489.不義理にもほどがある
筍、一部は皮付のまま焼いてあちあち言いながら皮を剥いて食べた。
うますぎる。
シイタケもまだまだあるから焼二冬(シイタケと筍の醤油炒め煮)も作って食べた。ごはんが進むしいくらでも食べられる。本当は「冬」ってついてるぐらいだから冬菇(どんこ)と冬笋(孟宗竹の筍)を使う料理らしい。冬筍なんて村に来てから知った。春にシイタケが採れるなんてのも知らなかったし。そういうのってここに来なかったら知らなかった知識だよな。
そういえば今日も母親からLINEが入っていた。毎日他愛ない一言が最近は送られてくるんだけど、今日の内容は違った。
おっちゃんとおばさんに関係することだ。湯本のおっちゃんは母の従兄の友人である。つまりは赤の他人だ。
母の従兄は退職するまでN町で働いていた。おっちゃんとは職場が一緒だったのだ。母の従兄といちいち言うのもあれだから親戚と統一してしまうが、その親戚は退職と同時に奥さんと共に実家へ戻った。親戚の実家は遠くて、俺は小さい頃に一度ぐらい会ったことはあるがそれ以降会った記憶はない。
その親戚がたまたまうちの実家の近くに来る用事があったらしく、実家に寄ったそうなのだ。それで俺の様子を聞いていってらしい。仲介してくれたから気にしてくれていたのだろう。全然連絡もしていなかったが、お礼の電話ぐらいしなさいよと書かれていた。
お礼の電話か。仲介してくれた時にも一度電話はしている。
「そうだよな。俺って、不義理が過ぎるよな……」
深呼吸して、居間に腰掛けた。ユマが目を開けて、首をコキャッと傾げた。俺の様子に何か感じ取ったみたいだった。
「ユマ、いつもありがとうな。ちょっと電話するよ」
「ワカッター」
ユマはまた目を閉じた。いつもこうやってニワトリたちには助けられていると思う。
意を決して電話をかけた。
「もしもし?」
男性の声が聞こえた。
「もしもし、佐野昇平と申しますが……」
「ああ! 昇平君かい? どうかな、山の暮らしは」
「はい、おかげさまで楽しく暮らしています」
電話に出たのは親戚だったようだ。湯本のおっちゃん、おばさんにはよくしてもらっていること。ニワトリも飼って楽しく暮らしていること。村の人々が温かいことなどを話した。
「それはよかった。湯本はけっこう無茶するだろう?」
「あー、はい……ははは……」
「スズメバチの巣に突撃したりとかしなかったか? いや、手伝いに行ったことはあったがあれはひどかったなぁ」
「ははは……」
前からやってたのかよ。
「昇平君も、あんまりアイツが無茶を言うようなら断るんだぞ? いい奴なんだがいつまでも元気でいけないな」
「ありがとうございます。おじさんは、もうこちらにはいらっしゃらないんですか?」
「……今年はちょっと無理そうだな。じいさんの具合が悪くてよ。入院するかしないかってところなんだ」
「それはたいへんですね」
「いやいや、人間寄る年波にゃあ勝てないよ。そのうちそっちに顔出しに行けるようになったら連絡するよ。昇平君が元気でよかった」
「お気遣いいただきありがとうございます」
そんな話をして電話を切った。気さくなおじさんだった。おっちゃんにも電話するのかな。
そういえばお礼の品物みたいなのは一番最初に送ったけどお中元もお歳暮も送ってない。もしかしたらうちの親が送っているのかもしれないけど、俺も今年は何か贈ろうと思った。
「ホント、いろんな人に助けられて生きてるよな……」
俺なんか特にそうだ。スマホを置く。ふと視線を感じてそちらを見れば、ユマにじっと見られていた。その目が少し心配そうに見えて、ユマにも心配をかけているなと反省した。
「ユマ、いつもありがとうなー」
羽をそっと撫でる。ユマが気持ちよさそうにまた目を閉じた。ユマは俺の癒しです。ニワトリたちにも負担をかけないようにしなくては。
いろんなところへお礼をしなければいけない。とりあえずリスト化していこう。
明日は相川さんがリンさんと一緒に来ることになっている。
そういえば桂木さんのところの祠ってどうなったんだろうな。まだかかるんだろうか。それを言ったらうちの山の祠もなんだが。
なんでこんな忙しい時に抱卵させるなんて俺も考えたんだか。でもこの時期を逃したらいけないような気がしたんだ。今なら一羽ぐらい産まれるんじゃないかって思ったんだよな。
「なんか不思議だな……」
「フシギー?」
「うん。ユマ、なんかほしいものあったら言うんだぞ」
「ワカッター」
家の中は比較的涼しい。卵の中で、ひよこが無事育っているかどうかはわからない。それでも待ち遠しいなと思う。
今度はどんな子がうちに来るのだろう。
うちのニワトリたちが産んだ卵だけど、普通のニワトリが産まれるんだろうか。それともやっぱりポチたちみたいに尾が爬虫類系で、でっかく育つんだろうか。それはそれでまた食費がすごいことになりそうだな。一羽だけじゃなくて何羽も産まれたら就職も考えないといけない。
「俺、考えてなさすぎだろ」
自業自得とはいえ、ちょっと頭が痛くなった。
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