493.村役場へ行ってみた

 お昼ごはんをタマとユマにあげ、俺もシシ肉のスパイス漬け(クミンと七味唐辛子、醤油で漬けてみたのだ。うまい)を焼いたのを食べてから村役場へ出かけた。

 十二時から一時までは人が本当にいなかったりするので避けるのが普通である。二時までもたまに怪しい。


「すみません。スズメバチの駆除業者を紹介してほしいんですけど、なんかパンフレットとかないですか?」


 ネットで調べてもいいんだが村役場で紹介してもらった方が確実だと思ったのだ。ちなみにタマも付いてきてくれて、村役場の前でうろうろしている。あんまり車とかもないからできることだ。

 役場の人に聞いたら不思議そうな顔をした。


「んー? スズメバチなんか自分で駆除しないのかい? まだ巣もそんなに大きくないだろう」

「刺されたら嫌なんで……」

「まぁなぁ……今はアレルギーとかなんとかあるんだっけか? でも駆除業者になんか頼んだら高いよ? 知り合いに頼めないのかい?」

「あはは……」


 その知り合いに頼みたくないからここに来たんです。


「あれ? 佐野君じゃあないか。どうかしたのかい?」


 げっと思った。桂木さんがお世話になっている山中のおじさんは、どうやら役場に勤めていたらしい。そうだった、知り合いが村役場に勤めている可能性を忘れてた。


「あー、いえ……その……」


 冷汗がだらだら流れた。


「なんだ? 知り合いか。聞いてやってくれよ。この若いモンがスズメバチの駆除をする人を探してるらしいんだ」


 おじさんそれは言わないでー。


「スズメバチ? そんなのゆもっちゃんが喜んでやるだろう?」


 ええそうですよね、知ってます。俺は内心苦笑した。


「え? ゆもっちゃんの知り合いだったのか。だったらゆもっちゃんが喜んで行くぞ。なんなら電話してやろう」

「いやいやいやいや……いいですから……」


 なんなんだよおっちゃん、どんだけ有名なんだよー。スズメバチの駆除を喜んでいくとかこの間もどっかで聞いた気がするけどおかしいだろ!


「もしもし? 湯本さん? 今多分知り合いの子が役場に来てるんだけどさー」


 とうとう他の人が電話をかけてしまった。

 あああああ……。

 俺は首をがっくりと垂れた。


「ん? 佐野君どうしたんだ? もしかして、ゆもっちゃんには頼みたくなかったのか?」


 山中さんが気づいてくれたけどもう後の祭りだ。


「いや……その……湯本さんももうけっこういい年じゃないですか。だから頼むのはさすがにって思って……」


 そう言ったら役場の人たちがみんなへんな顔をした。


「え? まだゆもっちゃん六十代だろ? 若い若い!」

「この間マムシ捕まえてるの見たぞ?」

「まだまだ元気だよなぁ」


 いや、元気なのは知ってるんだけど……。

 ここに俺の味方はいないようだった。


「すみません、ありがとうございました……」

「今ゆもっちゃん来るから待ってて!」


 ということで待たされることになった。でも外ででっかいニワトリがうろうろしてるんですが、と言ったら役場の人たちがわらわらと出てきてしまった。


「でっかいニワトリ? もしかしてニワトリの人?」

「あ、佐野君てニワトリの佐野君かぁ」

「あのニワトリすごいよなぁ」


 ってことでみな役場の外に出てしまった。タマ、ごめん。


「あの……勝手に近寄ったり触ったりするとつつかれますよ?」

「そうだよねー」

「ニワトリってけっこう強いよなー」


 山中さんがやれやれという顔をしている。お仕事の邪魔をしてすみませんすみません。

 タマは駐車場と役場の間をうろうろしていた。


「うわっ、本当にでかい!」

「あの尾、何だ?」

「カッコイイじゃないか。恐竜か?」


 タマがコキャッと首を傾げた。


「ごめん、タマ。これからここにおっちゃんが来るみたいなんだ。もうちょっと待っててもらっていいか」


 ココッとタマが返事をした。


「うわー、頭いいんだなぁ」


 職員さんたちが近くで感心したように呟いた。この状態はいったいどうすればいいんだろうか、と思っている間におっちゃんの軽トラが着いてしまった。つーか、早くない? ねえ、早くない?


「あれ? 昇平か? どうしたんだ?」

「え、あー……いや……」

「ゆもっちゃん、この青年がスズメバチの駆除をする人を探してるみたいなんだよ」


 あーもー、プライバシーって知ってるー? いや、この村にそんなものないか。あははははー。(乾いた笑い)

 おっちゃんはいぶかしげな顔をした。


「? なんで役場なんかに来たんだ?」

「え……あー……おっちゃんに頼むのは、悪いかなと思って……」


 そう言ったらおっちゃんはニカッと笑った。


「なんだなんだ、水くせえじゃねえか! まだ巣は小さいんだろ? 防護服貸してくれよ。俺がちゃちゃっと取ってやらあ!」


 なんでそんなにアクティブなんだろう。俺は遠い目をした。

 こうなったらしかたない。そんなわけで、今日中に取る予定はなかったのに俺も防護服を貸してもらい、また山にとんぼ返りすることになった。

 タマには、「今日中にスズメバチの巣を落としたい」と伝えた。タマはまたココッと鳴いた。手伝ってくれるってことなんだろう。ふと思ったけど、ポチがすごい声で鳴いてたのって、もしかしてスズメバチを見つけてテンション上がってたとかそういうことだったんじゃないだろうか?

 それにしても、田舎の密着度舐めてました。ごめんなさい。



ーーーーー

田舎あるある:だいたいみんな知り合い。


本日中にアルファポリスからは撤退します。また後でアナウンスあるので近況ノートとか待っててもらえると幸いですー!

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