512.隣山の姉妹が見にきた

 昨夜、今日桂木姉妹が昼頃来るということと、ドラゴンさんが来ないことをニワトリたちに伝えた。

 そんなわけで朝からタマが俺の足の上に乗っている。だから何故乗るのか。「オキロー!」とか叫んでくれた方が早いと思う。だから何故足の上に乗るのか。(大事なことなので二度言いました)


「タマ、重いー! どけー!」


 タマがパッとどいてツッタカターと逃げて行った。

 どうしたら上に乗ることを止めさせられるのだろうか。今は足の上だからまだましではあるのだが。


「全く……」


 目覚まし時計を確認したら鳴る直前だった。もしかしてタマさん、時計読めてないですかねぇ? 実際時計を理解していたら相当頭いいぞ。まさかな。

 居間へ移動したらひよこはもう起きていてピヨピヨ鳴いていた。しかもダンボールから居間に下りて普通に遊んでいる。水と餌を取り替えてひよこをダンボールに戻した。


「ポチ、タマ、ユマ。メイのお世話ありがとなー」


 そしてタマとユマの卵が転がっているのを見てにんまりした。この卵があればがんばれる。

 いつも通りニワトリの餌を用意したり自分のごはんを用意したりして、ポチとタマを送り出した。ドラゴンさんも来ないからタマもためらいなく出かけて行った。そういえば相川さんのところのリンさんやテンさんには警戒しても、ドラゴンさんには警戒しないんだよな。不思議だなと思った。

 昼前に桂木姉妹がやってきた。


「佐野さん、お久しぶりです。お邪魔します」

「おにーさんお久~」

「久しぶり。中へどうぞ」


 やっぱ女子がいると華やぐな。二人に深々と頭を下げられたので俺も頭を下げた。

 家に案内する。

 ガラス戸を開けて入るように促すと、桂木姉妹は玄関で「お邪魔します」と挨拶をして入った。


「ユマちゃん、お久しぶり。お疲れ様」

「ユマちゃん~、ひよこはどこー?」


 またメイが居間から土間へ下りようとしたらしく、ユマのおなかガードに引っかかっていた。


「メイ、お前はまた……懲りないな」


 ダンボールの高さはそれほどないので簡単に出てくるようになってしまった。もう少し高さのあるダンボールを用意するべきか、それとももう諦めるべきだろうか。両手で黄色い羽の塊を掬い上げて桂木姉妹に見せた。


「きゃー……」

「わー……」


 二人はメイを見ると目を丸くした。そして、


「「かわいい!!」」


 と叫ぶように言った。メイがびくっとした。思ったより声が大きかったようである。


「おにーさん、この子ってメイちゃんっていうんだっけ? 触ってもいーい?」

「ああ、いいよ」

「わ、私もいいですか?」

「いいよ」


 両手をお椀を持つ形にそっと出してきた桂木妹にメイを渡した。


「わー、かわいい~! ふわっふわ~!」

「わー、尾もユマちゃんたちと一緒ですね~」


 さっそく気づいたらしい。まぁけっこう長いトカゲの尻尾みたいなのが黄色いふわふわについてるんだもんな。そりゃあわかるか。

 俺はなんで違和感なくこの尾を受け入れたんだっけ? みんな同じ尾があるからこういうもんだと思ったんだっけか。ま、別に問題はないからいいだろう。


「ユマ、ありがとうな」


 ユマを撫でる。ユマは外に出てトットッと歩いて行った。家の周りを散策するのだろう。運動不足には違いないのだが、まだまだひよこにかかりっきりである。だいたい二週間もすればもう少し大きくなるから少しは安心できるかな。小さいのはかわいくていいが、頼りないからかまわないとと思うのだ。ひよこだから二週間もすれば家の周りを適当に回ってもいいと思えるが、人間の子どもだとこうはいかないもんな。

 母親ってすごいなと改めて思った。

 桂木姉妹はああでもないこうでもないとメイにかまった。そしてやっと満足したらしく、


「お昼ご飯の準備しますね」


 とお昼ご飯を用意してくれた。ありがたいことである。

 みそ汁とごはんは用意してある。桂木姉妹は豚肉の生姜焼きを準備してきて、うちで焼いてくれた。いい匂いがして口の中に涎がたまってくる。漬物とか、豆腐、野菜も持ってきてくれて簡単にサラダも用意してくれた。ポテトサラダも持ってきた。


「これぐらいなんですけど……」


 桂木さんが申し訳なさそうに言う。


「いやいや、十分だよ。ありがとう」


 メイが入っているダンボールには一時的に柵をつけているのでメイはピヨピヨと文句を言っていた。

 生姜焼きは大皿いっぱいである。相変わらず量が多い。でもこの豪快さが桂木さんらしいと思う。ポテトサラダもかなりでかいタッパーに山盛りに入っていた。


「本当にこのポテトサラダもらっていいのか?」

「つい調子に乗って作りすぎちゃって……よかったらもらってください」

「ありがとう。大事に食べるよ」

「本当はねー、まだいーっぱいあるの」

「リエッ!」


 桂木妹が大げさなぐらい手を広げてアピールした。


「そっか。そういえばうちの母さんも昔調子に乗ってポテトサラダを作りすぎたことがあったなー」

「その時はどうやって食べたんですかっ!?」


 桂木妹が食いついてきた。

 あれは、どうしたんだっけか。

 思い出した。


「確か……餃子にして焼いて食べたかな」

「それはすぐに食べられそうです!」

「ポテトサラダ餃子、斬新! おにーさんのおかーさんが考えたの?」

「多分そうだったと思う」

「すごーい! 餃子にするっておいしそう!」


 ユマは餌を食べるとメイの方を確認してからまた庭へ出て行った。そうやって気にかける姿が優しいよなと思う。

 さすがに肉も多すぎたので少し余った。俺が今夜いただくことにした。


「まだあんまり買物とか行けてませんよね?」


 桂木さんはそう言って野菜やら豆腐やら置いていってくれた。


「本当にありがとう」

「私たちの方がお世話になっているんですから、頼ってください! 買物が必要なら言っていただければ買ってきますんで!」

「世話?」

「佐野さんがそう思ってなくてもそうなんですっ!」

「お、おう……」


 みんな優しいなと思う。いっぱいいろいろ持ってきてもらったからしばらくは大丈夫そうだった。

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