487.つつきたいけどつつけないとそうなるらしい
「ユマさんの様子を見に伺っても大丈夫ですか? 都合のいい日があれば……」
養鶏場からの帰り、相川さんにそう聞かれた。相川さんもユマのことを気にしてくれているようだった。
「明日は朝からおっちゃんたちが来るんです。筍掘りを手伝ってくれるみたいで」
「そうなんですか。では明後日以降で都合のいい日があれば教えてください。リンが少し気にしているようでしたから」
「ああ! そうですよね。ユマは元気だとお伝えください。うちは明後日でも大丈夫です」
相川さんは笑んだ。
「では明後日伺いますね。昼食後に行くようにしますから」
「あ、はい。お手数おかけして……」
「そんなことはありませんよ」
こちらが昼ご飯を用意しなくていいように気を使ってくれたのだろう。リンさんも優しいよな。
「タマ、明日は朝早くからおっちゃんたちが来るからな」
軽トラに乗ってうちに向かいながらタマに伝えた。ココッとタマが返事をする。
問題はその後だ。
「タマ、明後日の午後はリンさんがさ、ユマの様子を見に来たいんだって……」
タマがこちらを向くのがわかった。運転中だからつつかないでください。お願いします。
さすがに俺をつついたら危ないというのはわかっているらしく、じーっと見られていた。帰ったらつつかれるんだろうかと戦々恐々としていたが、その前にタマが鳴きだした。
クァーッ、クァーッ、コココココッ、クァーッ!
「タマー! うーるーさーいーぞー!」
お互いに軽トラの中で大声を上げながら帰った。いったい何をやってるんだか。そのせいか帰ってからつつかれはしなかった。よかったよかった。相当うるさかったけど。
帰ったら畑の側にポチがいた。珍しいことだと思った。タマがポチのところまでかけていき、二羽で何やら顔をつきあわせた。なんなんだろう。
もらってきたものを荷台から下ろして家に運んでいく。あ、ちなみにサラダチキンは帰り際に相川さんちの分は渡してある。ニワトリたちのエサが入ったポリバケツは倉庫へ運ぶようだ。
でもその前に。
「ユマ、ただいま!」
家のガラス戸を開けた。
「オカエリー!」
ユマにそう言ってもらえてジーンとした。ユマはダンボール箱の中でもふっとしている。卵を抱えているからそうなんだけど、その姿がたまらなくかわいい。
「サノー、ムシー!」
「え? なんだ?」
ユマに近づいたらユマが頭を近づけてきて俺の服をつついた。
「サノー、ウシロー」
「後ろ向けってことか?」
ユマの言う通りに後ろを向いたらまた服をつつかれた。なんかユマ的に許せないものがついているらしい。ゴミかもしれないけど。
「サノー、ソトー」
タマに表から呼ばれた。
「はいはい、呼び出しですか……」
今度こそつつかれるのかとため息をついて表に出たら、つつかれたはつつかれたけどユマの嘴が届かなかったところを重点的に、というかんじだった。うちの中を汚すなってことなんだろうけど、ありがたいことだと思った。
「タマ、ありがとなー」
礼を言ったら今度こそつつかれた。だからなーんーでーだー。
ポチがそわそわしているのがわかった。どうやらユマを見ててくれという俺の頼みを聞く為に家の側にいてくれたようだ。
「ポチもありがとなー。遊んできていいぞ」
そう伝えたら二羽は途端にツッタカターと走って行った。
「暗くなる前に戻ってこいよー!」
クァーッ! というポチの返事が聞こえたから大丈夫だろう。うちのニワトリたちは運動不足になるとたいへんだしな。
そう考えるとユマっておとなしいんだろうな。いつも俺の側にいるぐらいだし。
家に戻っていろいろ片づけをし、ユマに断って倉庫の冷蔵庫を改めて確認した。保冷剤を入れ替えないとまずそうだ。
家に戻って保冷剤を運んでいき、入っていた保冷剤と入れ替える。これでエサの保管もどうにかなるだろう。倉庫の中はそれほど暑くはならないが、それでも注意は必要だ。夏になるといろんなものが傷むしな。さすがに夏の間は松山さんのところの餌はお休みして、野菜を調達しようと思った。何せ山を下りれば農家さんだらけだ。採れすぎたものや規格外の野菜は声をかければいくらでも売ってくれる。ただでいいよとは言ってくれるがそれに甘えてはいけないので謝礼は払っている。もらえることが当たり前になってはいけない。
「あー、そろそろなんか贈物とか考えないとな……」
去年のこの時期はどうしたんだっけか。果物の詰め合わせ? 紅茶セット? そんなかんじでいいのかな。明後日また相川さんに相談してみよう。
って、俺やっぱり相川さんに頼ってばっかじゃないか。
「あー……」
思わず声が出た。自分でも少しは調べないとと思ったが、それ以外だとけっこう田舎の家ってお中元とかお歳暮でもらってるみたいだしな。その手の定番を思い浮かべてため息をついた。コーヒーとか、鰹節とかもらっても困るよなー。
「サノー?」
ユマが不思議そうに首をコキャッと傾げた。もふっとしてるから余計にかわいいな。目尻が下がってしまう。
「あ、ごめん。なんでもないよ」
はー、ユマがかわいくて癒される。そっとユマの羽を撫で、俺はユマにも甘えっぱなしだなと思ったのだった。
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