461.またおっちゃんちには行くことになるかも

「シイタケなんていくらあっても困らないわよねぇ。もう一袋分ぐらいお願いしてもいいかしら」

「はい、相川さんに伝えておきます」

「相川君が来る時に昇ちゃんもいらっしゃいね。ごはんを食べていきなさい」

「いいんですか?」

「あら? それともおばさんの料理は口に合わないかしら~?」


 おばさんが意地悪そうに笑っていう。俺はぶんぶんと首を振った。とんでもない!


「おばさんの料理は最高ですよ! いつもこんなにおいしく食べてるじゃないですか!」

「そうねぇ、昇ちゃんはいつもおいしそうにいっぱい食べてくれるわよね。だからごはん食べにきなさいね?」

「……はい、お言葉に甘えます」


 おばさんの気遣いとごはんには逆らえない。なんで田舎のおばさんたちが作る料理はどれもおいしいのだろうか。また山での活動を増やさなければならないと決意した。


「あ、そうだ。そういえばこのタケノコってどちらで……」

「お隣の娘さんがね、よかったら~って鍋いっぱいに持ってきてくれたのよ。おかげで最近ずっとタケノコなの。昇ちゃんも煮たの持ってく?」

「煮たものだと、すぐに調理できるかんじですか?」

「ええ、何かと煮ても炒めてもすぐに食べられるわ」

「じゃあ、いただいていきます。おっちゃんちは……」

「うちは竹はねえんだよな。生やしたらたいへんだから生やしてねえし。だから昇平んとこに掘りに行くわ」

「うちはいつでも。一応声かけてもらえれば」

「ああ、声はかけるよ」


 山は寒いからタケノコもなかなか出てこなかったりする。でもそろそろだしな。うちのニワトリたちも湯がけば食べるから掘ろうと思っている。


「ところで昇平、春だな」

「そうですね」


 言いたいことはわかったが俺はそっぽを向いた。


「昇平」

「……ニワトリの餌分ぐらいしか捕れませんよ」

「そっかー……」

「マムシはもうダメよ」


 おばさんもよくわかっている。


「いいじゃねえか。毎年漬けたいものなんだよ」

「あれだけマムシ酒だのハチ酒だの作ってまだ足りないの!?」

「飲み始めたら一瞬じゃねえか!」

「そんなにがぶがぶ飲むものじゃないわよ!」


 触らぬ神に祟りなし。俺は苦笑しながら蕎麦を啜った。夫婦喧嘩もいつものことかもしれないが、見せられる方は困ってしまう。だけど気にしてはいけないのである。


「あ、あら……昇ちゃんごめんなさいね……」

「昇平、すまねえな……」


 俺の存在を思い出してバツが悪そうにしているのを見るのもアレだ。


「おっちゃん、蕎麦打つ腕上がったんじゃない? この蕎麦、いつもよりおいしいよ」

「そ、そうか?」

「おばさんのきんぴら、いつ食べてもおいしいですよね。俺が作ってもここまでうまくできなくて。やっぱおばさんのが最高だな~」

「あら~、嬉しいこと言ってくれるわねぇ。褒めても何も出ないわよ」


 なんて言いながらいそいそと冷蔵庫からタッパーを出してくれる。おかげでうちの夕飯も安泰だ。好きだとか、いいなと思ったことはどんどん口に出した方がいい。俺が元いた場所よりも、ここの人たちは純粋だからできるだけ言葉にするようにしている。

 一応腹の探り合いとかはあるんだろうけど、それは別のことだろう。

 お土産におっちゃんが打った蕎麦、天ぷらの残り、きんぴらごぼうにタケノコを煮たものをいただいた。タケノコ、どうやって食うかな。

 帰宅してぱりんぱりんに乾いた洗濯物を取り込みながら考える。ちなみにニワトリたちは帰宅してすぐにツッタカターと遊びにいった。おっちゃんちの畑で何してたんだろうな。害虫とか食ってたんだろうか。

 ユマは俺の近くで草をつついている。平和な光景だ。だから俺は縁側で洗濯物を畳んだ。

 この庭部分の雑草も生えてきたから刈らないといけない。明日辺り刈るか、と思ったけどまずは相川さんに連絡しないと。ついでにタケノコの調理法でも聞くことにしよう。


「シイタケはあと一袋分ほしいと湯本のおばさんが言ってました。持ってくる時にごはんを食べていけとの伝言です」


 相川さんにLINEを送ったらすぐに返事がきた。


「わかりました。佐野さんも一緒ですよね?」

「はい。俺も行きます」


 相川さんと俺はワンセットらしい。相川さんは料理もうまいしおばさんとよく料理の話はしているけど、やっぱり馴染みという点ではクッションが必要なのかもしれない。あと、相川さんはまだ女性が苦手なままだしな。


「どーにかなんないのかな……」


 え? 人のことじゃなくてお前はって? 俺はいいんだよ。ニワトリいるし。

 そうじゃなくたって兄貴んとこも姉ちゃんとこも子どもいるんだから、俺が一生独身でも問題はないはずだ。


「タケノコを煮たのをいただいたんですけど、いい調理法ってないですか?」


 思い出してLINEを再度送った。


「鶏肉とかと煮たらどうでしょう」

「ありがとうございます」


 うちのニワトリじゃないぞ。うちのニワトリを絞めようとしたら俺が餌になるしなー。

 養鶏場から鶏肉も買ってきておいてよかったと思った。サラダチキンの感想も送られてきたから、後で松山さんに電話することにした。

 やっぱりなんか忙しい気がするけどなんでだろう?

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