492.整備はなかなか進まない

 午前中に二時間参道の整備をする。まだ雑草を抜いたり余分な木の枝を切り払ったりしているだけだ。1m進むのも難儀である。目の前にでかい木とか普通に現れるしな。そしたらそれは避けないといけないから最短で登ろうとしてもジグザグに進むことになってしまう。

 え? 木を切ればって? 根っことかどうするんだよ。いくらなんでも重機じゃないと根っこは抜けないし。しかも木って平らなところに生えてるわけじゃないしな。途中休む用に切り株の椅子とかはあってもいいかもしれないが、切った木もどうしたものかというところだ。それに木を切るのはやっぱり冬の方がいいと聞いている。

 枝を払って雑草を抜いて、時折立ち上がっては腰をトントン叩く。おじいちゃんか俺は。明日は上まで登ろうと思った。

 雑草が生えてくると本当にずっと雑草を抜いているような気になる。それぐらい植物の成長は早い。ポチが運動不足になってしまうと困るので、午前中で切り上げた。


「あー、疲れた……」

「ツカレター」

「……ポチは遊んでただけだろーが」


 時折キョキョキョキョキョとか鳴いてたりしたし。変な鳴き声選手権にでも出場するつもりかポチは。そんなものがあるかどうかは知らんけど。

 うちに戻って昼飯を食べさせてからポチは送り出した。


「ユマ、暑くないか?」

「ダイジョブー」

「そっか。なんかあったら言ってくれよ?」


 ユマさんは癒しです。あんまり動けなくてたいへんじゃないのかなと心配になってしまう。

 午後は川を確認したり、炭焼き小屋の側で薪を作ったりしていた。今日切ってきた枝とかもそうだけど、生木を切ったものはまず乾燥させないといけない。あとは枯れ枝を拾ってきたりととにかくやることが多かった。真面目に山の中の作業をするとへとへとである。体力ないな、俺。

 タマとユマの卵とか食べて体力つけないと。

 翌日はタマが付き添ってくれた。ありがたいことである。


「タマ、今日は山頂まで登るつもりだけどいいのか?」

「ノボルー」


 タマさん、とっても頼もしいです。

 やっぱりただ登るのはきつい。ところどころで藪があったりと、遠回りを余儀なくされる場所もある。これ、全部切り払わないといけないんだよなと思ったら眩暈がしてきた。いやいや、愚公移山(愚公山を移す)の精神だ。そんなに大げさなことじゃないと言われそうだけど、俺的にはそうなんだよ。

 水とお酒などを持ってどうにか山頂についた。慣れない道なき道を上がってきたからへとへとである。

 果たして設置した石はそこにあった。


「お久しぶりです。全然来なくて申し訳ありません」


 空になっている皿を水で軽く洗い、そこに酒を注いだ。


「もうしばらくしたら祠が届くと思います。今しばらくお待ちください」


 石をタオルで丁寧に拭いた。あまり汚れてはいないけど気持ちの問題である。

 いつも見守っていただきありがとうございますと挨拶をしてから、石に向かって近況を話した。ニワトリたちがまたイノシシを捕まえたこと、ユマが抱卵し始めたこと、山倉の圭司さんや将悟君も来て参道の整備を進めていることなどだ。

 神様もそんなことを話されても聞いていないかもしれないが、俺が話したいだけである。


「参道の整備には時間がかかりそうです。申し訳ありませんが、ゆっくり作業をさせてください」


 そう言ったら、優しい風が頬を撫でていった。気のせいかもしれないが、それでいいと言ってもらえたのかもしれなかった。

 登るのはまだいい。下りるのがたいへんである。しかしタマはすごいスピードで下りて行った。あれ、下りるっつーより落下に近くないか? 中学高校の時にやっていた階段五段飛ばしに近いものを感じる。(階段は一段一段しっかり登りましょう。怪我したりするかもしれないし危ないからね!)

 さすがにタマの真似はしません。大怪我をしてしまったら目も当てられない。

 マイペースに山を下りたら、タマがキョワエエエエエエとか叫んでいた。

 えー、何? 春なの? うん、春だけど。その変な声上げるの流行ってるのか?

 と、思ったらタマが何か捕まえたらしい。


「タマ?」


 声をかけたらタマがこっちを向いた。その嘴には……。


「うえええええっ!?」


 そうだよな、そんな時期だよな。


「あー、食べていいよ……」


 その黒とオレンジの縞模様は去年も見たことがある。

 スズメバチだった。そういえば4月ぐらいから活動を始めるんだっけ。この辺りに巣を作り始めたんだろうか。

 タマは捕まえたスズメバチを食べると、近寄ってきた。


「タマ、どこらへんに巣があるかとかわかるか?」

「ンー」


 タマがトットットッと軽く歩く。そして栗林の側でこちらを振り向いた。


「栗林の中か……明日は桂木さんちだけど、その後は駆除業者に頼まないとだめだな」


 え? おっちゃんに言えばいいんじゃないかって? さすがにもう歳だし、そんな危険にさらせないだろ。俺も自分でやりたくないし。

 ってことは黙っているしかないな。でもぐずぐずしているとどこからか耳に入る可能性もある。どうやって耳に入るのかは不明だが。

 よし、善は急げだ。

 つーことで一旦家に戻ってから、午後はめったに行かない村役場へ向かったのだった。



ーーーーー

愚公移山 何事も根気よく努力を続けることで、最後には成功すること。


佐野君が例に出したのは故事によります。興味があれば調べてみてくださいませ。


430万PVありがとうございます! これからもよろしくですー!


レビューいただきました! ありがとうございまーす!

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