488.タケノコ掘りにはぎりぎりの時期です

 あせもになっても困るので、ユマの羽の下を濡れタオルで少し拭いたりはしている。

 そうするとユマも気持ちよさそうだから、手間はかかるけどがんばる。卵を冷やさないようにする為にか、ユマは俺がいる時にしか便はしないようだ。(俺がいる時に表まで行く)水も食事の量も減って心配だが、こまめに様子を見ればいいのだろう。

 翌朝はまたタマが足の上に乗った。

 そういえば筍掘りをするって伝えたもんな。俺も起こすなって前の日に伝えればいいだけなんだが、ついつい忘れてしまう。おかげで今朝も重かったです。


「タマー、重いー、どけー!」


 コココッとタマは鳴いて、いつも通りツッタカターと逃げて行った。スマホを見る。そろそろ起きる時間だった。

 今朝は筍掘りだから早いのだ。あくびを噛み殺しつつある程度支度をしてから居間へ移動した。

 まだ窓の外は暗い。

 一応麓の待ち合わせ時間まであと一時間ある。土間から卵を二個回収し、「タマ、ユマ、ありがとうな」と礼を言った。村で買ってきた卵をそろそろ使わねばとかき玉汁を作る。

 ニワトリたちの餌を用意し、炊いておいたごはんに納豆と漬物、かき玉汁で朝食を終えた。


「そういえば今日はおっちゃんたちとタケノコ掘りするけど、お前らはどうする?」

「イクー」

「ルスバンー」

「タマゴー」


 今日はタマがユマの様子を見ていてくれるらしい。なかなか連携が取れてていいかんじだ。


「わかった。ポチ、よろしく。タマもありがとうな」


 ポチはクンッと頭を上げた。タマはフイッとそっぽを向く。タマはやっぱりツンデレだなと思う。デレが非常に少ないのがつらいところだ。

 ちょうどいい時間になったので、「行ってくるなー」と声をかけてポチと軽トラに乗り、麓へ向かった。ちゃんと筍掘りの道具は昨夜のうちに準備しておいたのだ。

 麓ではおっちゃんとおばさんが待っていた。


「おはようございます」

「おう、おはよう。今日はポチか」

「昇ちゃん、おはよう。押しかけちゃってごめんなさいね」


 おばさんはすまなさそうに言った。そんなに気にすることなんてない。俺はいえいえと首を振った。柵から中へ入ってもらい、少し軽トラを走らせる。確かこの辺に竹がけっこう生えていたはずだ。うちの敷地内だから道路上に軽トラを停めても全く問題はない。

 停車の合図をして停め、下りた。


「あの辺ですね。けっこう伸びてきちゃってるみたいですけど」

「ああ、そうだな。でもまだ掘れるだろ」

「そうねぇ。でもできれば今日中に掘れるものは掘っちゃった方がよさそうね」


 ってことで道具を出してさっそく掘ることにした。竹は伸び出すとすぐに大きくなってしまうから、こういうのは早めにやらないとだめなんだよな。ポチは周囲の草や地面をつつき、時折頭を上げては見回したりしている。危険がないかどうか確認しているんだろう。

 こんな山の中で危険なんて、と俺は素人判断で考えてしまうが、未だ俺自身が遭遇してないだけでイノシシはいるし、クマだっているかもしれない。それにマムシは普通にいるしスズメバチだっている。やっぱり山では気を抜いてはいけないなと思いながら土を探り、ちょっと頭が出たか出ないかの筍を見つけては延々掘った。掘った筍は日の光が当たらないように黒っぽい布を被せておく。日の光を浴びると筍にえぐみが出てしまうのだそうだ。竹籠にこれでもかと獲り、軽トラに乗せて家へ戻った。

 さっそく大鍋で茹でたりと作業を始める。一部はそのまま皮を剥いておばさんが手際よく刺身にしてくれた。


「あんた、酒は飲んじゃだめよ」

「わーってるよ」


 おっちゃんは苦笑した。さっと湯にくぐらせた筍のスライスを、おばさんはポチやユマにもくれた。


「ユマちゃんが元気そうでよかったわー」


 ココッとユマが鳴く。ポチは筍をもらってから、そわそわと家の外を歩き始めた。


「ポチ、遊んできていいぞー」


 クァーッ! と威勢よく返事をして、ポチはさっそく駆けて行った。やっぱポチは運動しないとダメみたいだ。今年の梅雨はどうしたもんかな。


「ポチちゃんは相変わらず元気ねぇ。タマちゃんもパトロール中なの?」

「はい。やっぱり運動しないとだめみたいで」

「じゃあユマちゃんが特殊なのかしらね。いつも昇ちゃんの側にいるみたいだし」

「ええ、山ではそうですね」


 俺は苦笑した。

 わさび醤油で食べる筍の刺身は絶品だった。


「おばさん、すみませんでした」

「あら? 何か昇ちゃんはしたのかしら?」

「ニワトリに抱卵させたいってこと、多分俺、誰にも伝えてなかった気がします」


 おばさんはため息をついた。


「……昇ちゃんが飼主なんだから、ニワトリに関しては昇ちゃんが考えればいいことだけどね。ちょっと水臭いとは思ったわ。一言伝えてほしかっただけよ。だから、昇ちゃんが謝る必要はないわ」

「でも抱卵って三週間はかかりますから、やっぱり相談すればよかったと今は思ってます」

「そうね……今年も蛇対策でニワトリを貸してくれっていうような話があったら困っていたかもしれないわね」

「そういえば、今年は蛇ってどんなかんじなんですか?」

「蛇に関しては聞かねえな。ただなぁ……ちらほらイノシシは出てるみてえなんだよな」


 おっちゃんが難しい顔をして呟いた。


「イノシシ、ですか」

「イノシシは害獣だから通年で獲ってもいいんだが、村の中で猟銃をぶっ放すわけにもいかねえだろうし。結局罠で対応するんだがなかなか入るもんじゃねえ。まだ寄合で話が出るほどじゃあねえが、下手すると来月ぐらいには問題になるかもしれねえな」

「イノシシは確かに困りますね……」


 食う分にはいいんだけどな。


「ま、相手が蛇ならともかく、イノシシ狩りにニワトリ貸せなんてあほなことは言い出さないだろう。いくら昇平んとこのニワトリたちに実績があってもな」

「まぁ、普通に考えたらそうですよね」


 イノシシ狩るからニワトリ出動させろっていったいなんのギャグなんだ。

 おばさんは筍を茹でるだけ茹で、お昼ご飯を作ってくれたりした。本当に頭が上がらない。


「産まれそうになったら声かけるのよ!」

「はい、ありがとうございました」


 ここでいいと言われたので駐車場で見送った。おっちゃんは金網のところの鍵、持ってるしな。

 それにしても筍料理か。何と煮て食べようかなとウキウキしてきた。あ、もちろんニワトリにもあげるけどな。


ーーーーー

420万PVありがとうございます! これからもよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る