511.風呂好きだといいと思っている

 今年も相川さんに梅雨対策について相談した。

 昨年も話してはいたことだが、やはり家の回りに雑草が生えているのはよくないらしい。草が水を吸うから家の中が必要以上に湿気るみたいだ。家の回りの雑草は全て抜くことにしたが、ニワトリたちが食べそうなものは離れたところに植え替えるかどうか考えることにした。それで以前シロツメクサも移植したんだよなー。

 山道については帰りに見て、気になった箇所はLINEで送ってくれるそうだ。何から何まで申し訳ないと思った。


「いえいえ、メイさんが育つまではそちらにかかりっきりでしょう? でも多分一か月もするとそれなりに育ちますよね」


 相川さんに言われて頷いた。

 そういえばうちのニワトリたちは一月もしたらしっかりニワトリになっていた。ひよこの時期はとても短い。

 しんみりしながらその日の夜風呂に入った。

 先日、試しにユマとお風呂に入ったらギリギリだったけど入れた。それを相川さんに言ったら、


「……早急に改築が必要ですね」


 と言われてしまった。いつユマがまた元通りの体型になって、一緒にお風呂に入れなくなるとも限らない。でも改築っていってもこれから夏になるんだし……と渋ったら、秋になったらいいですよね? と笑みを浮かべてプレッシャーをかけられた。

 そりゃあ相川さんが仮想通貨でそれなりに稼いでくれたから、それほど足は出ないだろうけどちょっと複雑な気持ちである。


「なんでそんなに改築させたがるんですか?」

「ガス代、けっこうかかってますよね?」

「うっ……」


 それを言われると非常に痛い。プロパンガスだからどうしても高くつくのだ。


「薪を使う風呂釜にすればかなり温まりますし、ガス代もその分節約できますよ?」

「ううう……」


 確かにわかっているんだ。だから薪も貯める用にはしている。生木は乾かさないと使えないからかなり前から準備しておかないといけないこともわかっている。本当は一年半ぐらい前から準備しないといけないんだっけ。一年でもいいらしいが。

 枯れ枝などを主に拾っている理由がそれだ。

 話がまた反れた。風呂である。小さいタライにはメイが入っていて、そのタライにはぬるま湯が入っている。メイはばしゃばしゃと足や尾を動かしていてとても楽しそうだ。しかもタライから出てこっちに来た。


「メイ? 入りたいのか? こっちは熱いぞ?」

「ピイピイピイ」

「まだだめだよ」


 湯舟に浸かったまま手を伸ばし、メイを掬い上げて洗い場からタライに戻した。メイがブルルッと震えた。

 ひよこを見ているとうちのニワトリたちがひよこだった時のことを思い出す。あの時は全然わかってなくて、風呂に直接入れちゃったんだよなー。

 もしかしてあれでポチとタマは風呂嫌いになったのだろうか。つか、ニワトリって本来風呂には入らないよな?


「ユマ」

「ナニー?」


 コキャッと首を傾げる仕草がとってもかわいい。でっかくてもなんでも、うちのニワトリは世界一なのだ!(ニワトリバカ全開


「お風呂、好きか?」

「オフロー、スキー」


 なんかN〇Kの子ども番組にそんな名前のキャラがいなかったかな。そんな風に聞こえた。


「サノー、オフロー、スキー」

「俺と一緒に風呂に入るのが好き?」

「サノー、イッショー」


 狭いからユマは身体を少し揺らしただけだったけど、やっぱユマは天使だと深く思った。


「ユマはかわいいなー」

「カワイイー?」

「うん、ユマはかわいいよ」

「カワイイー」


 ユマがまた身体を揺らした。

 うん、やっぱり改築を頼もう。もっと大きめの風呂にして、毎日風呂に一緒に入るんだ!

 ってことで風呂を出てから相川さんに電話をしようとしてはっとした。

 いやいや、まずは資金の確認からだろう。ただでさえニワトリたちの食費がたいへんなのだ。そこらへんをしっかり計算してからにしようと思った。自動車税の方はちゃんととっといてあるから大丈夫だ。かかる金額が多くて嫌になってしまうがしょうがないのだ。

 全て必要経費である!(きっぱり)

 今夜もメイとは一緒に寝られなかった。タマに寝室へ追いやられた。

 夜は面倒を看るから帰れ帰れとやられるのだ。ちょっと切ないが、しっかり寝させてもらえることを喜ぼう。こんなことならずっと居間で寝ているんだった。

 翌日、頭を悩ませながらお金の計算をしていたら桂木さんからLINEが入った。


「いつだったらメイちゃんを見に行ってもいいですか?」


 見に来るのはいつでもかまわないと思う。連れていくことはまだ難しいが。


「タツキさんを連れてこないならいつでもいいよ」


 そう返事をしたら、


「では明日伺います。お昼ご飯持っていきますねー。リエも一緒です」


 と即返ってきた。そんなにメイが見たかったのか。一応遠慮してくれていたらしい。


「メイ、お前は人気者だな」

「ピヨ?」


 返事がかわいくて笑った。また段ボール箱から脱走したのを掬い上げて戻す。水と餌をこまめに替える。今のところメイの成長は順調そうだ。そろそろユマと一緒に家の周りを歩かせてもいいかもしれないな。

 産まれたのが一羽でよかったと、内心冷汗をかいたのは内緒である。(情けない)

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