480.西の山の住人クッキング
「本日は
「はぁ」
全く聞いたことがない。音の響きからして中華料理なんだろうか。豚肉の細切りを甘辛いタレで炒めた料理らしい。それを白髪ねぎ、きゅうりの細切りと一緒に
「豚肉の代わりにシシ肉を使いますね。紹興酒、醤油、片栗粉に細切りの肉を少し漬けておけます。これで多少臭みは抜けますので……」
相川さんクッキングのお時間です。本当は油通しをした方がいいらしいが、うちは油ポットもないのでそのまままず炒めるようだ。一旦皿に移し、空いたフライパンに甜面醤、オイスターソース、醤油をソースとして作り、水分が飛んで香りが引き立ったら先ほど炒めた細切り肉を入れて味をつける。他にもタケノコとシイタケをふんだんに使った焼二冬、トマトと卵の炒め(卵はうちのを提供した)などを作ってもらった。中華料理のオンパレードだな。うん、米は沢山炊いておいたよ!
豆腐皮は10cm四方に切り、そこに先ほど作ってもらった細切り肉、白髪ねぎ、きゅうりを包んで食べた。
「うまっ!」
「うん、これなら肉の臭みも全く気になりませんね~」
豆腐皮は包むのに使うようだから、餃子の皮の代わりとかでもいいのではないかというような話をした。
京醤肉絲、俺的には神の料理でした。シシ肉がこんな風に変わるなんて! 甘じょっぱ辛い肉だけど白髪ねぎときゅうり、そして豆腐皮とのハーモニーが。
ハーモニーってなんだ。
「この肉厚のシイタケがたまりません……」
「おいしいですよね」
にこにこしながら相川さんもよく食べていた。
「豆腐皮、もっと調達したくなりました」
「ですね。豆腐屋さんに頼んでおきましょう」
干豆腐も買ってきたと言ったら、相川さんがきゅうりとネギ、鷹の爪でさっと和え物を作ってくれました。うん、箸休めにいいなこれ。相変わらずあれもこれもおいしくて、満腹になるまで食べた。もう動けない。
いや、だから。動けなくなるまで食べるのは自分でもどうかと思う。でもおいしかった。中華料理が世界三大料理に入るのわかるよなー。でもフランス料理は一、二度しか食べたことはないからわからない。フランス料理はソースが決め手なんだっけか。
「とてもおいしかったです……ごちそうさまでした」
後片付けは俺がしなくては。つっても、相川さんは料理を作っている端から片付けもしていってしまう人だからほとんど洗い物なんてないんだけどな。どこまでイケメンだというのか。
「相川さんて、いろんな料理を知ってますよね」
「ええまぁ、食べるのが好きなので自分の家で作れるものがないかなとレシピ検索とかをしていたらいつのまにか、ですね」
好きこそもののってやつなんだろう。
「料理の本とかも揃えてるんですか?」
「はい。といっても一冊の中でも作る料理ってそんなにはないんですけど」
「そうなんですか?」
「好みってものもありますから」
「それは確かにそうかもしれませんね」
俺なんかちょっとでも面倒だと思ったら作らないしな。相川さんの場合はそんな理由じゃないか。
なんだかんだ言って、相川さんは料理をするのが好きなんだろう。
サラダチキンもそうなんだが、松山さんのところへは近々顔を出す必要はあるだろう。いつ行こうかという話になって、そういえば養鶏場には桂木さんたちも誘った方がいいのだろうか。まぁ、桂木さんたちに関しては松山のおばさんに連れて来てと言われたら連れて行くことにしよう。勝手な判断は禁物だ。
とりあえずはシイタケとサラダチキンの件である。相川さんがいてちょうどいいので松山さんに連絡を取ることにした。
昼過ぎだったがおばさんが出た。
「こんにちは、佐野です」
「あら、佐野君。元気?」
「はい、おかげさまで」
サラダチキンはスモークを5つ、ハーブを5つ、プレーンを10個ほどトータルで頼んだ。一パックが意外とでかいのだ。
「意外と人気そうでよかったわ。そうねぇ、三、四日もらえると助かるわね」
「ありがとうございます。ではその時に相川さんと伺います」
「ああ、シイタケをいただけるんだったっけ? ありがたいわ~」
おばさんは上機嫌だった。四日後の昼頃、相川さんと共に向かうことにした。シイタケはとりあえず10kgほどほしいと言われてしまったので相川さんは当日の朝に必死で収穫作業をするらしい。形がいびつだったり、商品にならなさそうなものを引き取ってくれると言われ(もちろんお金かそれに変わるもので払ってくれるそうだ)、相川さんは苦笑した。
「もうそんな段階じゃないんで、片っ端から詰めて持っていきますね」
電話を代わってそんなことを言っていたから、本当にシイタケの量には困っているのだろう。でも道の駅に出すのは嫌みたいなんだよな。道の駅ってそういえばどこにあったっけ。
おやつの時間になって、リンさんとユマが帰ってきた。バケツにはアメリカザリガニがいっぱい入っていた。
やっぱりまだいるのかよと脱力した。それでもリンさんやテンさんが食べてくれるのだから心強いと思った。本当にありがとうございますと思わず頭を下げてしまったのだった。
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