460.話し相手ぐらいしかできないけれど

 天気予報は今日も晴。

 0%の快晴だ。これで雨が降ったら気象庁に苦情を入れてやる。そんな晴の日である。

 洗濯物を干してから出かけた。タマが早く起こしてくれたおかげでいろいろやる時間はあった。タマの起こし方はどうかと思うが、いいんだか悪いんだかよくわからない。まぁ足の上に乗られる程度なら、とは思うのだが、これ以上巨大化されたらと思うと許可するわけにもいかないのだった。

 雑貨屋で煎餅を買った。ついでにサラダチキンの売れ行きを聞いたらそれなりに売れているという。


「あんなササミみたいなもの、何がいいのかと思ったけどね。けっこう便利だねぇ」


 雑貨屋のおばさんがにこにこしながら言っていた。便利にできるところは便利でいいと思うのだ。

 おっちゃんちに向かうと、おっちゃんが外で薪を割っていた。


「こんにちは~。俺、手伝いますよ」

「あと一本だけだからかまわねえよ。ニワトリども、久しぶりだなぁ」


 確かにここのところあまり顔を出していなかったように思う。


「おっちゃん、ニワトリたちは……」

「畑にでも行かせとけ。おい、山は絶対に上るなよ」


 クァーッとポチが代表で返事をし、みな畑の方へ駆けて行った。


「随分でっかくなったなぁ。去年はまだこれぐらいだったか?」


 おっちゃんが両手で30cmぐらいの幅を作った。俺は首を傾げた。


「うーん、多分もっとでかかったかも?」

「昇平んとこのニワトリは規格外だよなぁ。餌代、かなりかかるようになっただろう?」


 俺は苦笑した。


「うん、でも必要経費だから」

「だよなぁ」


 おっちゃんはパッカーンとうまく薪を割り、玄関の横の倉庫に入れた。玄関を開ける。


「おーい、昇平来たぞー」

「上がって上がってー」


 おばさんの声がかかった。


「お邪魔します」


 これ、と出てきたおばさんに相川さんから預かったシイタケと煎餅を渡した。


「もー、手土産はいらないって言ったでしょ。本当に昇ちゃんはしょうがないわねぇ。あらまぁ立派なシイタケだこと!」


 袋からシイタケを出して確認し、おばさんは嬉しそうに言った。


「相川さんが、もっといるならいくらでも声をかけてって言ってましたよ。なんか、原木を設置しすぎたらしくて」

「ああ……つい調子に乗ってやっちゃったのね~。原木だとシイタケができるまでに何年もかかるから、ついつい準備しちゃったりするのよ~」

「……そういうものなんだ……」

「土地が余ってりゃあそうなるわな」


 おっちゃんがガハハと笑った。お茶と漬物が出された。


「あれ? 野沢菜漬けなんて珍しいですね」

「息子が送ってくれたのよ~。糠漬け以外も食べたらって。絶対あけちゃんが気を使ってくれたんだわ」


 確かに野沢菜は自分ちでは漬けないよな。うんうんと納得した。お嫁さんさまさまである。


「息子なんて全然電話もくれないしねぇ。昇ちゃんは遠慮なくいつでも顔を出してちょうだい」

「はい、お言葉に甘えます」


 息子さんたちの代わりにはとてもならないけど、話し相手ぐらいはできるかもしれない。主に聞いてるだけだけど。


「ポチちゃんたちは?」

「全員今畑に行ってます」

「全員来たのね。じゃあ野菜用意しておくわね~」


 最初の頃はくず野菜とかだったけど、今はそれ以外にも普通の野菜も用意してもらっているのが申し訳ないと思う。


「あ、捨てる部分とかでいいですよ」

「いっぱいあるから気にしなくていいわよ~。捨てる部分も混ぜるしね」

「ありがとうございます」


 以前は畑に穴を掘ってそのまま入れていたりもしていたみたいだが、イノシシに目をつけられてからはしっかり埋めているみたいだ。


「そういえば最近はイノシシ被害ってどうなんですか?」

「ここ最近はないわね。陸奥さんたちもそうだけど、ポチちゃんたちには頭が上がらないわ」

「それならよかったです」


 今日のお昼ごはんはおっちゃんが打った蕎麦を中心として、野菜の天ぷらが大皿で出てきた他、ほうれん草のお浸しや小松菜の煮浸し、タケノコと厚揚げの煮物、がんもどきの煮つけ、炒り豆腐、きんぴらごぼうなどが出てきた。最近豆腐屋行ったのかなと思うラインナップだった。


「おい……いくらなんでもこんなに食えねえだろ……」


 おっちゃんが苦笑した。


「そうねえ、久しぶりに昇ちゃんが来るからってつい作りすぎちゃったわ。でも余ったら持って帰ってもらえばいいじゃない」


 おばさんがあっけらかんと言う。ありがたい話だと思った。きんぴらは二日目らしくよく味がしみていておいしい。煮物って作ったその時もうまいけど二日目とかめちゃくちゃうまいと思う。

 さっそく相川さんからもらったシイタケで天ぷらを揚げてくれた。だからなんでこんなにうまいのか教えてほしい。タケノコもそういえばそんな季節だった。


「タケノコ、そろそろ採れます?」

「山の方はどうだろうなぁ」


 まだ寒いかななんて言いながら食べられるだけ食べた。タケノコも採れたてならさっと湯がいただけで食べられたりする。山の下の方に竹林があるから朝方行ってみようかな。

 どの料理も相変わらずおいしかった。

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