513.連絡なんてとれないようにしていた
ひよこの時期は短い。
十日も経てば首が伸びてきて、毛の色も薄くなってきた。一応写真はいっぱい撮ってあるからいいけど、それでも寂しいと思う。せっかくだから尾が映らないようにして撮った写真を母さんに送ってみた。
「あらかわいいわね」
LINEがすぐに返ってきた。
「自分で孵化させたの?」
「うちのニワトリが温めてくれたよ」
「それはすごいわね。そういえばお友達から結婚式の招待状が届いたわよ。湯本さんちに送っておいたから、取りに伺いなさいね」
「ありがとう」
とスタンプと共に返してスマホを閉じた。
友達、ね。
実は友達関係は全て切ってきていた。地元の大学に入り、地元で勤めたから、ほとんどの友人が俺の結婚がダメになったことを知っているのだ。顔を合わせるのも、憐れまれるのも嫌でLINEは全て解除したしスマホも変えて番号も変えた。だから親兄弟とは繋がっているが、それ以外で繋がっているのはここの人たちぐらいだ。
母さんは友達は大事にしろと言うが、その前に全て捨ててしまった。
憐れまれるのはごめんだ。
「ピィピィピィ」
メイがぽてぽてと近づいてきた。
「どうした、メイ」
メイは糞をしてまたぽてぽてと歩いて行った。かわいくてしょうがないよなと苦笑して片付けた。ユマは外で草をつついたりして散策している。
嫌なことは先に片付けるに限ると、ため息をついておっちゃんに電話した。
「すみません。うちから何か手紙とか届いていませんか?」
「ちょっと待ってろ」
おっちゃんはおばさんに聞いてくれるようだった。
「なんも届いてねえってよ。届いたら連絡するぞ」
「すみません。ありがとうございます」
じゃあ届くのは明日以降かな。わざわざ結婚式の招待状なんて送ってくる友人は誰だろうか。そもそも大学の時の友人に実家の住所なんて教えてたっけか。だいたいはスマホでやりとりしてただけだから、LINEと電話番号を変えてしまえば何も繋がりなんてなくなると思っていたのに面倒なことだ。
「嫌がらせかよ……」
そう思ってしまう俺は性格が悪い。
招待状には欠席に丸して……行けなくても一万円ぐらい包んだ方がいいんだろうか。お返しはいらないと明記して。
結婚が羨ましいとは思わないし、誰かと結婚したいとも思えない。
結婚、結婚ねぇ……。
相手、と考えたって誰の顔も浮かばないのだ。メイがまた土間に下りようとしたから捕まえてすりすりした。ひよこの羽はふわっふわだ。癒されるけど、メイはじたばたしている。なかなかやんちゃになりそうだとにまにました。
「しいていえば、ユマかな」
嫁と言ったらユマだろう。こんなかわいいひよこも孵化させてくれたんだし。
って俺は頭沸いてんのか。
一瞬で自分にツッコミを入れて休憩を終え、ユマと入れ替わりでまた家の周りとか畑の周りの草取りを始めた。今年はマムシが全然出なくていいかんじである。って、去年がおかしかったんだよな。あんなに家の周りにマムシが出るとか、いったいどうなってたんだろう。元庄屋さんたちもたまに手入れをしに来ていたと言っていたが、その時は大丈夫だったんだろうか。でも確か、元庄屋さんたちが手入れをしていたのは一昨年の雪が降る前までだったはずだ。それも毎日ではなくて、その頃には週に一回来れるか来れないかというところだったと聞いている。
だからこの山を売りに出したんだよな。誰も買わないと思っていたからととても喜ばれたんだっけか。おかげでオプションでいろいろいただいてしまった。冷蔵庫も食器棚も、その中の食器も全て譲り受けたし、布団も全部いただいた。さすがに洗濯機は自分で買ったけど。
「ユマ、ちょっと川の方見てくるからー」
家の中にそう声をかけたら、
「イクー」
と返ってきた。
「え? ユマも一緒に行ってくれるのか?」
「イクー」
ユマの身体に腰に巻くポーチのようなものをつけ、ポーチにメイを入れた。これは桂木さんが持ってきてくれたものだった。肩掛け鞄でもいいが、せっかくもらったのだから使ってみよう。
「こういうの必要かなと思ったんですけど」
そう言いながら先日ユマの身体に巻いて調整してくれたのだ。ありがたいことである。桂木さんはこういう物を作るのも好きらしい。桂木妹は編み物が好きなのだと言っていた。無心になれるからいいらしい。
「水のろ過装置の方まで行くから」
ユマにそう言って、一緒に川へと向かった。川の一部の場所から水が湧いてくる場所があり、そこからうちは水を引いている。ろ過装置は一応最新のものらしいが、それでも目が詰まったりすることがある。だから定期的にごみを取ったりする必要はあった。ろ過装置の手入れは俺ができる範囲でし、一年で業者さんに交換してもらうことになっている。自分でやってもいいが、専門業者がいるなら頼んだ方がいい。
「一応大丈夫かな……」
繋がっている部分とかにほころびもないし、ごみを捨てれば問題はなさそうだった。そろそろ梅雨だから心配していたのだ。
梅雨が終ったらまた手入れをしなければいけないだろう。
川自体も確認する。木などが倒れていないか、流れをせき止めるようなものはないか、そしてアメリカザリガニはどうかなど。
「ユマ、ザリガニはいそうか?」
「ンー」
ユマは川の側に行き、首を動かした。そしてひょいっと動いた。
「……まだいるんだな」
当たり前のようにザリガニを咥えている。
「食べていいよ」
バリバリとユマは食べづらそうに食べた。そういえばメイの歯ってどれぐらいで生えてくるんだろうな。つか、ニワトリは普通あんなギザギザの歯は生えないもんだろと一人ツッコミした。
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