きさの毛虫だったが、ひよこにはかなわなかったようだ。ユマはバッタを咥えてぱりぱり食べた。バッタは野菜を食べてしまうから、食べてもらえるのは助かる。

 今日はいい天気だが明日辺りから雨が降り出しそうだ。

 ここでやっと梅雨入りかとげんなりする。

 また除湿器や布団乾燥機などがフル回転する季節がやってきた。炭がどれぐらいあるかも見ておかないといけないし、炭も干しておかなければならないだろう。俺は慌ててまた梅雨の準備を再開することにしたのだった。

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