479.西の山の住人は大蛇? と一緒

 みそ汁ぐらいは作っておいてもいいだろう。一日に一杯は飲まないとなんか調子が悪い。サラリーマン時代はそんなことなかったんだけどな。(つってもサラリーマンしてた時期も短い)

 うちの畑の小松菜と油揚げのみそ汁だ。これがまたうまい。……としか? いや、そんな年齢ではないはず。

 そんなことを自問しながらタマとユマの卵について考えた。相川さんが使いたがるようなら今日の分は提供しよう。

 ポチとタマは朝飯を食べるとツッタカターと走っていった。今日は本気で暗くなるまで帰ってこないんだろうな。それはそれでかまわないんだが、汚れたところを洗ったりするのが難儀なんだよな。玄関の明かりと、四阿のライトしかないし。山の中の夜は、星がとってもキレイに見えるほど暗かったりするのだ。特にこの辺は人もあんまり住んでないから、夜は全体的に暗いしな。

 朝から珍しく養鶏場の松山さんから電話があった。


「佐野君、最近はどうだい?」

「ご無沙汰してます。やっとGWが終ってほっとしてます」

「そうか、確かになぁ……佐野君ちは川沿いだから不法投棄もそれなりにあるのかな」

「少しはありましたね~。困ったもんです」


 そんな世間話を経て、本題だ。


「相川君のところのシイタケの件、全然返事をしなくて悪かった。今更になってしまうけど、融通してもらえるかどうか聞いてもらっていいかな? 粉末状にするとやっぱりいいみたいなんだ」

「わかりました。今日これから会うので伝えておきます」

「よろしく。それで、近々こっちに来てくれるかい?」

「はい、サラダチキンも買いたいので、数が決まったら早めにお伝えします」

「ああ、それもあったか。うん、頼んだよ」


 そういえばサラダチキンの管轄は松山のおばさんだったか。サラダチキン、便利なんだよな。いくらあってもいいと思う。おやつの代わりにもなるし。

 畑の手入れをする。あらかた収穫はした後だが小松菜もかき菜もどんどんできるからいい。きゅうりはまだだな。今年はシシトウを苗で買ってきて植えようかなと思っている。苗ならこれからでちょうどいいはずだ。


「ユマ、ちょっと川を見てこよう」


 ユマと一緒に近くの川へ向かった。

 昨年ほどあからさまではないが、まだザリガニの姿が見えた。一匹ぐらいだけど、一匹見えるってことはまだそれなりにいそうである。全く、どんだけ増えたんだっつーの。呆れた繁殖力だ。山だから寒いはずなんだがなぁ。

 戻って家の掃除をしたり、倉庫の冷蔵庫の冷え具合を確認し、餌を補充したりしていた。今日は草むしりをする時間はあまりなさそうだった。

 昼前に相川さんが来てくれた。


「こんにちは。また押しかけてしまいました」


 軽トラの助手席にはリンさんが乗っていた。


「いえいえ。ありがとうございます」

「佐野さん、リンを下ろしてもよろしいですか? ユマさん、リンが川で生き物を獲ってもかまいませんか?」

「はい、もちろん」

「イイヨー」

「ありがとうございます」


 相川さんは俺とユマに断ってからリンさんを下ろした。今日のリンさんは半袖シャツ姿である。川に入るからだろう。


「リン、バケツ」

「アリガト。サノ、アリガト」

「いえいえ、ザリガニは食べていただけると助かります」


 リンさんの目と口は動くが、それ以外の部分の動きはぎこちない。リンさんの姿は女性の上半身を模しているが、あくまで擬態しているだけなのだろうということがよくわかった。リンさんはリンさんなりに相川さんが心配だったんだろうなと思う。みんな優しくてありがたいことだ。

 ずる……ずる……と音を立ててリンさんがゆったりと川へ向かう。ユマがその近くに行く。どうやら一緒に川へと行くみたいだった。


「女子同士、本当に仲がいいですよね」

「ですね」


 タマは苦手みたいだけどな。


「ところで、ポチさんとタマさんはパトロールですか」

「はい。そんなところです」


 パトロールしてんだか泥だらけになりに行ってるんだかわからないところである。まぁ昼間は好きに過ごしてくれたらいいと思うのだ。


「養鶏場から電話がありましたよ。シイタケ、ニワトリたちの餌にほしいそうです」

「それはよかったです。さすがに多すぎて嫌いになりそうでしたから」


 はははと相川さんが力なく笑った。いくら好きなものでも食べ過ぎたら飽きるとはいうしな。シイタケ栽培も計画的にしないといけないようだ。

 家に入り、みそ汁を作ったことは伝える。豆腐皮を見せると相川さんは嬉しそうにうんうんと頷いた。タケノコの水煮も持ってきてくれたようである。


「うちの山の下の方でフキが採れたんです。それで翡翠煮を作ってきたのですが……」

「えええ? 本当ですか!?」


 小さい頃は苦手だったが今は大好物だ。


「嬉しいです」

「佐野さんが好きでよかったです。フキって人によっては全然食べつけないようなので」

「あー、俺も小さい頃は苦手でしたよ」


 以前おっちゃんちで食べたこともあったはずだが、俺もよく覚えてはいない。

 さて、豆腐皮である。相川さんがどんな料理を作ってくれるのかとても楽しみだった。

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