一年経ってからの五月

462.五月になるので

 タケノコは鶏肉とシイタケと一緒に煮た。だしとみりんと醤油を入れただけなのになんでこんなにうまいんだろう。調子に乗って大鍋で作ったので明日も楽しめそうだ。

 翌日からは五月である。今年はGWが1日から五連休らしい。俺らには全く関係ない話だ。

 関係があるといえばあるのか。不法投棄増えるもんな。いい迷惑である。

 もう勤め人じゃないから連休は厄介でしかない。それでも今年は元庄屋さんの息子の山倉圭司さんたちが来るからちょっと楽しみだった。さすがに連休いっぱい来るわけではない。後半の三~五日で来るということで買い出しをしなければ。お昼ご飯ぐらいはこちらで準備するからだ。

 来るのは圭司さんと息子の将悟君である。将悟君はうちのユマが気に入ったみたいだった。よかったよかった。

 GW中はみんななんだかんだと忙しくなる。でも買物ぐらいは行けるんじゃないかなとまた相川さんにLINEを入れた。


「N町に買い出しに行くんですが、一緒にどうですか?」


 一人で行ってもいいんだが一応聞いてみる。


「明日ですか?」

「はい」

「人多そうじゃありません?」

「多いかもしれません」

「どうしようかな」


 相川さんは逡巡している様子だった。そうだよな。五連休の初日とかあんまり外出たくないかもな。


「必要な物があれば買ってきますけど」

「いえ、一緒に行きます。でも連休なのでリンは連れて行きません」


 そうだ、そういう問題があった。ちら、とユマを見る。ユマは視線に気づいたのか、コキャッと首を傾げた。

 うちのニワトリかわいすぎる。

 じゃなくて。


「ユマ、俺明日買物に出かけるけど、みんな留守番してくれな?」

「ワカッター」

「ワカッター」

「ナンデー?」


 ポチとタマは買物には興味がない。村の中なら荷台から下りることもできるが、N町では軽トラから下りられないからだ。


「えーとな……」


 どう説明したら伝わるだろう。それとも麓まで下りておっちゃんちに預かってもらうか? いや、いくらなんでもそれは迷惑だろう。どうしたもんかな。


「N町へ買い出しに行くんだけど、リンさんはこない。それから、この時期は変な人が多い」


 春うらら……な変人さんホイホイな時期は終っていると思うが、でっかいニワトリを見てちょっかいをかけようとする人がいないとも限らない。ユマが誘拐されるとかそういう心配は全くしていないが、写真を勝手に撮られたり、ユマを怒らせたりしてユマから危害を加えるなんてことになったらたいへんだ。怪我をさせた方に非があることになってしまうから、ユマが可哀想なことになってしまうかもしれない。

 だから今回は絶対連れて行けない。


「ユマ、今の時期は……山を出たら人が多いんだ。その中には悪い人もいる。ユマをさらわれたりしたくないからここにいてほしいんだ」

「ンー?」


 ユマはまたコキャッと首を傾げた。ちょっとユマには難しかったかもしれない。


「タマ~。ユマに説明できるか? 俺、ユマが心配なんだよ」


 ココッとタマが鳴き、任せろとばかりにクンッ! と頭を上げた。タマ姐さんさまさまである。

 タマは小さな声でユマにココッココッと説明をしてくれたみたいだった。


「……ワカッター」


 ユマがしょんぼりしながらも納得してくれたみたいだった。タマ姐さんさすがです。足向けて寝られません。


「タマ、ありがとなー」

「サノー、ポンコツー」

「……どこで習ったんだその言葉……」


 内心褒めたらこれである。ポンコツなんて言葉が出てくる番組あったっけか? 俺は首を傾げた。

 そんなわけで、翌日は三羽とも留守番と決まったんだが。



 ガタガタッ、ガタガタッという音で俺は目を覚ました。


「? 地震か?」


 スパーン! と部屋の襖が開く音がして飛び起きた。


「……タマ」


 タマは俺が起き上がったのを見ると、フイッとそっぽを向いて何事もなかったかのように戻って行った。

 朝から心臓に悪い。


「閉めていけ!」


 冷気が入ってきて寒いだろ! 廊下の冷気はそのまんまなんだぞ!


「……なんで今朝は起こされたんだよ。タマは出かけないじゃないかよー」


 顔を洗ったりなんだりしてから居間兼台所兼土間に行ってぼやくと、いつも通り卵が落ちていた。


「タマ、ユマ、ありがとうなー」


 卵大事。めちゃくちゃ大事だ。大事に拾って卵用の籠に入れた。まだ孵化を狙うのは早いよな。五月になったばかりだから朝晩寒いし。

 って、そんな風に卵を産んでもらったりしているといつまでも怒ってはいられない。まだ待ち合わせの時間には早いからとみそ汁を作ったりし、ニワトリたちにごはんを出した。まだ心なしかユマがしょんぼりしているように見える。


「俺さー、ポチもタマもユマのことも大事だから、今日は聞き分けてくれよ?」


 ユマの羽をできるだけ優しく撫でた。

 餌を食べた後、三羽は遊びに出かけた。ポチとタマはいつも通りツッタカターと行ってしまったが、ユマは俺を何度も振り返った。やヴぁい、かわいい、連れて行きたい。でもトラブルを引き寄せるのは嫌だ。ユマが見世物にされるとか論外だ。

 心を鬼にしてユマのことも見送った。

 今日の持ち物はでっかいクーラーボックスだ。助手席にユマがいない、それだけでなんだかとても寂しい。


「ユマ~、すぐ帰るからな~!」


 やっぱりユマが助手席でもこもこしててくれないと嫌だ。ユマのおやつは何がいいかななんてスーパーで悩むのも楽しい。


「くそっ、ゴールデンウィーク許すまじ!」


 何に悪態をついているのかわからないまま、相川さんと合流してN町へ向かったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る